“テクノロジー介した性被害”の拡大も…世界の「女子の権利」30年間の推移 ユニセフ発表【国際女性デー】

ユニセフは今年の「国際女性デー」を前に、報告書「Girl Goals: What has changed for girls? Adolescent girls' rights over 30 years(女子の目標:女子にとって何が変わったのか? 十代の女子の権利について30年の歩み)」を発表しました。1995年に女性の人権に関する国際文書「北京行動綱領」が189か国によって採択されましたが、それ以降、十代の女子たちの生活がどのように変化したかを検証しています。
以下、ユニセフの報告内容と提言をまとめました。報告書ではまず、女子の学習機会について分析しています。
■学習機会の格差――今も女子「1億人以上」が就学せず
就学していない女子の数は過去20年間で39%減少したものの、2023年現在でも世界で1億2200万人の女子が学校に通えていません(ユネスコ統計研究所、2024年)。特に南アジアでは、15歳から19歳までで「学校や職場、職業訓練のいずれにも通っていない可能性がある」女子が男子と比べて3倍になっています(国際労働機関の2024年データを基にユニセフが算出)。
読み書きができない15歳から24歳の女性の数は、過去30年間でほぼ半減したものの、今でも約5000万人の女子が簡単な文章の読み書きができない状態でいます(ユネスコ統計研究所、2024年)。
さらに、世界では15歳から24歳の女性のうち10人に4人近くが、日本の高校以上への進学にあたる「後期中等教育」を修了していません(同上)。農村部の貧困家庭や社会的に疎外されたコミュニティーに属している女子では、さらに学校教育を修了する可能性が低くなっています。女子は無給の労働や結婚、出産などのために教育を中断せざるをえないことが多いためです。
■ジェンダーに基づく暴力――DVや性暴力、そしてテクノロジー
世界で婚姻関係またはパートナー関係がある十代の女子のうち、4人に1人近くが相手から暴力をふるわれる、いわゆるDV(ドメスティック・バイオレンス)の経験があると答えています(WHO、2021年)。また世界の15歳から19歳までの男女のうち3分の1以上が「特定の状況のもとでは夫が妻を殴ることは正当化できる」と考えています(ユニセフ、2024年)。
また、性暴力を経験している女子は現在、生存しているだけでも5000万人に上っています。さらに、子供の頃に性暴力を受けたという成人女性は6億人に達しています(同上)。
テクノロジーを介したジェンダーに基づく暴力も急速に広がっていて、少女たちは思春期とは不釣り合いなレベルの性暴力に直面しています。日常生活でインターネットのさまざまなシステムやサービスが大きな部分を占めるようになるにつれ、これらが虐待や性的嫌がらせのツールとなるだけでなく、危険に繋がる潜在的な機会につながるルートにもなっているのです。
■有害な慣習「女性器切除」や「児童婚」
アフリカを中心に行われている慣習「女性器切除(FGM)」は女性の外部生殖器の一部または全体を切除するというもので、男性が女性を所有物のように扱い、性的に自立しないように強いるものだと指摘されています。世界各国が2030年までに達成を目指す「SDGs(持続可能な開発目標)」の中でも、目標5「ジェンダーの平等」で「女性器切除など、あらゆる有害な慣習の撤廃」が掲げられています。
こうした中、女性器切除の実施は減少傾向にあり、ブルキナファソやリベリアなどの国ではこの行為を受ける女子の割合が過去30年間で半減しました(ユニセフ、2024年)。しかし、SDGsの「2030年までに女性器切除を根絶する」との目標を達成するには、こうした世界的な減少率を27倍にまで加速させる必要があります。
また、「18歳未満で結婚する女子」の割合は25年前と比べ減少していますが、世界でいまだ5人に1人の女子が早すぎる結婚(児童婚)をさせられています。南アジアの国々では状況が改善されつつありますが、一方でラテンアメリカやカリブ海地域では過去25年間で進展は見られませんでした(同上)。
■低年齢での妊娠・出産にともなうリスク
世界で十代の女子が出産する件数は、過去30年間でほぼ半減しました。しかし今年だけでも15歳から19歳の女子、約1200万人が出産すると見込まれています。妊娠にともなうリスクがさらに深刻になる10歳から14歳までの低年齢層では、32万5000人以上が出産すると推定されています(「国連世界人口推計」2024年版)。
また世界の15歳から19歳までに死亡した女子のうち、約23人に1人が「妊娠中または出産時の合併症」によって死亡しています(ユニセフ、2024年)。
早すぎる妊娠と出産は、思春期の女子の健全な発達を妨げる可能性があります。妊娠した女子の多くは学校を中退するよう圧力をかけられ、学習する機会を失うため、大人になってからも適切な仕事に就くことが困難になる可能性が高まります。こうした女子たちは貧困家庭の出身であることが多く、早期出産によって経済的に不利な状況がさらに悪化することになるのです。
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こうした状況をふまえ、報告書では十代の女子の持つ大きな可能性を引き出すために、世界的レベルでの早急な行動が必要だと提言しています。十代の女子にとって最優先事項であるにもかかわらず、進ちょくが滞っている「女子教育の制限」や「スキルアップにおける格差」などの問題に焦点をあて、解決に向けて重点的に取り組むべきだと提唱しています。
ユニセフのキャサリン・ラッセル事務局長は「十代の女子は世界を変える大きな原動力だ。適切なタイミングと支援があれば、彼女らはSDGsの達成にも貢献し、世界を作り変えることができる。教育やスキル、不可欠な保健サービスなど重要分野への投資を行うことで、世界中の女子の潜在能力を引き出し、地域社会や国をより良くすることができる」と訴えています。