新たな教育格差も?高校無償化がもたらす光と影【#きっかけ解説】
自民党・公明党・日本維新の会の3党が、高校授業料無償化について合意し、その内容が含まれた来年度予算案が4日、衆議院で可決されました。
ー具体的にはどのような内容なんでしょうか?
高校の授業料について、今年4月から公立・私立を問わず所得制限無くすべての世帯におよそ12万円が支給されることになり、公立高校は無償化となります。
また、来年4月からは、私立高校の授業料について最大45万7000円まで加算して支給します。
この金額は私立高校授業料の全国平均額を基準に設定されたもので、この金額を超える私立高校の授業料の分は自己負担となります。
こうした支援は現行の制度を拡充したものですが、所得制限をなくしたことが大きなポイントです。
ー教育費の負担が軽減されるのは、ありがたいと思う親も多そうですね。
そうですね。これらの政策により、経済的な理由で高校への進学を諦めてしまうことは非常に少なくできると期待されています。
また、私立高校では、自治体の間で授業料の支援に差が生じていることが課題と指摘されていましたが、改善されることになります。
たとえば、取材した千葉県との県境近くにある東京都内の私立高校では、クラスの38人中、東京都に住む24人は現在、都独自の支援によって授業料が無償になっています。
一方、千葉に住む14人は東京都のような支援はありません。
住んでいる自治体の違いで人によっては年間50万円近く、支払う授業料に差が生まれています。
ー50万円も!それは大きいことですね。
そうなんです。
今回の“高校無償化”が実現すれば全国一律に授業料への支援が増えるので自治体間の格差はほぼ解消されることになります。
ーそうすると課題は何なのでしょうか?
はい。この政策の課題を2つ紹介します。
まず1つ目は、公立と私立の格差です。私立高校の授業料への支援も手厚くなることで私立に人気が集中し、公立離れが進む可能性が指摘されています。
実際に東京都や大阪府で、すでに私立高校を含む授業料の無償化が先行していますが、“公立離れ”が現れています。
例えば、大阪府では去年の公立高校の志願者はいまの入試制度が始まって以来最少となり、府内の公立高の半数近い70校が定員割れとなる事態になっています。
ーそんな深刻な事態になっているんですね
しかも、公立高校が私立に負けない教育を行おうとしても、私立と異なり独自の財源はありません。
また、国の学習指導要領にも私立より厳密に従わざるを得ず、私立並みに独自の教育を行うのは難しいのが現状です。
専門家も公立高校の運営や教育の自由度を私立並みに改革しないと、私立との競争は難しいと指摘します。
ーもう一つの課題はなんですか。
はい。2つ目は教育の格差が埋まらない、むしろ広がるのでは、という指摘です。
授業料への支援に所得制限がないことで所得に余裕がある家庭も支援されその分、お金が塾や家庭教師などに回される一方、所得が厳しい家庭は塾などへはお金を回せないのではとの指摘も出ています。
専門家は低所得の世帯と中所得の世帯の間ではむしろ格差が拡大する可能性があると警鐘を鳴らしています。
ー呉本さん、このニュースで一番伝えたいことは何ですか?
高校無償化のその先へ、教育の質を高める議論を、です。
確かに授業料への支援は充実することになりますが多様で質の高い教育をどう実現するかは根本的な問題です。よりよい教育をどう実現するか議論を続け結果を出していくことが重要だと思います。【#きっかけ解説】