【特集】なぜ不漁? 海の環境変化か 親しまれている“サケ文化”にも危機!?《新潟》
年末年始は縁起物としても親しまれる「サケ」。 実は、かつてない不漁です。
捕獲量がピーク時の10分の1となる地域もあります。
稚魚を放流し、新潟の「サケ文化」を育んできた関係者が頭を悩ませます。
町屋づくりが並ぶ村上市。
軒下に連なる塩引き鮭は冬の風物詩です。
風にさらして熟成させ、うま味を引き出す伝統の製法が受け継がれてきました。
〈東京から訪れた人〉
「塩引き鮭買った 美味しいサケなので」
〈山形市から訪れた人〉
「はらこ丼を食べたいなと思った」
〈新潟市から訪れた人〉
「実家でもよく出ますね、サケ」
県民に親しまれるサケは各地の川や海で漁が行われます。
三条市を流れる五十嵐川では、地元漁協が「ウライ」という仕掛けでサケを捕らえていました。 手にすると、この活きの良さ……ですが、漁協は頭を抱えています。
〈漁協のスタッフ〉
「これがいっぱい入れば良いんですけれど、なかなかこれが……」
〈記者〉
「今年は少ない?」
〈漁師〉
「少ない!まるきりだめだね」
サケの実態把握などの目的で行われる有効利用調査でも…。
Q)どうですか?
「ダメです」
透き通った川を覗いても、泳ぐ姿は見えません。
〈釣り人〉
「きょう1匹、きのう1匹。7、8年前に魚がいっぱいいた時は午前中に5~6本、昼からも10本以上釣ることが当たり前にありました。例年に比べると魚が年々少なくなっている」
国立の研究機関によると、日本でサケが獲れる数は減少しています。
県内では2015年度に47万匹獲れましたが、去年は5万4000匹まで減少。 今年はさらに下回りそうです。
サケに何が起きているのか。
北海道の研究者に尋ねると、不漁の要因は「温暖化」でした。
〈水産資源研究所・さけます部門・資源生態部・佐藤俊平部長〉
「地球温暖化などによって水温が上昇すると様々な環境要因が変わってきて、なんらかの影響があるのではないか」
川で生まれ、海に旅立つサケ。
その回遊経路は遠くオホーツク海を超えアラスカ湾まで。
そして数年間かけて故郷の川に戻って産卵する習性は「母川回帰(ぼせんかいき)」と呼ばれます。
しかし海の環境が変わり、サケの稚魚の多くが、生まれた川へ産卵に戻ってこられないというのです。
佐藤さんは、その理由として3つをあげています。
①サケの回遊経路や回遊のタイミングへの影響
②サケの幼稚魚が食べるエサ環境への影響
③捕食者との遭遇の関係
〈水産資源研究所・さけます部門・資源生態部・佐藤俊平部長〉
「環境変化などにより、オホーツク海までたどり着けていけるサケの稚魚が以前と比べて少なくなっているかもしれない。うまくたどり着けず、それが日本に帰るサケの資源の減少に繋がっている可能性がある。そういう仮説を立てて調査をしている」
三条市を流れる五十嵐川。
地元漁協はこの川沿いにサケの「ふ化施設」を持ちます。
卵から稚魚を育て、毎年春、川に放流します。
この施設では受精卵のふ化作業が行われていました。
〈五十嵐川漁協 飯塚喜一組合長〉
「自然産卵は稚魚になるまでの率があまり良くない、3割くらい。人間の手を加えれば、病気にさえならなければ8割くらい放流できる」
卵から稚魚を育て、川に放流。
海から故郷の川に戻ったサケからまた稚魚を育てる。
これは放流事業と呼ばれ、水産資源の確保のために国や県が支援しています。
糸魚川から長岡、佐渡など県内全域21か所で行われ、サケ文化を育てています。
柏崎市でも……。
川に網を投げ入れる「投網(とあみ)」と呼ばれる漁です。
網の中にいるサケは1匹。
〈漁協組合スタッフ〉
「かかっても1本」
今年も、不漁……。
採卵サケの稚魚を育てる柏崎市の「さけ・ます増殖事業協会」です。
成長の度合いで分けられ、時期を見て採卵します。
〈鮭鱒増殖部会長 片山洋一さん〉
「向こうへ投げたのは筋子状態。腹が固い。筋子状態はまだ採卵できないから、腹が大きいものだけとりあえずあげている」
1匹あたりから取れるのは3000から4000粒。
不漁のため、確保できた卵は例年の半分です。
〈鮭鱒増殖部会長 片山洋一さん〉
「今54万粒だからさ。例年はこのくらいの時期になると100万粒くらいいってる。もう11月の終わりなのに」
2015年度、2万匹を超えるサケがとれていましたが、昨年度はおよそ1500匹と10分の1以下。
〈鮭鱒増殖部会長 片山洋一さん〉
「うちの場合は今までだと1日100匹くらいの量。今年は良くて30匹、40匹」
育てた稚魚は放流を支援する県や国が買い上げ、協会の運転資金となります。
不漁では買ってもらえる数も減少。 収入減につながります。
〈鮭鱒増殖部会長 片山洋一さん〉
「採卵したいけど魚がいない。うちのこの施設も老朽化して修繕や入れ替えがあるんです。でも、今のような不漁だと、収入がないから後回しになる」
一方、糸魚川市の漁協では……
〈糸魚川市の漁協スタッフ〉
「これで4.1キロですね。水揚げされた中で極力状態の良いもの、形のよいものに関して冷凍して販売しています」
こちらは販売用のオスのサケ。
糸魚川市の「能生内水面漁協」は収入の一つとしてサケを販売していますが……
〈能生内水面漁協のスタッフ〉
「イクラは今年販売しないことになりまして」
稚魚の放流と両立させるため、去年からイクラの販売をやめました。
収入は減りますが、未来へ向けた投資です。
〈能生内水面漁協スタッフ 今泉功毅さん〉
「サケの増殖事業としては組合としてもできれば続けていきたいが、やはりサケが上がってこなければ始まらない厳しい部分がある」
例年にない不漁。
県の対策は……。
〈県立水産海洋研究所 樋口正仁所長〉
「様々な環境が変わっていく中で放流の時期の見直しも必要になってくると思いますので、どういう稚魚をどの時期に放流した方がこれからの新潟県の環境に適した放流になっていくか検討をしていく必要がある」
放流事業では子どもたちの見学も受け入れ、「サケ文化」をつないできました。
〈子どもたち〉
「重たい」
「(はねるサケ)獲ったぞー」
続いてきた文化をこの先にもつなげるため、最新の研究成果が待ち望まれています。
2024年12月4日「夕方ワイド新潟一番」放送より