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梶裕貴が声優界にはせる夢 “プロフェッショナルな部分を世界に知ってもらいたい”【伊藤遼の声優 一答遼談】

2022年12月23日 22:45
梶裕貴が声優界にはせる夢 “プロフェッショナルな部分を世界に知ってもらいたい”【伊藤遼の声優 一答遼談】
アニメやマンガが大好きな伊藤遼アナウンサーが声優・梶裕貴さんを深掘り
人気アニメ『進撃の巨人』の主人公・エレン・イェーガーや、『僕のヒーローアカデミア』の轟焦凍(とどろき・しょうと)などで知られる、声優の梶裕貴さん(37)。アニメだけでなく、ドラマやバラエティー番組でも活躍するトップ声優です。

映画『かがみの孤城』(公開中)にも出演する梶さん。その映画を手がけた原恵一監督(63)と共にインタビューに応じてくれました。アニメ業界を長く知る2人は声優人気の現状をどう考えているのか。“アニメ・声優オタク”の私、伊藤遼がお話を聞いてきました。

【梶裕貴プロフィル】
1985年、東京都生まれ。声優アワードでは2012、13年度に主演男優賞を史上初の2年連続で受賞。声優だけではなく、舞台や朗読劇、テレビ番組など幅広く活躍。妻は2019年6月に結婚した声優の竹達彩奈さん。

【原恵一プロフィル】
1959年、群馬県生まれ。2002年公開の『映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』や2007年公開の映画『河童のクゥと夏休み』で日本の数々の賞を受賞。2018年には紫綬褒章を受章。アニメーション監督としては、高畑勲監督、大友克洋監督に次ぐ、史上3人目の快挙を成し遂げ、国内外から注目される。

■人気声優・梶裕貴の下積み時代「お芝居させてもらえる場所があるだけで…」

――梶さんが声優を目指したきっかけはなんですか?

梶:僕は中学2年、14歳の時に声優を目指し始めたんですけど、小さい時からとにかくいろんな夢を持っている子供で、その夢に向かって頑張ることが好きで、でも一つのことにのめり込むと、とにかくそれに集中してしまう。極端だったんですね。授業や友達と遊ぶ中で、その都度夢が切り替わっていたんです。(学生時代に出会った)声優の大先輩のお言葉で“声優という仕事は何を頑張っても全部自分の力になる職業だよ”というのを聞いて、なんでも興味があって挑戦したい自分にとって、すごくピッタリな仕事なんじゃないのかなと思って、それから夢が変わらなくなって声優になることができましたね。


――夢である声優になってから一番の苦労は?

梶:お芝居する上で上手く(演じることが)できないことは自分に原因があったり、力不足というのは仕方がないというか。ダメ出しとか、そういう意味での壁はウエルカムなんですけど、その権利すらなかった下積み時代のお芝居する機会が欲しくても、それがないときがすごくフラストレーションがたまって…。(声優の)お仕事があれば、それに最優先に駆け付けたいんですが、それも本当に2か月に1回あるかないかとか。オーディションも事務所の先輩方が大活躍されていて、自分までチャンスが回ってこなかったりするので、やりたくてもやれないという時間が一番歯がゆかったですかね。その時の思いがあるから、今も多少つらいことがあっても、お芝居させてもらえる場所があるんだっていうだけで、前向きになれるぐらいにその時はすごくしんどかったですね。


――そのつらい時期をどう乗り越えましたか?

梶:養成所やワークショップで、“いつかちゃんと声優になって、今までの夢をかなえて、自分のやりたかったお芝居をしようね”って励まし合っていた仲間たち。当時は向こうの方がレギュラー早くつかんでいたとか、そういう意味での悔しさはありましたけど、それが励みになって、自分もそれに追いつきたいし、追い越したいしっていうところで、お互いが切磋琢磨して今があると思うと、仲間の存在は大きいと今改めて感じますね。


――仲間の存在、具体的には?

