「まさか自分が…」“無戸籍”問題 約120年ぶり民法改正も…“再婚”条件 当事者の声は
子どもの出生届が提出されず“無戸籍”のまま生活するケースが相次ぎ問題となっています。この問題の解決に向け、今月、民法の「嫡出推定」という、妊娠や出産の時期によって父親を推定するルールが約120年ぶりに見直されました。しかし、今回の改正では救済されない例もあり、対策を求める声があがっています。
子どもの出生届が提出されず“無戸籍”のまま生活するケースが相次ぎ問題となっています。この問題の解決に向け、今月、民法の「嫡出推定」という、妊娠や出産の時期によって父親を推定するルールが約120年ぶりに見直されました。しかし、今回の改正では救済されない例もあり、対策を求める声があがっています。
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愛知県に住む松木さん(仮名)親子を取材しました。
松木さん(仮名・43)
「もしかして、『戸籍謄本出して』と言われるかな、(幼稚園の)入園を拒否されるかなとか、そういう不安はあった」
実は、中学1年生の娘・あおいさん(仮名)は、病院や学校に通えないなど深刻な影響が出かねない“無戸籍”状態です。
松木さん(仮名)
「出生届を出さない無戸籍を選択しようと」
家庭裁判所での調停を重ね、松木さんの戸籍に入れるまで、あおいさんは“無戸籍”だったのです。その理由は、民法の「嫡出推定」という、妊娠や出産の時期によって父親を推定するルールです。
離婚から300日以内に生まれた子は、たとえ「新しいパートナーとの子」であっても、戸籍上は「前の夫の子になる」と定められているからです。松木さんは前の夫との離婚届を出すのが遅れ、離婚後約200日で出産したということです。
松木さん(仮名)
「『前夫の戸籍にしか入れられない』と聞いて、そんなはずはないでしょうと。何か違う手段があるんじゃないかと。まさか“出生届を提出しない母親”に自分がなってしまうなんて、子どもに対して申し訳ないという思いが一心にありました」
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法務省が把握しているだけでも、“無戸籍”の人は全国に約800人。(12月時点)そのうち7割が、あおいさん(仮名)のように「嫡出推定」が理由で無戸籍になったといいます。
こうした問題を解決するため、今月、「嫡出推定」が約120年ぶりに見直されました。「離婚後300日以内に生まれた子であっても、母親が再婚した場合は、例外的に“再婚後の夫の子”とみなす」とされました。(2024年夏までに施行)
松木さん(仮名)
「私の場合でいくと、今回の改正があったとしても(娘は)“無戸籍”のままだった」
しかし、「母親が出産前に再婚すること」が条件とされているため、今のパートナーとは再婚せず、「事実婚」を選んだ松木さんは該当しないのです。
松木さん(仮名)
「『結婚してから出産しないと、絶対にダメですか』って思いますし、シングルマザーで出産をすることが、世の中的にまだ認められないというのが、今回の法律(見直し)でよくわかるんですね。『令和4年の時代にマッチングしている改正のアイデアだったのかな』と疑問を感じます」
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長年、この問題に取り組んでいる「無戸籍児家族の会」の井戸正枝代表(56)は、「DV(家庭内暴力)被害」など離婚が難しいケースを例にあげ、「救済範囲が限定的だ」と指摘します。
無戸籍児家族の会 井戸正枝代表
「前の夫に連絡が取れないDVの問題だったりだとか、そういったことを抱えてらっしゃる方たちのお子さんたちというのは(戸籍が)取れないので、結局は今まで通りというか、同じような問題が解決されないまま残ってしまっている」
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法の壁で“無戸籍”状態を抜け出せない人に、どう救いの手をさしのべるか、課題が残ります。