航空自衛隊の精鋭パイロット部隊 機体の研究開発のため“限界”挑む
航空自衛隊の精鋭パイロット部隊。彼らの任務は限界に挑む飛行をすることです。その過酷な訓練に密着しました。
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高度9000メートルでコックピット内に突然鳴り響く警報。次の瞬間、ジェット機は速度を落とし、ふわりと回転。落下しました。実は、これは訓練で、あえて緊急事態を作り出していました。
この機体に乗り込むのは、テストパイロット。彼らの任務は航空機の開発にあたり、機体の性能を確かめるため限界に挑む飛行をすることです。そのミッションは、過酷そのもの。
この日は、低空飛行の限界にチャレンジ。レーダーに発見されない海面ギリギリを飛行し、安定性を確認します。
彼らが所属するのは航空自衛隊・飛行開発実験団。航空機の研究開発を専門とする特殊な部隊で、全国から優秀な人材が集められたエリート集団です。
そのテストパイロットをめざす5人が新たに配属され、訓練が始まります。その中の1人、石井誠人3佐。北海道千歳基地で勤務し、入隊11年目。3人の子どものパパでもある石井さんは、新しい航空機を作りたいという思いで志望しました。
飛行開発実験団 石井誠人3佐(配属時は1尉)
「妥協を許さないテストパイロットになりたい」
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テストパイロットの仕事は、操縦だけではありません。機体の特性を分かりやすく報告することも求められます。
石井3佐「揚力があがることにより、機首上げモーメントが発生します」
教官「じゃ、なぜCR(クルーズ形態)では、それが起きないんですか?」
答えに詰まる石井さん。
教官「相談して1分も2分も話し合うのは、許容範囲外」
厳しい指摘を受け、帰宅時間を過ぎても自習を続けます。しかし、連日の訓練で疲労がたまり、なかなか理解が追いつきません。
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この日、石井さんが訪れたのは、救難ヘリの基地。
石井3佐「全然乗ったことのない機体なので、緊張しております」
石井さんは、ぶっつけ本番で初めて救難ヘリを操縦することになりました。
教官「ペダルがすごく俊敏なので、動きやすいので、1ミリ2ミリとか試しながらいくと、だんだんわかってくると思います」
さらに、操縦をサポートするコンピューターをオフにします。
教官「ロールのすべりも(コンピューターが)止めてくれませんので、自分(の操縦技術)で飛ぶって感じですね」
石井3佐「おわあああ」
無事に訓練を終えて…。
石井3佐「緊張しちゃって、手が結構筋肉痛みたいな感じで、かなり力が入っていたフライトでした」
そしてこの日は、ジェット練習機を使ったテストを行います。
石井3佐「高度については、約1万フィートぐらい落ちますので、富士山ぐらいの距離を一気に落ちるということであります」
機体を高度9000メートルからあえて落下させ、その後 体勢を立て直す訓練です。
石井3佐「最初は怖かったですけど、現在は何回もやっていますので、だいぶ慣れてきました」
上空へ向かった石井さんは操縦かんを限界まで引き、同時に左ペダルを強く踏むと、バランスを崩してスピンに陥りますが…、無事に安定させました。
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配属から11か月。石井さんは試練を乗り越え、養成課程を終えました。
石井3佐「諸先輩方が築いた歴史があり、今後、その一員として研究開発業務に取り組めることを、非常にうれしく思います」
テストパイロットになった石井さん。航空機の限界に挑みながら、その腕を磨いています。