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【解説・黒田総裁会見】日銀・黒田総裁10年の4つのステージ

2023年3月10日 17:34
【解説・黒田総裁会見】日銀・黒田総裁10年の4つのステージ
日銀は黒田総裁の下での金融政策で、10年にわたりいわゆる「異次元緩和」を継続。4月に任期満了となる黒田総裁は、最後の会見で何を語ったのか。日本テレビ経済部・宮島香澄解説委員が解説します。




ここからは日本銀行の黒田総裁の記者会見について、経済部の宮島解説委員とお伝えします。まず10年の任期の最後の会見となった黒田総裁ですけれども、会見はどんな内容だったでしょうか?

日本テレビ経済部・宮島香澄解説委員
「はい、今回はとても穏やかだなと思いました。肩の荷が下りたという感じなのかなという印象を受けました。これまではいろいろ金融政策を巡って記者の間でも丁々発止みたいな、緊張感がピリッと走るというようなことも多かったんですけれども。今日は質問に対しても大変穏やかに笑顔も含めてお答えになっていて、これが最後の会見なんだなと思いました」

会見のポイントはどうでしょうか?

日本テレビ経済部・宮島香澄解説委員
「はい、こちらにまとめました。まず、大規模な金融緩和に関しましては、現状を完全に維持しました。そして黒田さんへの質問に対しての答えなんですけれども、この10年の金融緩和は『成功だった』と話しました。デフレがなくなった。そして雇用が改善してきているということを理由として述べました。それから悪かったこととして、結果的に目標にした安定的な2%物価目標には至らなかったので、『至らなかったことは残念』と。ただこれには『近づきつつある』と話しました。それから、思い残すことはないかという質問に対して『やれることはやった』ということでした。唯一ちょっとピリッとしたかなというのは、大量の国債やEFを保有していることに批判がありますが、大量の国債を買ったことに関して『負の遺産だとは思っていない』とはっきりと言いました」


改めて最後の会見だったわけですけれども、黒田さんの様子はどうでしょうか。

日本テレビ経済部・宮島香澄解説委員
「自分でできることはやったと。様々な批判もありましたけれども肩の荷が下りて次の植田さんに引き継ぐという気持ちで臨んだかと」

この10年を振り返っていきたいと思います。黒田総裁のこの10年の金融政策はどういうものだったんでしょうか。

日本テレビ経済部・宮島香澄解説委員
「黒田さんの金融緩和の本質は、2%という物価目標をはっきりと掲げて実現することに強くコミットする。期待値を上げる。そのために世の中に出回るお金を増やして、円安で物価を押し上げて、そして株高も目指すという政策でした。しかし結果的に目標は達成されず、任期の後半の方は延命策を続けてきたという印象も持ちました。当時円安株高を狙ったんですけれども、就任の頃は、日経平均株価は1万2000円ちょっと、円相場は1ドル=93円台半ば、今より相当円高の状況でした。今は株価は2倍以上になって平均株価2万8000円超えてますし、円相場はかなり円安になった。当初求められたことに関しては、できたのではないかと思います。特に当初は安倍政権のアベノミクスがこういう方向に行くことを大変期待していましたので、高い評価がありました。ただ、この数字は、民主党政権時代のちょっと行き過ぎた円高、株安の対しての反動というのもあると思いますので、金融政策全体に対しての評価は人によってわかれると思います」

