尹大統領が広島の「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」を“初訪問”へ…日韓首脳が共同訪問の背景は?【G7広島サミット】
韓国の尹錫悦大統領は19日G7広島サミットに参加するため日本を訪れます。岸田首相と尹大統領は広島の「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」を日韓首脳として初めて共同で訪問する予定です。どのような背景があるでしょうか。
■「韓国人慰霊碑」とは…
5月7日の日韓首脳会談で、岸田首相と尹大統領はG7広島サミットの際に広島市の平和記念公園にある「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」を共に訪れることで一致しました。岸田首相は「一緒に祈りを捧げる」と述べていて、「韓国人慰霊碑」を日韓の首脳が共に訪れるのは初めてです。
戦時中、朝鮮半島からは徴用や出稼ぎなどで多くの人が広島に渡り、被爆しました。韓国原爆被害者協会は、広島と長崎で被爆した朝鮮半島出身者は10万人にのぼり、半数近くは、その場で死亡したと推定しています。「韓国人慰霊碑」は被爆した朝鮮半島出身者を慰霊し、原爆の惨事を繰り返さないことを願って韓国で製作され、1970年にまず平和記念公園の外に建立されました。ただ、平和記念公園内への移設を求める強い声があり、広島市との協議の上1999年に公園内に移設されています。
■韓国の被爆者団体は…
韓国原爆被害者協会の李圭梅(イ・ギュメ)さん。李さんの父親は徴用工として働いていた広島で被爆しました。原爆による突風で資材倉庫の窓ガラスが割れ、全身にガラスが刺さったと言います。父親は韓国に戻ってからも被爆の後遺症に苦しんだということです。
李さんは日韓首脳による「韓国人慰霊碑」訪問について、直接、被爆を経験した人は自身の父親を含めて多くがすでに亡くなっていると指摘、「もっと早くすべきだったのに遅すぎる」と述べました。一方で、今回の訪問は日韓首脳によるシャトル外交が再開したからこそ実現したもので、このような交流が続くことが重要との認識を示しました。
また、岸田首相が日韓首脳会談後の会見で元徴用工について「厳しい環境のもとで多数の方々が大変苦しい、悲しい思いをされたことに心が痛む」と述べたことについては「前よりは良くなったがもっといい言葉を使ってほしい」との思いを明らかにしました。
■慰霊碑訪問の背景は…
■慰霊碑訪問の背景は…
岸田首相による「心が痛む」発言は、韓国内で元徴用工問題をめぐる日本側の対応が不十分との声も多い中、元徴用工に寄り添う姿勢を見せ韓国政府が解決策を示したことに配慮した形です。
ただ、韓国の世論調査会社「ギャラップ」の調査(12日発表)では日韓首脳会談について「成果がなかった」と答えた人が49%と「成果があった」の33%を上回っています。「成果がなかった」とする理由では最も多かった「実益なし」(14%)に次いで「過去の歴史無視・謝罪なし」(12%)となっていて歴史問題をめぐって日本側の対応を求める意見はなお根強い状態です。
こうした中、韓国大統領府の高官は「韓国人慰霊碑」訪問について「広島で原爆によって犠牲となった我々同胞の中には強制徴用の被害者がいる」と述べ、元徴用工に対する慰霊の意味合いも含まれるとの認識を示しました。
韓国外務省の関係者も「広島原爆及び強制徴用被害者の苦痛に対して真正性ある行動を表現したものと評価する」と言及し、歴史問題に対する日本側の対応の一環との見方を明らかにしました。
岸田首相にとって歴史問題に関連した言動は、国内世論などを考慮すれば“負担”にもなり得ます。ただ、今回のG7では広島から「核なき世界」を強く訴えるとの大きな目的があり、岸田首相にとっても“負担”の部分は比較的少ないものとみられます。
両国首脳による「韓国人慰霊碑」訪問は歴史問題の和解を演出し、日韓関係改善をさらにアピールする場ともなりそうです。