急加速ESG投融資 日本生命トップに聞く
豪雨や水害など気候変動のリスクが年々高まる中、「脱炭素」の流れは今、金融の世界にも新たな変化をもたらしています。
今年4月、日本生命は国内の機関投資家としては初めて、全資産の投資判断に「環境」や「社会問題」などへの取り組みを重視する「ESG」と呼ばれる評価を取り入れました。
日本生命のトップ・清水博社長にその狙いについて単独インタビューを行いました。
■「急拡大する“ESG投融資” 機関投資家としての役割は?」
Q.ESG投融資が拡大しているが、国内の民間では最大の機関投資家である日本生命の役割について、お考えをお聞かせください。
A.『ESG投融資』。なかなか難しい言葉ですけれども、このものが目指す目的というのは、社会が持続的に未来永劫にわたって、将来にわたって発展し続ける、安定的に発展し続けるというのが今現在、国際的に必要だと言われているところでありまして、その持続的な社会の発展のためには何が必要かという、いくつもあるんですが、その中で特に三つ注目されているのが、『E・S・G』というものでありまして、Eは、環境全般への取り組みです。
それから、Sというのは、この社会ということですので、社会的課題への対応ということになります。そして、Gというのはガバナンス、これは企業の会社の経営の仕方ですね。適正な会社経営、これが大事だと。
この環境と社会的課題と適正な企業運営。これがその社会が持続的に発展するために非常に重要なことであるというのが国際的な一種の一致した見解なんですね。
この三つが重要ですから、この三つに重点を置いた投融資を行うことも、もしくは投融資を後押しすることも重要だということですので、それを運用の機関投資家の立場からESGに重点を置いた投融資に積極的に取り組むことによって、それを通じて社会が持続的に発展する後押しをする、これが私どもがESG投融資に積極的に取り組んでいる最大の理由になります。
■「全資産70兆円にESG評価 その狙いは?」
Q.日本生命の今年4月から全資産70兆円にESG評価を導入しました。その背景と狙いについては?
A.狙いは二つありまして、一つはこのESG投融資を促進することが社会が持続的に発展することに繋がるという共通認識がありますので、これをさらに我々が運用の中で大きく実行することによって、持続性のある社会の発展によりいっそうの貢献ができるのではないかと、これが目的の一つ。
二つ目は、運用収益の観点でありまして、ESGの観点から評価の高い企業への投融資は、一般的に相対的に運用成果が良いという実証分析を私ども自身が行っておりますので、ESGの観点から評価の高い企業に投融資を全ての70兆円を振り向けることによって、そこから得られる運用成果も良くなるということが目的ですので、持続性ある社会作りへの発展、それから運用収益の向上、この二つが全ての資産をESGの観点から行うというのがその目的になります。
■「全資産にESG評価。 投資される企業に必要なもの」
Q.ESGの観点で、どのような形で投資判断を行うのか?
A.私どもが勝手に判断をして、それで良しあしを判断するわけにはまいりませんので、やはりその各企業と投資先の企業といろんな話をする、対話のキャッチボールを何回も繰り返し行う、そのことが重要になってくると思います。対話のスタートは、気候変動と脱炭素化については、二つのことを私どもから、企業にはお願いをまずしていきます。
一つ目は情報開示ですね、例えば企業にとって、気候変動がその会社にどのような影響を与えるのか。また、気候変動への対応がその会社をさらにどう発展させていくのか、こうしたことを伺って、それを開示していただくことをお願いしています。
二つ目はその上で、各企業が二酸化炭素の削減に向けた目標を置き、そしてどのような取り組みの道筋を描くのか、これを決めていただいて、そしてこれも公表していただくことをお願いしています。
この情報開示とそれから目標の設定、これが先に会社に求めることでありましてこれが対話のスタートになります。
その後、私どもはその目標に従った進み具合が、どういうようなものであるかどうかを見させていただいて、必要であれば、「スピードアップ」とか、「より広範な取り組み」とか、そういったことをお願いすることになってまいりますので、企業の取り組みを応援していく、これが私どもの基本スタンスでありますので、一緒になって応援と協力をして企業の脱炭素化と、それを通じた社会全体の脱炭素化に取り組んでいきたい、こういうふうな考え方です。
■「脱炭素に取り組まない企業 投融資は引き上げ?」
Q.気候変動に対応しない、できない企業への投融資はすぐに引き上げることになるのでしょうか?
A.やはりその現実を考えますと、いきなり二酸化炭素をたくさん出している企業への投融資を全て引き上げるということは現実には難しいと思います。
現実には難しいということに加えて、そういった企業も気候変動への対応について自らが目標を置いて、それで何年かけながら削減努力をしていかれるわけですから、それを身近に見ているわけですので、それをきちんと進んでいくことを応援する、というのが長期の投資家からの立場だとも思っていますので、今すぐに株を売るとか、そういったような全く考えておりません。
Q.いずれにしても投資される企業にとっては、今後“脱炭素”は避けて通れないということになる?
A.そうですね、待ったなしだと思いますね。