梶:養成所が同じで同期っていう意味合いで言うと前野智昭くん。お互い仕事があるかないかぐらいのタイミングから一緒にレッスンを受けて、少しずつやってきた仲。数年前に初めて2人でダブル主演みたいな形のアニメをやらせてもらった時は、“あの頃考えると信じられないね”みたいな話をして、すごくうれしかったですし、彼の存在っていうのは現場で一緒になると安心感がある。すごく励みになる“相棒”みたいな感覚はありますね。

■『かがみの孤城』で多感な中学生を演じる「自分の中学生時代の心の繊細な部分を思い出して」

現在公開中の映画『かがみの孤城』。2018年に本屋大賞を受賞した辻村深月さん原作のベストセラー小説をアニメ化した作品です。 “鏡の中の城”に集められた主人公たちがどんな願いでもかなうという鍵を探す物語です。原監督が指揮を執り、梶さんは城に迷い込んだ7人の中学生のうちの1人、“ウレシノ”を演じています。


――梶さんは中学生を演じるにあたり、どのような役作りをしましたか?

梶:自分の中学生時代の心の繊細な部分っていうのを思い出しながら演じていった形です。辻村深月さんの原作が、子供たちの心を丁寧に描いていて、すごくリアリティーのある作品だなと感じたので、自分の中学生時代っていうのを引っ張り出して、ウレシノ君との共通点を探しつつ、“彼だったらこういう風に思うかな?こういう風に表現するかな?”というところから糸口をつかんでいきましたね。


――原監督は梶さんの演技をどうご覧になりましたか?

原:(7人の中学生の中で)ウレシノ君っていうのは表情豊かな子なんですよね。起伏が他の6人に比べて大きいキャラクターなので、梶さんの登場を狙うしかないんじゃないかと。

梶:うれしいですね。

原:女性キャラクターを10代の子たちが演じていて、リアリティーのあるお芝居だったんですね。だから、アニメのキャラクターらしさを強く出し過ぎると、なじみが悪いのではということで、梶さんにもリアルめの中学生というのを意識してやってくださいっていう話でしたよね。

梶:そうですね。会話もあまりハキハキしゃべったりとか、きれいにしゃべったりするよりも、自分の中ではある程度崩して、日常会話の延長線にあるという意識でセリフは言っていましたね。

原:何か所か彼(ウレシノ)の優しさがにじみ出るセリフがあるんですけど、そこはうまかったなと思いますね。

梶:わーうれしい。

■梶裕貴が夢見る、これからの“声優”とは

最後に、40年近くアニメ業界を見てきた原監督と、声優界の第一線を走る梶さんにこの質問をしてみました。


――声優人気の現状についてどう思いますか?

原:そんな(人気の)時代が来るとは想像もしていなかったんですが…。僕がアニメ業界に入ったころなんて、国内消費のアニメーションを細々と作っていて、海外に比べると手抜きのアニメを作っているっていう世界だったので。いつの間にか世界一アニメーションを作っている国になって。


――梶さんはいかがですか?

梶:声優の仕事の幅っていう意味でもアニメ・吹き替えだけじゃなくて、ナレーションやラジオ、人によってはアーティスト活動や舞台、ミュージカル、ドラマ、いろんな方向に広がって、僕も最初に持っていた声優のイメージからすると、だいぶ変わったなという印象はあります。現場にある作品をいいものにしたいという気持ちは当然変わらないわけですし、僕個人としては声でのお芝居が好きで、それをしたいという思いがあります。声優という仕事にリスペクトを持った上で、いろんなことに挑戦するというのは、すてきなことかなと思います。日本だけでなく世界でもアニメ・声優という文化が広まって、応援してくださっていると肌で感じているので、世界でもっともっと、アニメーションの面白さ、すごさ、声優という職業の持つ技術力やプロフェッショナルな部分を認知されていったらうれしいなっていう思いはありますね。

【お話を聞いて一答遼談!(編集後記)】
現在の声優界を引っ張る存在である梶裕貴さん。そんな梶さんにも下積み時代があって、その時の経験が、“声優・梶裕貴”の力の源になっているのだと感じました。共に乗り越えた仲間に前野さんの名前が出てきた時は、個人的にテンションが上がりました(笑)

今回のインタビュー中、梶さんは常に楽しそうに話をしてくださいました。特に「声優という職業のもつ技術力やプロフェッショナルな部分を世界にもっと知ってもらいたい」という話をしているとき、瞳は夢を語る少年のようにキラキラと輝いていたことを覚えています。梶さんが声優という仕事にリスペクトを持って、誇りを持って向き合っていると強く感じました。

そして今の声優業界があるのは、原監督や多くのアニメーターが日本のアニメのレベルを押し上げたからだと改めて思いました。原監督が「こんな時代が来るとは」と言った時のうれしそうな表情は忘れられません。一アニメオタクとして感謝の気持ちでいっぱいです。

企画・取材:日本テレビ 伊藤遼

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