イギリスのEU離脱交渉が本格始動へ
2017年は、イギリスが国民投票で決めたEU(=ヨーロッパ連合)からの離脱がいよいよ本格的に動き出す年になる。
■EUへの離脱通告に議会の承認は必要か
まずカギになるのは1月。イギリスがEUに対して離脱を通告する前に議会の承認が必要かどうかを巡り、イギリス最高裁判所が1月にも判決を出すとみられている。メイ首相はこれまで「通告には議会の承認は必要ない」と発言し、自らの思惑通りに離脱通告を進めようとしていたが、その正当性が問われているものだ。
専門家の間では「議会の承認が必要」とした去年(※2016年)11月の高等法院の判決が覆ることはないとの見方が多く、仮にそうなればイギリス政府は速やかに議会の承認を得る手続きを進める必要がある。仮に判決を受け野党側が反発を強めるなどの動きが出た場合、離脱に向けたメイ首相のスケジュールの目算が狂いかねない。
そして次の重要なタイミングが3月末だ。メイ首相は「3月末までにEU側に離脱を通告し、正式に交渉をスタートさせる」としている。交渉の期間は2年とされており、予定通り3月末に通告した場合、2019年3月末までにイギリスがEUを離脱する、というスケジュールが見えてくる。ただし最高裁の判決次第では、3月末までに議会の承認を得ることができるか、状況は複雑化する。メイ首相の目算通りに3月末までに離脱を通告できるかが、今年前半の最大の焦点となる。
当初、メイ首相は正式な離脱通告をなるべく遅らせて、その間にある程度EU側の感触を探りたい構えだった。しかしEU側は「事前交渉には応じない」という構えを表向きは崩しておらず、正式な離脱通告を早くしないとことが進まない、という状況に陥っている。離脱通告を受け、一気に歯車が進みだすことになる。
■「ハードBREXIT」と「ソフトBREXIT」
離脱後のイギリスとEUの関係については、経済よりも移民制限を優先させる「ハードBREXIT」路線と、経済を優先させる「ソフトBREXIT」路線と、大きく分けると2つの分類がある。具体的には、EUの単一市場にとどまるためには人の移動の自由を担保するべき、とするEU側に対し、イギリスがどこまで移民を制限するのかが焦点となる。
もともと残留派であったメイ首相は、就任当初は経済とのバランスを取るソフト路線を目指しているとみられていた。ところが、去年10月の保守党大会で移民制限の必要性を強調したことから、ハード路線を志向している、との見方が広がった。
しかし日本政府の高官はNNNの取材に対し、「EUから離脱すれば、どちらにしても相対的に国境の管理は今よりは厳しくなる。メイ首相はそのことを言っているだけで、どこまで厳しいものにするのかについては触れていない。ハード路線のような印象を与えて党内外の強硬派の支持を取り付けつつも、実際には明言を避けており、極めて慎重かつ巧妙に事を進めている」との見方を示している。
■イギリス政府内の態勢整備は
一方で、イギリス政府内の態勢整備も不安視されている。イギリスはこれまでEUの中にいたため、独自に諸外国と貿易交渉をする必要がなく、そのための役所なども設置していなかった。イギリスは国民投票の結果を受け、EU離脱担当省と国際貿易省という2つの役所を新設した。しかしスタッフが十分にそろっておらず、態勢が整っていない、との見方が多い。
仮に予定通りにEUから離脱することになったとしても、新たにEUとどういう貿易協定を結ぶのか、さらに日本を含むEU以外の国々と個別にどういう貿易協定を結ぶのか、など、課題は山積している。TPP交渉が非常に時間がかかったことで明らかなように、貿易交渉は非常な労力と時間を必要とする。専門家からは「孫の世代になっても貿易交渉は続いているのではないか」と冗談めかして指摘する声も聞こえてくる。
一方で、イギリス経済は国民投票後も好調を維持しており、「離脱という選択は正しかった」という意見も多く聞かれる。しかし多くの企業は「様子見」を続けており、実際のEU離脱の影響はまだ実体経済には出ていない。今後、離脱交渉を正式にスタートさせ、具体的な離脱後の姿が少しずつ見えてきた場合に各企業はどういう動きをするのか、またそれにより実体経済にどういう影響が出るのか、そして有権者はどういう反応をするのか。2017年は、EU離脱に向けた歯車が動き始めることにより、こうした様々な問題が一気に表面化してくる1年となる。