後半に向けて、異次元緩和の効果はだんだん薄れたということなんでしょうか。

日本テレビ経済部・宮島香澄解説委員
「10年の異次元緩和は、私はこちらのように4つのステージに分けられると思います。初期は二つの黒田バズーカ、それから量的緩和のやり方を転換した時期、持久戦に移行した時期そして最後は無謀な抵抗。まず一つ目のステージ、就任直後の異次元の金融緩和は目標をはっきり示して2年でこの目標を実現すると。そして質や量、今までとは全然違う形で金融緩和をしました。ETFや国債を買うペースを引き上げて、2016年の1月には株価を上げるために、マイナス金利政策も導入しました。でも結果的に期待通りの成果は上がりませんでした」
「そして二つ目のステージです。日銀は「総括的な検証」を行いまして、長短金利操作=イールドカーブコントロールを導入しました。国債を買う量をめどにするのではなく、長期金利を0%程度で推移させるということを目標にして、そのために必要な国債を買うという形にしたんです。でもこのイールドカーブコントロールは金融政策としては世界でも相当異例で、これに対してはかなり批判もありました」
「ステージ3。長期戦になってきて、なかなか物価の目標に達しなくて、そして黒田総裁は2期目に入りまして引くに引けなくなったのかなと思います。この金融緩和を継続するために枠組みを強化する、そのためにフォワードガイダンスを導入しました。このフォワードガイダンスというのはその先の金融政策はこういうことをやるんだよということを明示してその政策の効果をより高めるということなんですけれども。でも目標に達することはできませんでした。低下していた市場の機能を取り戻すために金利の幅を変動幅、少し上下に行ってもいいと。2021年3月にはその数字も明確化しました。このあたりから相当苦しい状況になってきたかと思うんですけれども」
「最後のステージは、引くに引けない、出口にはいけないという状況の中で海外の影響もありました。FRBが利上げを始め、3月以降は海外のヘッジファンドなどがこのイールドカーブコントロールはかなり無理があるんじゃないかということで、攻撃を仕掛けました。具体的にはこの枠組みを崩そうとして、国債を売るんです。そういう動きが出た中で、黒田総裁はこのイールドカーブコントロールの厳格なやり方にこだわりました。どんどん市場の機能が崩れてきて、そして、急激な円安にもなりました。去年一度1ドル151円まで行きました。そして日銀は金利を抑え込むために国債を買い続けましたので、去年9月に日銀の国債の保有の割合が5割を超えてしまいました。その後日銀は去年の12月突如、政策を修正しました。事実上、長期金利が上がることを許容したんです」
「10年はこうした流れですが壮大な取り組みはなかなか難しいところも多かったというのが結論だと思います。やはり金融政策だけで何かができる、全部が解決するというのは難しかったなと。後半はかなり無理があったというような感じですし、副作用が残り日銀が持っている国債の残高が極めて多くなり、市場の機能が低下しました。ETFもたくさん保有していてこれからどうしようという状況です。次の総裁の宿題になっています」

日銀総裁に大事だと言われている政府や市場とのコミュニケーションというのはどうだったんでしょうか。

日本テレビ経済部・宮島香澄解説委員
「今日の会見は非常に穏やかだったんですけれども、市場との対話ばそんなにうまくいってたという印象はありません。こちら、政権とのコミュニケーションは最初は安倍政権と足並みをそろえて目標を掲げてスタートしました。ところがやっぱり金融政策はなかなか難しく、2年じゃ目標達成が全然できないとなり、安倍総理は少しこの目標を達成することに距離を置いて、金融緩和を続けてくれればいいという感じになったように見えました。この2人は金融政策は同じ意見でも、財政政策については元々意見が違います。財務省出身の黒田さんは財政や消費税増税に関しての気持ち、財政再建の気持ちを持ってますので、ここは離れています。結果的に黒田さんははしごを外されたようになり、後半の戦いは相当苦しかったんだと思います」

「メディアや投資家とのコミュニケーションに関しては、私も会見ずっと見ていますけれども。何が言いたいのかなって思うところもありました。市場の投資家が誤解をするかなというようなこともありました。黒田さんはサプライズが好きだったと言われてますので、投資家から見るとわかりやすかったとはいえない、コミュニケーションがとても良かったとは言えないと思います」

それでは次の総裁についてお聞きします。植田和男氏が次の総裁に、今日国会で決まりましたけれどもどんなことが求められるでしょうか。

日本テレビ経済部・宮島香澄解説委員
「まずは、今もお話に出ましたコミュニケーションです。総裁は投資家に対しても政権に対しても海外に対してもしっかり説明をしながら、この難しい局面を打破していかなければいけませんので、丁寧に慎重に話をしながらやっていく必要があると思います」

「そもそもこの10年間で日本の経済は構造が変わりました。以前は製造業にとって8円高はよくない円安がいいということだったんですけれども、製造業が拠点を移し、円高がそんなに怖くなくなった。一方で円安は、これだけ輸入物価が上がって国民の生活に与える影響が大きくなってきました。黒田さんがスタートした時とこれからは日本の経済構造が違うということです。また政策を変えていくには10年も同じ政策をやっていますので、修正や変更には大きな摩擦もあると思います。市場の混乱を起こさないように丁寧にやっていく、異常とも言われた政策を丁寧に巻き戻していくことが次の総裁の課題となります」


ここまで経済部の宮島解説委員とお伝えしました。
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