【記者解説】日本人が月へ!アルテミス計画で貴重な“水”を見つけられるのか?その先に“火星定住”も…
有人月面探査ミッション「アルテミス計画」で、日本人2人が月に行くことが日本時間の10日、決定しました。一体だれが月に行くのか、そしてアメリカ、中国、ロシアなど大国の宇宙開発をめぐる思惑とは。
NNNニューヨーク支局でNASAなどの取材を担当する末岡寛雄支局長と、JAXAなど国内の宇宙関連の取材を担当する島津記者が深掘りトークしました。
■「アルテミス計画」…「アポロ計画」以来半世紀ぶりに人類は月へ
末岡寛雄支局長
「『アルテミス計画』というのは、アメリカと日本と、それからEU(=ヨーロッパ連合)などが中心になって共同で進めている、有人月面探査ミッションのことを言います。長期滞在できる拠点を月に建設して、そこで水などの資源を開発することというのがその目的のうちの一つです」
「計画が3段階に分かれておりまして、第1段階として、既に2022年に無人の宇宙船を打ち上げて、月をぐるっと周回して、地球に帰ってきたんです」
「第2段階としては、2025年の9月に有人で月の周りを飛行して、それから第3段階として2026年の9月以降、人を乗せての月への着陸を目指しています」
「さらにこの計画では、月だけではなくて、その後、月から火星に人を送って、最終的には火星に人が定住することを目指すという壮大な目標があり、ここに日本人が入るということになったんですよね」
島津里彩記者
「月に上陸するメンバーというのは、アルテミス計画への貢献度で各国に枠が振り分けられて決定するんですが、日本はこのアルテミス計画の周辺事業に数千億円をかけて、技術面などで大きく貢献しているんです」
「例えば、月面探査のため、月で車を走らせようということで、トヨタとJAXAなどが一緒に開発をしています。実際に人を乗せて月面を走ることができる車で、人がその中で住むこともできる。まさに“月面を走る宇宙船”と表現されているんです。こういった貢献が考慮されて、今回、日本人2人が月に上陸できることになったんです」
■中国は月に原発を設置する構想も?“早いもん勝ち”の宇宙開発で渦巻く大国の思惑
末岡支局長
「日本の技術が月に使われるというのはすごく嬉しいことだと思います。そして宇宙開発競争っていうのは、軍事開発競争にも直結します。たとえばロケットの発射技術はミサイルの発射技術に直結するので、日本のみならずアメリカですとか、各国が競争し合って今開発を進めているんですよね」
島津記者
「アポロ計画で月面探査をしたのは全員アメリカの白人男性だったんですけども、アルテミス計画で、日本は“月に2番目に降り立つ国”になる予定で、宇宙開発事業でのプレゼンスを高めたいという狙いがあります」
末岡支局長
「アルテミス計画を念頭に宇宙開発のルール作りの取り決めをした『アルテミス合意』というものがあります。宇宙をどうやって開発していこうか、各国で話し合って決めましょうという合意です。最初には2020年にアメリカや日本など8か国が署名したんですが、その後いろいろな国が加わって、今は36か国がこの合意に参加しているんです」
「一方で、中国やロシアというのは大国なんですが、このアルテミス合意には加わっていないんですよね。なので現状、宇宙に関して世界共通のルールはなく、各国の思惑が渦巻いているところです」
「つい最近ですと、ロシアは3月に中国と共同で月面で原発を設置するような構想を発表しました。中国は独自で先を目指していて、既に無人の探査船を着陸させたり、土から物を採取して岩石だとか岩を採取して持って帰ったりということもやっています。さらに2030年までに人を乗せたロケットを月に送る計画を進めているんです」
■月に降り立つ日本人はだれ?取材では若手宇宙飛行士候補の名前が…
末岡支局長
「日本人で誰が実際に宇宙に行くのかというのがすごく気になりますよね」
島津記者
「これまで宇宙飛行を経験したことがある宇宙飛行士、そのほかにあくまで予想なんですけれども、取材していると、女性で、若手の宇宙飛行士候補の米田あゆさん、米田さんと同期の諏訪理さんは、彼が地学のスペシャリストということで、月の砂だったりとか、岩石の研究を進めるという意味で候補として名前が挙がっていました」
末岡支局長
「50年前がアポロ計画で、今回はアルテミス計画ですけれども、アポロというのはギリシャの男性の神様、そしてアルテミスというのがこのギリシャの女性の神様です。アポロ計画の時は、月面に立ったのが白人の男性たちでしたが、アルテミスは女神の名前が付けられ、女性を月に降り立たせることを一つの理念として掲げているので、米田さんが選ばれる可能性もあるのかなと、私は期待したいと思っています」
島津記者
「そうですね。最終的には各国の宇宙飛行士のジェンダーや能力のバランスなどを踏まえて決まるそうです」
末岡支局長
「そして宇宙船が月で目指す場所は月の“南極”です。なぜ南極を目指すのかというと、水を探すためなんですね。北極に比べると南極は深いクレーター、つまり大きな深い穴があって、地球でもそうですけど、北極と南極って太陽の光が届かないから、水が蒸発しなくて、たくさん氷が残っている可能性があるんです」
「宇宙空間では水というものがすごく貴重です。水を運ぶのってすごく重いじゃないですか。それを地球からわざわざ宇宙まで運ぶのは大変なので、ISS(=国際宇宙ステーション)では、人間の尿や汗を再利用して、それをもう一度飲み水として使っています。人間がまず月に行って、そこからさらに火星を目指すという観点からしても、月に水があるというのが非常に大事です。加えて、飲料水のみならず、水というのは水素と酸素ですから、水素をロケット燃料に使える可能性もあります。その水素ロケットで火星を目指せるという利点もあるので、水がたくさんあるとされる火星を目指して、まずは2026年9月以降に有人での月着陸を目指しているという、そういう段階だということですね」
島津記者
「普段は日常的に我々月を眺めていると思うんですけど、その実態ってまだまだ謎に包まれていますよね。なのでそんな月の探査に向けて、日本人の宇宙飛行士や、日本の技術が採用されているということは嬉しいし、なんだかロマンがありますよね」
末岡支局長
「今回のアルテミス計画は、50年前のアポロ計画以来、人類が再び月を目指すという、ちょっとロマンのある壮大な計画だと思いますよね。さらに、その先には、月だけじゃなくて、火星を目指すというところで、各国の思いが入り乱れる中ではあるんですが、宇宙空間の平和利用を望むとともに、今後、私たちもウォッチしていきたいというふうに思います」