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スポーツ賭博…依存症の「高リスク」 スポーツとギャンブル…興奮は“二乗三乗”

2024年3月22日 6:29
スポーツ賭博…依存症の「高リスク」 スポーツとギャンブル…興奮は“二乗三乗”

ドジャース・大谷翔平選手の通訳を務め、解雇された水原一平氏。「ギャンブル依存症」を告白していたと報じられました。依存症の当事者や家族の支援団体の代表を務め、自身も依存症だった田中紀子さんはスポーツ賭博について、「他のギャンブルと比べてもリスクが高い。非常に危険」と指摘する。

■スピード感があるうえ「やめどきがない」

「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表
「WBCでもW杯でも、五輪でも…。私たちは手に汗を握って応援しますよね?そこにギャンブルの興奮状態が乗っかってくる。『(興奮が)2倍になる』という感覚でなく、『二乗三乗になる』という感覚がある」

ただでさえ、スポーツ観戦は、興奮をもたらしてくれる。そこにギャンブルの興奮が、重なってくるのだ。賭けをするタイミングは、試合中に何度も訪れる。打者が1人アウトになったら「次の打者はどうか」。試合の前半が終わったら、「ならば後半はどうなるか」。他の賭博と比べ、スピード感が圧倒的に違うのだという。

さらに、スポーツ賭博には「やめどきがない」と田中さんはいう。24時間・365日、世界中のどこかで行われているスポーツに、金を賭けることができてしまうのだ。

田中さん
「夫婦で会話をしているふりや、子どもをあやすふりをしている間に賭博をしていたり。家族が寝静まったら、1人リビングに行ってずっとやっていたとか、会社でトイレにスマホを持っていって、そこで賭けていたりとか」

スピード感があるうえに、やめどきがない―――。「はまりやすいなと思います」。

■誰しもが思うけど…「やめ続けることができない」

アメリカのスポーツ専門メディア「ESPN」によると、「ギャンブルは苦手です。二度とやらない。一度も勝ったことがない」と水原氏は告白している。実は、田中さんはその言葉こそが最も気になったという。

田中さん
「誰しも思うんですね。“なんでこんなことをしてしまったんだろう、もう二度とやらない”。でも、それを続けることができないんです」

ギャンブルが自分の生活を脅かしていて、家族に迷惑をかけていることは十分に理解できる。そんな自分を責めてもいる。ただ、「やめるという行動をコントロールすることができない、“やめ続けることができない”病気なんです」と田中さんは言う。

田中さん
「風邪を引いた人がせきをとめることができないのと一緒で、意思や根性では無理。薬はないなかで、適切な対処法につなげていくことが大切なんです」

■自身の体験 罪悪感がありながら「1回200万円」

ギャンブルを「自分で辞めなきゃ」と思い込むのではなく、「助けを借りなきゃ」と自分の弱さを認めていくことが大事―――。田中さんが、そう思うのは自身の体験も関係している。

ギャンブルに溺れた祖父と父。幼い頃からギャンブルは“身近”にあった。

結婚した夫とは、デートのたびに競馬場や競輪、競艇場に行った。そして海外のカジノにも。最も辛かったのは、子ども2人を幼稚園に通わせていたとき。毎月1万2000円の月謝を滞納し続けながら、競艇となると1回200万円以上をつぎこんでしまっていた。

ストレスの解消法だったギャンブルは、ストレスの原因になっていた。もちろん、罪悪感がなかったわけではない。「本当に最低の母親だな」「もう死んでしまいたい」―――。それでも、辞められなかった。“ギャンブル依存症”という病気があることを知るまでは。

■薬や治療で治るものではない

田中さんは、専門のクリニックでギャンブル依存症と診断を受けた後、回復を目指す患者たちの“自助グループ”につながることができた。

問題にぶつかったとき、どう解消したら良いのかアドバイスをもらったり、今までの生き方を振り返って、“これはやめた方がいいよ”と指摘してもらったり。ストレスがたまったとき、どう自分をコントロールしたらいいのか。責任感の強い性格については、“もっと周りに助けを求めていいよ”と言われた。

しかし田中さんは、自身の価値は、その性格にこそあると思っていたため、「生きていていいのかなって気持ちにもなった」という。

そんな田中さんが“そんな自分でもいいよ”と思えるまでには、長い時間がかかったという。ストレスのはけ口としてのギャンブルを辞めるまで―――。積み重ねたのは、同じ苦しい経験をした仲間との会話。

ギャンブル依存症は、薬や治療で急に治るものではないのだ。

■家族や友人は「“やめさせる”行動にいきがち」

賭けについて水原氏は、プロバスケットボールやサッカーの国際試合などで、野球は含まれておらず、“違法なものだという認識はなかった”などと話したという。

アメリカでは、30以上の州でスポーツ賭博が合法化されているが、大谷選手が所属するドジャースや、前の所属先であるエンゼルスがあるカリフォルニア州では違法。田中さんは、日本でも違法だと知らずにスポーツ賭博に手を染める若者が多いといい、「対岸の火事ではない」と話す。

“趣味”で始めたはずのことが、“愛好家”を通り越し、気がついたら“依存症”になっていた―――。田中さんは、「大体3%と言われていますけど、依存症を発症すると言われています。誰が発症するかは、全く分からない」という。

自分の周囲の人がギャンブル依存症になったら、どうすれば良いのか。

田中さんは、「家族や友人たちは、“やめろ”と言ったり、お金を管理したり、誓約書を書かせてみたり。『当事者をなんとかさせる』という行動にいきがち」と指摘する。だが、その行動は正解ではないという。当事者自身も「やめろ」という言葉は理解している。それでも「やめ続ける」という行動ができない、病気なのだ。

大切なのは、治療や支援につなげること。

田中さん
「その人の人格や性格の問題だと思うと、いつまでも解決策は見つからない。ギャンブル依存症という病気を理解しようと、一人ひとりが取り組んでもらえるとうれしいですね」

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