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注意!“景気のカギは賃上げ3%”は危険

2018年1月3日 15:48
注意!“景気のカギは賃上げ3%”は危険

■3%の賃上げは無理なお願いではない?
賃上げは働く人にとってうれしい。「賃上げは困る」という人は、よほど特殊な事情がある人をのぞいて、いないだろう。

「賃上げはもはや、企業に対する社会的要請だと言えます。3%の賃上げが実現するよう期待しています」

経済界首脳、経団連の榊原会長に面と向かってこう述べたのは、安倍晋三内閣総理大臣。まだ経済界で「2018年の賃上げ方針」について議論が始まる前の2017年10月末に、先手を打って政府から経済界に「3%」の賃上げ要請を行った形だ。

ちなみに2017年の賃上げ率は、東証1部上場というトップクラスの大企業123社の平均でも2.34%。3%には届いていない。

しかし、過去最高益を出す企業が相次ぐ中、安倍首相直々の3%の賃上げ要請について、早速「検討する」と声を上げる企業トップも出てきている。

ただ、「賃上げ」といっても、一度上げたら下げることが難しい「ベースアップ」に限定した要請ではないので、企業にとっては、やり方次第で実現できる余地がある。

■「賃上げ頼み」で良いのか?
政府が経済界に賃上げを要請する“官製春闘”は、実は5年目だ。アベノミクスのシナリオは、賃上げ→収入の増加で消費拡大→企業の販売や生産が拡大→企業利益が増加→さらに賃上げ、というように、“経済の好循環”をつくるというものだ。

ところが、4年連続の賃上げにも関わらず、個人消費はなかなか拡大しない。その理由は、

1)賃上げしても、社会保険料でひかれる分が増えているので、手取りが増えず、懐があたたかくなった気がしない

2)リタイア後、年金がちゃんともらえるのかどうかなど、国の社会保障政策がどうなるのか見えず、将来への不安があるため貯蓄に回してしまう、

などだ。よって、賃上げだけでは個人消費の力強い拡大は期待できないにもかかわらず、政府はそうした状況には真正面から向き合わず、景気回復はとにかく“企業経営者の「賃上げ」の決断次第”であるかのように、繰り返し経済界に賃上げを求めているのだ。

■賃上げの“副作用”?
さらに、実は賃上げの副作用というものも懸念されている。次の発言は、中小企業を束ねる日本商工会議所の三村明夫会頭のものだ。

「大企業が賃金を上げれば、当然、その影響は間接的にやっぱり中小企業にくる」「本来でいえば、懐具合でもって賃上げをするというのがごく当たり前なことですが、“それ以外”の要素がさらに加わるということで、中小企業にとってはむしろ厳しい1年が予想されると、このように思っています」(2017年12月5日会見より)

つまり、中小企業は人手を維持、確保するためにやむを得ずに賃上げしているところが大半で、2018年、大企業が3%という高い数字を意識して賃上げの勢いを増す、という“要素”が入ってくれば、中小企業はまた無理な賃上げを迫られることになるというのだ。

ただ、見方を変えれば、これは中小企業でも主に競争力のある企業が生き残り、日本全体としては経済強化につながる可能性がある。

つまり、人手確保のために、収益に見合わない無理な賃上げをせざるを得ない企業の中からは、経営が回らなくなり、廃業したり買収されたりするところが出てくるだろう。そうした企業の従業員は、より競争力のある企業に移る。

厳しい言い方になるが、生き残れる企業とそうでない企業の峻別が進み、日本の中小企業全体で、生産性向上、利益拡大が進む可能性がある。

しかしながら、こうした移行には時間がかかるため、廃業、倒産といった負の面だけがフォーカスされ、景気のマインドに悪影響を与えることは懸念材料だ。

■経済界、お経は効果なし
賃上げ「する」「しない」や上げ幅は、その企業が置かれた経営状況で判断するもので、お上に求められたからするものではない。「政府に言われたから賃上げする、という経営者はいないだろう。いたらやばいぜ」という本音も財界からはもれる。

先の経営者の「3%検討発言」も、実際のところ首相に言われたから検討するわけではなく、どのみち検討するのなら、政府の呼びかけを受け止めた形で発信した方が良い、という判断だろう。

企業の旗振り役をする経団連も、「景気改善が企業収益の維持、拡大につながる」という考えのもと、5回目の賃上げ検討を呼びかけている。

ただ、賃上げだけでは消費は拡大しない。消費喚起のための「プレミアムフライデー」、「働き方改革」も経済効果は一部にとどまった。何年も言い続けられていることだが、やはり「将来不安の払しょく」がなければ、消費を拡大させることは難しい。

経済界も、こうしたことを毎年お経のように唱えてはいるが、政府が動かないのだから、2018年は政府に「賃上げ」と「将来不安の払しょく」の二本立てで景気改善を促すよう、より強く訴えなければいけないのではないか。

景気改善は賃上げだけでは難しい。