【全文公開】天皇陛下65歳誕生日 記者会見(前半)戦後80年の節目、戦争犠牲者や苦難経験した人に「改めて心を寄せていきたい」
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天皇陛下は23日、65歳の誕生日を迎えられました。誕生日にあたっての記者会見は20日、皇居・宮殿、石橋の間で40分間、行われました。全5問と関連質問のうち、撮影が許された1問目から3問目までの記者会見の全文を紹介します。
◇本文
【問1】今年は戦後80年です。戦後生まれの人が大半を占める今の時代、天皇陛下は戦争の歴史と、どう向き合い、象徴として、どのように役割を果たしていきたいとお考えでしょうか。
陛下)今回の誕生日で私は65歳になりますが、戦後80年という年月を考えると、私が生まれる15年前までは戦争の時代であったということになります。両親である上皇上皇后両陛下は、幼少時を戦争と共に過ごされたわけで、日本において80年間、平和の時代が続いていることを有り難いことと思います。
先の大戦においては、世界の各国で多くの尊い命が失われたことを大変痛ましく思います。我が国の人々についても、広島や長崎での原爆投下、東京を始めとする各都市での空襲、沖縄における地上戦、硫黄島や海外での激しい戦いなどで多くの尊い命が失われました。
終戦以来、人々のたゆみない努力により、今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが、亡くなられた方々や、苦しく、悲しい思いをされた方々のことを忘れずに、過去の歴史に対する理解を深め、平和を愛する心を育んでいくことが大切ではないかと思います。
昨年、日本原水爆被害者団体協議会がノーベル平和賞を受賞されました。長年にわたって活動を続けてこられた方々の御苦労に思いを致しつつ、平和な世界を築くために、お互いの理解に努め、協力していくことの大切さを改めて感じております。
私と雅子は、これまで広島、長崎、沖縄などを訪れ、多くの方々の苦難を心に刻んできています。今年、戦後80年という節目を迎え、各地で亡くなられた方々や、苦難の道を歩まれた方々に、改めて心を寄せていきたいと思っております。
そして、戦争の記憶が薄れようとしている今日、戦争を体験した世代から戦争を知らない世代に、悲惨な体験や歴史が伝えられていくことが大切であると考えております。戦中・戦後の苦難を体験した方々が高齢となり、当時のことを語り継いでいくことが難しくなっている中、国内各地で若い人たちが戦争を知ろうとし、次の世代の語り部として育ち、戦中・戦後の苦労を語り継ぐ活動が進められていることは、戦後80年を迎える今日、一層意義深いものとなっていると思います。
上皇上皇后両陛下には、これまで様々な機会に、戦争によって亡くなられた方々を慰霊され、平和を祈念されています。私と雅子は戦後生まれで、戦争を体験していませんが、上皇上皇后両陛下の戦時中の御体験のお話など、平和を大切に思われるお気持ちについて、折に触れて伺う機会がありました。愛子も、両陛下から先の大戦についてお話を聞かせていただいております。私は、日本国及び日本国民統合の象徴として、上皇陛下のお気持ちをしっかりと受け継ぎ、常に国民を思い、国民に寄り添いながら、象徴としての責務を果たすべくなお一層努めてまいりたいと思っております。
戦後80年を迎える本年が、日本の発展の礎を築いた人々の苦難に深く思いを致し、平和の尊さを心に刻み、平和への思いを新たにする機会になればと思っております。
【問2】ご自身とご家族についてお尋ねします。皇后さまは英国訪問をはじめ国際親善の活動にも数多く取り組まれてきましたが、最近のご様子と私的な活動を含めた関心を持たれている分野についてご紹介ください。愛子さまはお仕事に励むとともに、皇族として活動の幅を広げられていますが、今後の活動ではどのようなことを期待されますか。愛子さまの結婚について家族で話されていることをお聞かせください。陛下は最近、プライベートな時間をどのように過ごされていますか。
陛下)昨年、雅子は都内や地方への訪問に加えて、英国も訪問し、チャールズ国王王妃両陛下を始め、多くの方々に温かく迎えていただくとともに、長年二人で訪れたいと思っていた懐かしいオックスフォード大学を初めて一緒に再訪することができました。雅子にとっては、実に30数年ぶりのオックスフォードとなり、本人もとても喜び、懐かしがっていました。オックスフォード大学では、以前に私も頂いた名誉法学博士号を雅子にも授与していただき、大変光栄なことと雅子は心から感謝し、私もうれしく、また有り難く思っております。
雅子は、日本赤十字社の名誉総裁として、昨年も全国赤十字大会に出席いたしましたが、各地の赤十字関係者の取組に感謝するとともに、各地で活発に行われている赤十字の活動を心強く感じていることと思います。また、私共々、普段から、国民の皆さんが直面している様々な困難に心を寄せながら、皆さんとの触れ合いの機会を大切にしています。雅子は一つ一つの公務に向けて体調を整えるように努め、心を込めて準備して公務に臨んでいます。私自身も、雅子と一緒にいろいろな方とお会いすることで皆さんとのお話が深まり、様々な気付きを得られるように感じています。また、日頃から世界の国々の情勢や地球規模の様々な課題についても、関心を持つように心掛けています。私と雅子は、今後とも国民の幸せを願い、二人で協力しながら務めを果たしていくことができればと思っております。
