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“ヨーロッパに核の傘?”マクロン大統領発言の背景は

2025年3月7日 3:04
“ヨーロッパに核の傘?”マクロン大統領発言の背景は

フランスのマクロン大統領が5日、自国の核の傘をヨーロッパに広げる可能性に言及。するとこれまで消極的だった国からも関心を表明する声が。何が起きているのか?(NNNパリ支局 佐藤篤志)

マクロン大統領は5日、フランス国民に向けたテレビ演説で、「フランスの核の抑止力で、ヨーロッパの同盟国を防衛する議論を始めることを決定した」と話した。現在、ヨーロッパの核保有国はフランスとイギリスで、核の抑止力を拡大することは、数年前から検討されてきた。しかしいま、現実的な課題だとヨーロッパの人々が捉えはじめている。

きっかけはトランプショック。ゼレンスキー大統領との会談で激昂し、支援もストップ。ウクライナを切り捨てるかのような振る舞いにヨーロッパでは激震が走った。NATO=北大西洋条約機構の加盟国がロシアに攻撃を受けた場合に、アメリカに見捨てられるのではないか。防衛体制をめぐり、ヨーロッパ各国の動きが慌ただしくなっている。

実際、ドイツの次期首相になる見通しのメルツ氏は2月に、「トランプ政権はヨーロッパの運命をあまり気にかけていないことは明らかだ」と話すなど、たびたびアメリカに頼らない防衛の必要性を訴えてきた。マクロン大統領は核抑止力のヨーロッパへの拡大について、メルツ氏から、“歴史的な”呼びかけがあって議論開始を決定したと明かした。これまで、ドイツは伝統的にアメリカとの関係を重視し、ヨーロッパの核の傘に入る案には抵抗を示していたが、歴史的な方針転換となる。

フランスメディアによると、マクロン大統領の“核の傘”発言は、これまで慎重だったバルト三国や、スウェーデン、ルーマニア、ポーランドも関心を示している。ポーランドのトゥスク首相は6日、「真剣に受け止めなければならない」と話した。これらの国は、ロシアと物理的に距離が近く、歴史的な理由からロシアの脅威を強く感じている。

現在、ロシアから軍事侵攻を受けているウクライナは、30年前までは世界第三位の核保有国だった。しかし、1994年、ウクライナは、アメリカとイギリス、そしてロシアが安全を保障するという内容のブダペスト覚書に調印し、核兵器を放棄した。キーウ国際社会学研究所によると、当時の世論調査では、核兵器保有に賛成していたのは、3人に1人だった。しかし、2024年12月の調査では、4人中3人が核武装の復活を支持。実際に侵攻を目の当たりにして、戦争抑止のために必要だと考えている。

マクロン大統領は、「ヨーロッパ諸国は、ロシアの脅威を踏まえ、自国をより良く守り、さらなる侵略を抑止できなければならない。」と演説し、「核の傘」の必要性を強調した。一方で、フランスのシンクタンクである戦略研究財団のエマニュエル・メートル上席研究員は、フランスメディアの取材に対し、問題があると指摘する。核兵器の使用基準は、そもそも意図的に曖昧にされており、他国への脅威が核兵器の使用基準を満たしているかを、フランスの大統領が一人で判断することは、非常に難しく現実的ではないと話す。

アメリカに頼る安全保障体制を見直し、核による抑止を拡大していくのか、ヨーロッパ各国の手探りが始まっている。

最終更新日:2025年3月7日 4:49