×

【NNNドキュメント】何度壊されても… 地震被害の中"あばれ祭り"に挑んだ能登の人々の思い NNNセレクション

2024年7月27日 13:53
【NNNドキュメント】何度壊されても… 地震被害の中"あばれ祭り"に挑んだ能登の人々の思い NNNセレクション
復興とは程遠い光景が広がる奥能登の港町は、祭りの開催をめぐって揺れていた。「あばれ祭り」は、漁師町の男達にとって幼い頃から生活の中心にあった。祭りを起点に一年を過ごしていた町の日常。能登半島地震から半年。町の意見は割れたまま、「あばれ神輿」が走り出した。

◇◇◇

祭りは、町の誇り。

祭りは、町の命。

再生を願いつつ、神様を壊す夜。

今年、傷ついた町は揺れていました。

住民
「神も仏もあったもんじゃないなぁって」

住民
「ほとんど町内でも反対やね」

住民
「やっぱり宇出津、祭りに始まって祭りに終わるんや」

石川県能登町・宇出津(うしつ)。港町に、今年も祭りの季節が近づいていました。

舩本工務店・舩本憲一さん
「壊れとる所があったら、部品をすべて取り換える。なぜ壊れるかといったら、壊すような人が担ぐんです。だから、『あばれ祭り』なんです」

宇出津で生まれ育った、小川勝則さん(56)。

ディレクター
「手が真っ黒になってますけど」

小川さん
「何も汚くない。だって、神様の神輿(みこし)のものだから。このまま、飯食える」

小川さんは、30年近くこの神輿を担いできました。

宇出津の人々にとって、盆と正月よりも大切な夏の祭礼、『あばれ祭り』。

宇出津祭礼委員会・新谷俊英 委員長
「起源は、350年ないし400年くらい前のお祭り。その頃に、ここに疫病がはやって、それを京都の八坂神社から牛頭天王の化身である青蜂が成敗したと。それを、たたえる祭り」

暴れて壊れるほど、ご利益があるという神様を乗せた神輿は、徹底的に壊されていきます。

元日に襲った大地震で、町は変わり果て、多くの日常が奪われています。

4月。年に1度、宇出津の町内会長たちが集まる会合。

出席者
「今年は地震ですので、我々はこういう状況ですから」

出席者
「(町内協力金は)キリコ(巨大灯籠)を出さない町内も…」

出席者
「出さんぞ。キリコ出さないから、(町内協力金は)出さんぞ」

出席者
「みんな、はっきり言う。(祭りを)したい半分、したくない半分。でも、俺はしたい」

宇出津祭礼委員会・新谷俊英 委員長
「こういう時やからこそ、一致団結じゃないけどね。復興の旗印になって、シンボルになって。あんだけ痛めつけられた町が、こういうことをしとる。全責任を、自分がとります」

祭りを開催することだけは、決まりました。

祭りに参加するのか。各町内会で、話し合いが行われます。

住民
「せっかく、若いもんが(祭りを)したいといって、こんだけみんな団結力で。地震も、若いもんの祭りの団結力があったから、なんでもできた。(祭りを)なくしたら、もう滅びるよ。嫌でも、せんならんかな」

四明ケ丘(しあけがおか)は、賛成多数で祭りへの参加を決めました。

能登町の住民課に勤める小川さん。この数か月、震災対応に追われてきました。

小川さん
「財政的な支援や措置は、無いのが現状です」

傷ついた町に、祭りは必要なのか。

小川さん
「何が神や仏やっていうことを思うときが、もしかしたら来るかもしれん。神様を壊すっていう始まりは、腹立ったところから始まったんじゃないかな。『(神様)もっとやれよ』と、『仕事せえや』と、神様もっと宇出津の町を守ってくれやと」

祭りまで、あと3週間。神輿の完成が気になっていました。

小川さん
「こうやって修復して、新しい」

舩本さん
「再生するんやね」

小川さん
「だけど、また壊れる。地震と一緒やなと思って。どんだけ壊れたって、自分たちでこつこつと全部再生する。元通り以上のもん作ってやる。どんだけ壊れたって、気持ちも折れても、作り直してやる。作ってくれる職人もおって、それが町の人やと思えば、(地震と)一緒みたいやなって思って」

7月5日。今年も始まった、『あばれ祭り』。

町は、祭りとともに歩み続ける。

願うのは、町の再生。

小川さん
「(あばれ神輿を神社に)納めさしてもろたわ」

小川さん
「祭りやって良かったなって、本当にちょっとでもいいし、そう思ってくれたならば幸いやな」

宇出津の1年がまた、始まります。

2024年7月14日放送 NNNドキュメント’24『神様を壊す夜~能登半島地震から半年~』をダイジェスト版にしました。