また、家族の絆と家族への感謝を感じながら、日々を過ごしております。時間が取れるときには、一緒に散歩に出掛けたり、共に暮らしている犬の由莉や猫のセブンも交えながら愛子と3人で和やかな時間を過ごしています。私たち家族は皆自然が好きで、特に雅子や愛子は生き物が好きですので、御料牧場や那須での静養の折には、一緒に楽しく過ごすことができることを有り難く思います。また、普段の散歩の折には、皇居内の厩舎にいる馬たちや警察犬に会いに行くことも、いつも楽しみにしています。また、初夏には、雅子が取り組んでいる養蚕に、私たちも一緒に携わることも楽しみの一つになっています。
雅子には、これからも、体調に気を付けながら、できることを一つ一つ着実に積み重ねていってほしいと思っております。愛子は、昨年4月に日本赤十字社での勤務を始めてからまもなく1年が経ち、社会人として2年目を迎えようとしています。職場では、周囲の方々に温かく御指導いただき、皆さんと協力しながら精一杯仕事に取り組んでいる様子に、社会人として一歩一歩成長しているのではないかと思います。愛子は、日々の仕事を行う中で、ボランティア活動や防災の分野などにも関心を深めているようです。これからも、多くの経験を重ねながら視野を広げ、更に成長していってほしいと願っています。
また、昨年10月には、初めて単独での地方の公務として国民スポーツ大会のために佐賀県を訪問し、各地で多くの方々に温かく迎えていただきました。今後、皇族としての仕事の幅も広がっていくのではないかと思いますが、今年は戦後80年という節目を迎え、愛子にも、戦争によって亡くなられた方々や、苦難の道を歩まれた方々に心を寄せていってもらいたいと思っています。愛子には、引き続き、感謝と思いやりの気持ちを持ちながら、皇室の一員として一つ一つの務めを大切に果たしていくことを願っています。皆様には、これまでも雅子や愛子に温かいお気持ちを寄せていただいていることに、心から感謝しております。今後とも温かく見守っていただければ幸いに思います。
私のプライベートな時間の過ごし方については、日頃は、皇居内でジョギングをしたり、雅子と一緒に散策をしたりするなど、四季の移ろいを感じながら、健康のための運動を行っています。また、最近はなかなか練習の時間を取りにくくなってはいますが、ビオラやバイオリンの練習も少しずつ続けています。ピアノを弾くこともありますが、ビオラを始め、音楽からは多くの癒やしと力をもらっているように思います。
登山にも関心を持ち続けています。山小屋に泊まっての登山というのはなかなか難しいかもしれませんが、今後とも、時間が許せば近くの山に登るなどして、日本の自然の美しさに触れられればと思っています。また、山には、古来、人々が信仰や生業など様々な目的で通った道があります。小学生の時に、私が住んでいた赤坂御用地に鎌倉時代の街道が通っていたことを知り、道の歴史に興味を覚えて以来、山に残されている信仰の道や生業の道などの古道をたどることにも大きな魅力を感じています。道は私のライフワークと思っております。
「水」問題については、安全な飲み水や衛生の問題はもとより、水上交通、さらには気候変動や水にまつわる自然災害などといった国民生活や地球規模での課題に深く関わる問題など、様々な側面があります。
昨年の能登半島地震では、津波による被害や長期間の断水が発生したほか、その後の復旧・復興への歩みを進める中で豪雨災害が発生したことで、「複合災害」、「二重被災」と呼ばれるような大変な状況が生じました。昨年、現地をお見舞いのために訪れた際には、津波や豪雨災害で流失した家屋や一部が流された橋、海底の隆起によって被害を受けた漁港などを目の当たりにし、被災された方々の置かれた状況の厳しさや自然災害の恐ろしさを改めて感じました。また、昨年の英国訪問中に、テムズバリアを訪れる機会を得、高潮被害の防止などについて理解を深めることができたのも有り難いことでした。
水の恩恵を享受しつつ、災害に対応することは、人類共通の歩みでもあり、各国の水を巡る問題を知ることは、それぞれの国の社会や文化を理解することにもつながります。今後とも、事情の許す範囲で「水」問題についての取組を続けていきたいと思っています。
【問3】成年を迎えられた悠仁さまについてお聞きします。筑波大学への進学が決まりましたが、ご自身のご経験を振り返り、どのような学生生活を送られてほしいと思われますか。成長ぶりや最近の印象に残った会話についてもあわせてご紹介ください。皇位継承順位第2位の成年皇族として、どのような役割を期待されていますか。
陛下)悠仁親王は昨年18歳となり、成年を迎えました。小さい時から甥として成長を見守ってきましたが、近頃は、都内や地方への訪問であったり、外国の方々との交流であったり、皇室の一員としての務めを果たしてくれていることを頼もしく思います。会った時には、地方や都内への訪問に関する話題のほかにも、関心を持って取り組んでいるトンボ、野菜の栽培、バドミントンなどについて生き生きと話してくれますので、充実した日々を送っているのではないかと思います。
先日、悠仁親王の大学の進学先が決まり、うれしく思っています。私自身の大学時代を振り返ってみると、専門の日本史の研究や部活動としてのオーケストラでの練習などを通じて、年齢の幅もある様々な人と出会うことができたと思います。そして、様々な背景や関心を持った先生方や友人たちから多くのことを学びました。高校時代までの友達も大切ですが、大学で知り合った人々との交流も続けています。研究面でも、大学時代に研究した日本中世の瀬戸内海の水上交通の研究は、オックスフォード大学でのテムズ川の水上交通史の研究へとつながり、現在も取り組んでいるより広い分野の「水」問題へと発展していったように思います。
悠仁親王には、大学生活を通して、本当に自分がやりたいことを見つけるとともに、様々な人と出会い、自身の将来をしっかりと見つめつつ、実り多い学生生活を送ってほしいと願っております。