国内CO2排出量の2%を削れ!三浦工業が「水素ボイラ」で挑む夢の巨大プロジェクト
愛媛を襲う異常気象。災害を引き起こす記録的な大雨。毎年、命の危険をもたらす猛暑。私たちの地球は今、分岐点に立っています。
この「地球沸騰時代」に挑むのは、愛媛創業のボイラメーカー。目を付けたのは、無駄に捨てられている「熱」です。
そして、未来を切り開く新たなエネルギー。タイムリミットは2050年。愛媛から日本のCO2を減らせ!夢の巨大プロジェクトに密着です。
松山市の産業用ボイラメーカー三浦工業です。1959年に三浦保氏が松山の地で創業。工場やビル、マンションなどあらゆる分野で“熱”が必要とされているところに目を付け、石炭や石油を燃やし、蒸気や温水を作り出すボイラを生産。日本の高度経済成長と重なるかのように、事業を拡大してきました。
現在は欧米、アジア各国にグループを展開する大企業に成長し、従業員数は国内外で6000人以上を数えます。
三浦工業・福岡支店に勤務する四国中央市出身の営業担当、篠原将也さんと。
佐賀県出身のプラントエンジニア、西原将智さんです。
篠原さん:
「同期です。年齢はあっちの方が上ですけど。すみません。生意気言いました」
“営業部隊”の拠点・福岡支店。
しかし、この同期コンビの役割は単に機械を売ることだけではありません。
彼らの別名は「熱ソムリエ」。篠原さんら営業担当と西原さんらエンジニアがタッグを組んで顧客の工場を訪問。そこでの熱や電気の使われ方を徹底的に診断した上で、より環境に配慮した効率の良い機器を「売る」というより、「提案」するのです。
西原さん:
「捨てられている廃熱が考えられるので、そこも分析してご提案できるものがあればと考えている」
この日、2人が訪れたのは、長崎県の食肉加工業・丸協食産。
篠原さん:
「工場がこちら本社工場とこっち第2工場で、こっち第3工場という形で、どんどん大きく広げられている」
生産量は1日15トン、モツなどの内臓肉では国内有数の規模です。
丸協食産 加藤省吾さん:
「加熱をしてそのあとは速やかに冷却をしないと、微生物の菌を冷却して低くしないといけないので」
食肉加工において水の温度は生命線。
篠原さん:
「もともと氷をいっぱい入れて氷水作ってモツを洗浄とかいろいろされてたんですけど、夏場、氷の量がすごいことになるというので、何とかならない?というのでチラー(水冷却)設備増強しましょうかと」
去年、3つある工場のうち1つに水を冷却する機械「チラー」が導入されました。
篠原さん:
「熱を温める方も冷やす方も弊社で提案させていただいている」
残る2つの工場でも最新の「チラー」を導入すべきかどうか。
「熱ソムリエ」の2人。工場内のあらゆる箇所に、熱や電気の使用状況を調べる機器を設置していきました。
西原さん:
「来週機器を取り外しましてその結果を分析するのが約1か月弱くらい。予定では2月中旬くらいにはご報告に上がれるかと思います」
ものづくりの分野や私たちの暮らしに必要不可欠な、熱や電気。それらを生産する際には、CO2が発生します。
しかしCO2が出ない再生可能エネルギーに今すぐ転換することは、コスト的に現実的ではありません。
そこで三浦工業は、2030年を境に「ステージ1」と「ステージ2」に分けて、CO2の削減計画を策定。
「ステージ1」では、「熱ソムリエ」による診断と営業で、無駄な熱と電気を徹底的に減らす。
その上で「ステージ2」では、水素やアンモニアなどで動くCO2が出ない新製品を普及させ、カーボンニュートラル、CO2ゼロを目指すというのです。
三浦工業松山本社。「ステージ2」のキーマン、新製品の研究開発を担う山田将之さんです。
山田さん:
「父もエンジニアをしてまして、漠然とそういう職に就くんだろうなと工学の道に進んで、今に至るという」
山田さんが案内してくれたのが。
「水素ボイラということで燃料として水素を燃やして、蒸気を作るボイラ」
石油や天然ガスで動く従来のボイラと異なり、CO2を発生させない水素ボイラです。
山田さん:
「フレームアレスターというのがついてまして、水素は非常に燃えやすくて危険な燃料でもあるんですね。パイプラインに火が戻ってしまうことが起こり得るので、それを絶対に防止するための安全装置も水素ボイラならではで付けているもの」
水素ボイラ開発の先頭を走っている三浦工業。なぜ水素ボイラに力を入れるのか。
山田さん:
「日本全体のCO2排出量の2%分を弊社のボイラが今出している」
