女性初の銀行トップが語るリーダー論 5
「野村信託銀行」社長・鳥海智絵氏に聞く「飛躍のアルゴリズム」。4つ目のキーワードは「“私の背中についてこい”というリーダーは卒業。“たわみ”も伝えられるリーダーへ」。その真意とは―
■きっちりしすぎると失敗時に自信をなくす
――この“たわみ”を辞書で調べると、棒状の物体が湾曲するとか、弓なりに曲がるという意味があるんですが、鳥海さんが思う“たわみ”、そしてそれを伝えられるリーダーとはどういうことなのでしょうか。
たわみというと、みなさん、竹ひごとか縁がないかと思いますので通じないこともあるかもしれませんが、特に女性という意味で言うと、後輩を見ていたときに、「自分はこうあるべきだ」ときっちりと考えているのは良いと思うのですけど、逆にそこがうまくいかないと、自信をなくしたり、曲がっていったりすることもあるように見えました。
そこをいかに“遊び”、という言い方をするのかわからないのですが、柔軟にものを考えて、キャリアを選んでいくということを伝えていけるかというのを意識するようにはしています。
――やはりライフスタイルで、状況が変わってしまうこともありますよね。
やはりどちらかといえば女性のほうが、思うようにならないことがありますし、ライフイベントによって左右される度合いが大きいので、そこの柔軟性を持ってほしいとひとつ思っています。
■男性にも変わってもらう
――女性のリーダーだから気づけると、自身で思うことはありますか。
女性だからということではないかもしれないんですが、やはり先ほどの“前を走っている者”としてというところにつながるかもしれないんですが、次世代、あるいはもっと下の女性がもっと肩ひじを張らずに活躍できる環境をつくらなければいけないかなというふうには思います。
能力は違わないとはいっても、やはり家庭のケア責任といったものは、いまだにどうしても女性のほうによることもありますので、それはもう意識して、男性にも参画していただくというのももちろんですし、女性だけが変わるんじゃなくて、男性にも変わっていただかなければならないんですけど。
まあ、そういったことをいかに多様な人が活躍することが大事か、ということをみなさんと共有できるような、そんな環境をつくるということが私の責務かなと思ったりはしています。
■後ろを見ながら引っ張っていく
――やはり社内の若い人は、だいぶ昔とは違うなという感じですか。
そうですね。いい意味で違うというのはやはり、私が入った頃は、男性が育児とかまったく考えられなかったんですけど、まあそういう意味では意識は変わってきているというのは非常にいいことだとは思います。
一方で、「私の背中についてこい」と書きましたけど、自分が前を走っていれば、おのずと後ろにみんながついてくるだろうと、そういうリーダーシップの見せ方というのは通用しないだろうなというのは思います。
――そうすると“たわみ”のほうが重要になってくるということですか。
前を走りながらも後ろを見ながら、ちゃんと見て、組織としてどうやったら柔軟性をもちながら力を発揮できるかという「後ろを見ながら引っ張っていく」みたいなカタチが必要なのかなと。
■立場が上がると新しい世界が広がってくる
――女性の社員というと、最近、女性の総合職が増えたんだけども、できれば大きな責任は背負いたくない、そういった少し遠慮してしまった部分もあると言われるんですが、そのあたりはどうですか。
そういったところはあると思います。私自身も出世したいとか、そういったところでやってきたわけではないんですけど、やはり立場が上がるにつれて、見えるもの、知れること、会える人、いろんなものが広がっていきます。
「何のために働くんですか」といった時に、自分が誰々のために働くというのも広がってきますし、やはりいろんな人のためになれるというところが全く変わってくるというふうに思っています。確かに大変ではあるんですけど、やってみると面白いですし、みなさんの役に立てる部分も大きくなってくるので、面白さというのを伝えたいと思いますし、それでチャレンジする人がもっと増えてきたらいいなと思います。