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【取材ルポ】「“DX”ってどうやるの?」悩める企業を国が後押し!「えらい所に来てしまった…」企業も驚きの変革 “異例の仕掛け”でノウハウ伝授

2025年3月30日 3:00
【取材ルポ】「“DX”ってどうやるの?」悩める企業を国が後押し!「えらい所に来てしまった…」企業も驚きの変革 “異例の仕掛け”でノウハウ伝授
近畿経済産業局によるセミナー、会場は満席だった

 今回、特集するテーマは、『DX(デジタルトランスフォーメーション)』。

 「あなたの会社は“DX”進んでますか?DXで大きな成果をあげていますか?」と聞かれて、返答に困ってしまう人は多いのではないだろうか。

 企業のDXに関するあるアンケート調査では、「全社的にDXに取り組んでいる」と答えた企業は全体の37.5%。従業員100人以下の企業では14.3%にとどまっている。(情報処理推進機構「DX動向2024」より)

 「やってはみたいが、何をどうすればいいのか…」

 そんな悩みを解消するユニークな取組みが、このほど関西で行われた。

 内容の紹介に入る前に、一つ問いを用意したので考えてもらいたい。


 ■問い『DXって何をすることですか?』


 「デジタルツールを導入し、業務をシステム化すること」などと回答されることもあるが、定義としてはもっと大きな枠組みのようだ。答えは後述するので、いま一度考えながら読み進めていただきたい。

 3月19日、とあるセミナーが大阪で行われた。

 タイトルは「The DX Day―未来への一歩を踏み出す!デジタル時代における変革セミナー」。企業の担当者150人ほどが参加し、会場は熱気に包まれていた。中小企業を対象に"先進事例"を紹介するなど従来型のプログラムも用意される中、メインのプログラムには、あるユニークな仕掛けがあった。

 セミナーを主催したのは、経済産業省近畿経済産業局。国の省庁の中で、企業のDXを推し進める旗振り役だ。

 今回、経済産業局が取り組んだのが、企業のDXに“伴走”するというもの。補助金などによる支援ではなく、「こうやってDXを進めよう」という具体的な方針の策定を個別にサポートするのだ。

 まず、経営課題を抱えた中小企業を抽出し、“モデル企業”に選定。近畿経済産業局の担当者と専門のアドバイザーらがゼミ方式でDXの何たるかをレクチャーし、モデル企業の担当者と共に方向性を議論し練り上げていく。

 産業局が特定の企業のアウトプットを1対1で支援するのは珍しいが、他にもDXに興味のある企業・団体がオブザーバーとして議論に参加できるという異例の仕組みが設けられた。これによりオブザーバーは、モデル企業での議論を通じて自社への導入イメージを膨らませることができ、モデル企業だけでなくオブザーバー企業にも学びを与える一石二鳥の取組みとなった。

 (近畿経済産業局・竹村祐樹総括係長)
 「DX実現に向けた課題としては、『何から始めて良いかわからない』『何をすれば良いかわからない』という悩みだと感じている。モデル企業が難しい取り組みに挑戦すること、そしてそれを1社だけではなく、オブザーバー企業含めた“共創”によって実現に向かってもらえるように『挑戦と共創が生まれる場所づくり』をコンセプトにした」

■ITツールを使うことではない…DXの本質

 今回、関西に拠点を置く3つの企業がこのプログラムに挑戦した。そのうちの1社が、京都にある防犯カメラシステムの製造・販売業者「ケービデバイス」だ。

 防犯カメラ業界は新規参入企業の増加により価格競争が厳しくなっていて、ケービデバイスは新たな市場の開拓を迫られていた。所属する企業団体の関係者から「近畿経済産業局のDXプログラムに挑戦しないか?」と声をかけられ参加することになったという。

 プログラムは去年11月から始まり、2月までの4か月で「DXによる新規事業の構想をつくる」ことが目標と定められた。

 初回の打ち合わせで、民間のアドバイザーが用意した資料には「デジタル時代に実現したいこれからのビジネス、その世界観を創る」と記載されていた。

 (DXパートナーズ ・村上和彰さん)
 「アマゾンやウーバーのような“デジタル破壊者・変革者”と呼ばれる企業が業界の常識、ルールをゲーム中に変える時代。デジタルを“前提”としたビジネスモデルを構築しないと勝てない」

 DXとは、ただITを導入して業務を効率化するといったことだけにとどまるものではなく、デジタル技術の活用を前提として新たなビジネスモデルを構築するという事業の根幹・経営者や従業員のマインドから変革することだと説明された。

■「えらいところに来てしまった」

 ケービデバイスの商材は、防犯カメラシステム。

 一部のシステムではAI(人工知能)を導入し、侵入検知・徘徊検知などができるようになっていて、「デジタル技術を使う」ことは意識できているが、ビジネスモデルそのものをプログラムで求められることに面を食らってしまったという。

 (ケービデバイス・髙山聡司取締役部長)
 「えらいところに来てしまったと思った。そんなところから考えるのかと」

 では、どのようにデジタル前提のビジネスモデルを発想していくのか。プログラムの中では、以下の6つの"創造"をもとに進んでいった。

  ・「場」の創造
  ・「顧客」の創造
  ・「顧客価値」の創造
  ・「稼ぎ方」の創造
  ・「回し方」の創造
  ・「成長」の創造

 例えば、「場」の創造。デジタルを前提とすると、顧客同士をつなげる“場”を提供することがビジネスになる。配車サービスのプラットフォームなどを提供するUberがまさにその例だ。

 「顧客」の創造も重要なポイントとなる。現状、防犯カメラシステムは「犯罪に遭わないことを求める人」がメインユーザーだが、アドバイザーは「デジタル時代では今まで顧客だと思わなかった層が顧客になる」と説明した上で、「例えば、犯罪者や犯罪予備軍が顧客にならないか?」と提案してみせた。

 「場の創造」も「顧客の創造」も自社の事業をゼロから見直すもの。闇雲に考えても難しいのは当然で、顧客の現状と理想を考え直すフレームワーク(枠組み)などを活用しながら、コンサルタントやオブザーバー企業の担当者も交えた10人ほどの参加者らが4か月をかけて議論を重ねていった。

■デジタル時代の新たなビジネスモデルは?

 冒頭の大阪で行われたセミナーは、プログラム参加企業の成果発表の場でもあった。

 ケービデバイスも「犯罪予知に関するプラットフォームビジネス構想」を発表した。すぐに実現可能なものではないが、新たな“場”の創造をDXの主眼におき、「デジタル時代で競争力のあるビジネスモデルは何か」という問いにゼロから向き合った。

 (ケービデバイス・髙山聡司取締役部長)
 「デジタル時代には解決すべき顧客の問題も変化している。独自の経済圏を作りたい」

 プログラムを通じてDXの本質を理解し、新たな収益源の構築に向けて会社全体での検討が始まったという。

 「ITのツールを使ってこんな業務効率化をしましょう」というレベルにとどまっていては、ここまで発想することはなかったであろう。

 
 ここで冒頭の質問「DXって何をすることですか?」に関する回答を紹介したい。

 経済産業省の定義は、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」 である。

 簡略化させると「デジタル時代において、ビジネスモデルや社風を変革すること」、それがDXの本質だ。「本質を理解した上で実践するとどんな効果があるか」、今回のプログラムやセミナーを通じて主催者が伝えたかったポイントだろう。

 成果発表の後、会場では大きな拍手が沸き起こった。課題を抱える企業同士、モデル企業3社への慰労と「次は自分たちが…」との決意の表れだったのかもしれない。

最終更新日:2025年3月30日 3:00
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