「これが最後のチャンス」福島の漁業の復興にむけ挑戦を続ける若手鮮魚店の経営者
処理水の放出という大きな節目を迎えた福島の漁業ですが、新たな挑戦を続けようと奮闘する人たちもいます。若手の鮮魚店経営者を通して、漁業の未来を考えます。いわき市で100年続く老舗鮮魚店を切り盛りするのは、「おのざき」の4代目・小野崎雄一さん(27歳)です。
「率直に、いよいよきたなという感じですね。“風評が起こったら”は“たられば論”で、未来の不安をあおるんじゃなくて、福島の魚は我々が美味しいと言っているので、皆さんも自信をもって、福島の魚って美味しいんだよって発信する側に回ってほしいと思います」
処理水の海洋放出が始まったとき、そう口にしていた小野崎さんの思いは、SNSを通して瞬く間に全国へ広がりました。地元でとれる「常磐もの」への自信、そしてこの13年の、福島の漁業の苦労を思うと、黙っていられませんでした。
■おのざき 小野崎雄一さん
「これだけ世界に誇るべきおいしい常磐ものがあるのに、間違った情報でその価値が評価されなくなるっていうところに、むっとして感情的に発信したというのもあります」
一方で『このおさかな屋はやめておこう』『福島産から放射性物質がでたら別の産地の魚売ればいいだけだもんね…』そんな心無い反応も、SNS上ではありました。それでも、それ以上に全国からの応援があり、風評被害は感じていないという小野崎さん。注目されるいまだからこそと、新たな挑戦を始めています。
この日、いわき市で開かれたイベントに小野崎さんが持ってきたのは、市場に出回りにくかったアカエイの唐揚げです。メヒカリやヒラメなど、地元を代表する魚だけではなく、新たな「常磐もの」の魅力を伝えるのが目的です。
小野崎さんの発信は、県内に留まりません。小野崎さんの姿は、東京の流行の発信地・渋谷にありました。
■おのざき 小野崎雄一さん
「僕も学生時代にカレー屋で働いていて、まさかこんなコラボが実現するとは…」
小野崎さんがチャレンジしたのは、有名カレー店と「常磐もの」がコラボした商品の販売。オリジナルカレーの中にはアンコウが使われています。
■カレーを食べた客は
「(福島は)アンコウのイメージあまり強くなかったが、実際に食べて見るとおいしい」「出汁が効いていて、魚とマッチしたカレーなんですけど、初めて食べる感じ。自分が九州出身なので東北の魚に触れる機会がないので、食べてみたいなと思います」
評判は上々のようです。
そんな「常磐もの」の魅力を発信している小野崎さんには、いま課題に感じていることがあります。
■小野崎雄一さん
「水揚げ量は徐々に増えているのですが、それを上回る需要があるので、これから供給面をどうしていくかが大きな課題だと思います」
福島の漁業は、試験操業を経て、本格操業への移行期間にあります。水揚げ量は徐々に増えていますが、2023年の水揚げ量である6530トンは、震災前の4分の1ほどにとどまります。福島県漁連は、早いうちに5割ほどまでに水揚げ量を回復させたい考えですが、原発事故で拍車がかかった担い手不足や、他の産地との競争など、課題が多いのも実情です。原発事故からまもなく13年、福島の漁業の真の復興へ、漁業関係者の奮闘が続きます。
■おのざき 小野崎雄一さん
「最後のチャンスなんじゃないかなと思っています、ここで変わらなければこのままずっと行ってしまうと思う」