日本全体のCO2排出量のうち、なんと三浦工業製のボイラが2%を占めているのです。
「数字の面で見ても弊社が担う役割は非常に大きいので、水素ボイラでそこを減らしていく必要がある」
そんな山田さんには、あるミッションが。会議室に集まったのは、研究部門の先輩たちです。
研究開発部門 三浦正敏さん:
「頭で考えることだけではわからないこともありますので、現場で実際に見ていただきたい」
与えられたミッションは。
山田さん:
「これから福島の住友ゴムさんの工場に行って、実際に稼働している水素ボイラを見てきます」
山田さん:
「やっぱり松山よりは寒いですね」
まだまだ歴史の浅い水素ボイラ。いかに普及していくかが課題です。
「(研究職は)なかなかいい結果が出ないことがずっと続く機会もあって、そういう時は苦しいというか。つらい。その分乗り越えていい結果が出た時には、嬉しさややりがいはある」
到着したのは、「ダンロップ」などのタイヤを製造する住友ゴム・白河工場。およそ4年前に三浦工業の水素ボイラを導入しています。
住友ゴム白河工場 若松駿一さん:
「ちょうど50年前工場が動き出したときに公害をすごく気にする社会情勢でしたのでやはり環境に配慮した(工場)」
この工場で山田さんが注目するのは2点。水素の供給状況の調査と、課題の炙り出しです。
若松さん:
「エネルギーの地産地消ということで、福島県の復興にも関わってくるんですけど福島県内で生成された水素を使ってそれを熱エネルギーとして使用していくと」
若松さん:
「正面にあるのが福島県で生産された水素」
生産コストが高く輸送の際もコストがかかる水素。水素ボイラを1日動かすだけで、このトレーラー1台分の水素を消費しているといいます。
続いて、水素ボイラ。
若松さん:
「先ほどの水素のトレーラーから、こちらのパイプラインを通って」
ヒアリングする中で住友ゴムの若松さんから1つの依頼が。
若松さん:
「エネルギーが変わるだけでボイラは同じというレベルまで、また開発をお願いするかもしれませんが」
より細かく効率的な水素の使い方ができないかという相談です。
山田さん:
「蒸気がいっぱい欲しい、少しでいいという要求に対して、ボイラがちゃんとその量だけの蒸気を供給できるような運転の性能が重要になってくる。そこは次の水素ボイラの一歩大きな課題というかチャレンジになるのかなと」
前回の訪問から1か月。長崎県の丸協食産を再び訪れた「熱ソムリエ」の同期コンビ。面会した松尾社長に診断結果を報告です。データを提示しながら、機械を更新する必要があるかどうか、率直に伝えます。
篠原さん:
「今回(提案する)機器だと冷却の能力が高いので、何時間使っていただいても水温10℃を担保できる」
篠原さんは、水を冷やす機械「チラー」を、より環境に配慮し高性能なものへと更新することを提案。気になる松尾社長の反応は。
丸協食産 松尾努社長:
「一日中10℃という供給ができれば氷の量も減るし、作業負担も減る流れかなと」
篠原さん:
「であればこの今回(提案に)入れさせていただいた予冷チラーで10℃まで冷やせるので」
導入に向けて前向きな回答をもらいました。
松尾社長:
「(すでに)導入したものがいい結果になっているので、それを横展開という形でさらなる改善に結び付ければいいなと思ってますし、これからも引き続きお付き合いのほどお願いしたいと」
松山市にある三浦工業の研修所には1つの石碑があります。そこに刻まれているのは創業者・三浦保が大切にしてきた言葉、「夢」です。
「夢をもって仕事に取り組もう。夢は目標であり、それを実現するのは創意と工夫、そして、あらゆる困難を克服していく積極的行動力だ」
西原さん:
「極限までCO2を削減していくところ。なるべく知見を増やしていってお客様が捨てられている熱をいかに回収するかに全力を尽くしていきたい」
篠原さん:
「一個人じゃなくて会社全体としてより良い製品を作って世の中に出したりとか、ちょっとおこがましいですけどそういう社会貢献とかまで会社は力入れてますのでその『一伝道者』としてお客様に伝えられたらなと」
山田さん:
「今回視察した水素ボイラは私が入社してまだ社歴が浅いころ、お手伝いをした程度のものになっています。なので今後の夢としては私がメインとして担当しているカーボンニュートラルの新商品で、お客様のカーボンニュートラルと地球環境の解決に貢献したいと考えています」
2050年までに“2%”を削る。彼らの挑戦はまだ、夢の途中です。