女児7人に“性暴力”「去勢して一生独房から出ないで」元保育士が犯行繰り返した保育園の“死角”とは【#司法記者の傍聴メモ】
「娘の成長にどんな影響を及ぼすのか心配でならない。去勢して一生独房から出ないで欲しい」「娘は寝言で『やめて』と繰り返すことがあります。絶対に許しません」
被害にあった子どもの親が涙ながらに語った非難の言葉。向けられたのは、本来、子どもを守る立場にあるはずの保育士だった男。約2年の間に、勤務先の保育園で女児7人に性暴力を加えた罪に問われていた。
安心して子どもを預けられる場所であるはずの保育園で、なぜ男は犯行を繰り返したのか。法廷では、保育園の“死角”が明らかになった。
■女児7人に“性的暴行”“わいせつ行為” 起訴内容「全て認めます」
今年6月から東京地裁で始まった裁判。元保育士の長田凪巧被告(27)は2021年から2023年にかけて、勤務していた都内の2つの保育園で当時3歳くらいから6歳の女児7人に対し、性的暴行を加えるなどし、さらにこのうち3人については、その様子をスマートフォンで撮影した罪に問われていた。
初公判で「全て事実です」と述べ、いずれの起訴内容についても認めた長田被告。園児を守り、成長を支えていくべき立場の保育士は、保育園で犯行を繰り返していた。
専門学校を卒業し、2017年に保育士になった長田被告。父親が保育園を経営していたため、幼少の頃から「自分が保育園を継ぐ」と考えていたという。
最初の犯行は、保育士になって5年目の時だった。あるきっかけがあったという。
長田被告(被告人質問より)「保育中に女の子が自慰行為をしているのを見つけてしまい、非日常的、非現実的なところに欲を覚えてしまった」
幼児が無意識に下半身を触ってしまうのは珍しいことではないと理解していたという長田被告。しかし、長田被告には“性癖”があった。未就学児から高校生までの年代の児童ポルノの動画を高校生の頃から集めていたというのだ。
“遠い世界のものだと思っていたが児童ポルノみたいなことが目の前で行われている。児童ポルノの動画と同じようなことをしてみたい”
クラスの教室で女児と2人きりになると、ピアノの下に女児を連れて行き、性的暴行を加えたという。そこは、防犯カメラの死角だった。やめないといけないという葛藤があったが、欲に負け犯行に及んだ。
この時の心境について、「焦りと、とんでもないことをしてしまった絶望感や女の子への罪悪感があった」というが、長田被告は別の女児にもわいせつな行為をし、この保育園では2人が被害にあった。
■“押し入れ”に“バンダナ”…繰り返された手口は
翌年4月に、父親が園長をつとめる保育園に移った長田被告。手口を“パターン化”させ、犯行をエスカレートさせていった。
まず、1人で園児の昼寝の見守りをする時間帯に、起きている女児におもちゃの部品の場所を聞くふりをするなどし、他の職員らの目につかない押し入れやトイレに呼び出す。そして、バンダナで目隠しをした状態で性的暴行を加えたという。女児は自分がされていることの意味を十分に理解できないうえに、視界まで奪われていた。「言ってはいけない」と口止めされた女児も複数いたという。
長田被告(被告人質問より)「頭と心の中ではやめなくちゃいけない、被害者を増やしちゃいけないと思っていましたが、心と体が真反対の方向を向いていて、自分のコントロールを失っていました」
検察官「女児に性的欲求があるのに保育士をしていることについて、どう思っていたのか」
長田被告「率直に不適切であると思いました」
長田被告自身も幼い子ども2人の父親。弁護士から「あなたの子どもが同じようなことをされたらどんな気持ちになるか」と問われると、「加害者に対して殺したいほどの憎しみ、裏切られた悲しさを感じていたと思います」と答えた。
■「夜中に突然泣き叫ぶ」「小さな体に地雷を埋め込まれた」保護者らが悲痛な訴え
最初の犯行から2年以上経過し逮捕された長田被告。被害にあったのは2つの保育園で7人にのぼったが、7人目の女児が母親に被害を打ち明けたことで事件が発覚した。その女児の母親は意見陳述で、当時の様子を涙で声を詰まらせながら明かした。
被害にあった女児の母親「娘は保育園から帰ってきてすぐに私たちに起きたことを話しました。言ってはいけないと言われ、娘は話してよいのかわからないと思っているのか、複雑な表情でした。大切な娘の初めて見る表情で、いまでもその表情が頭から離れません」
事件の後、娘に異変が起きているという。
被害にあった女児の母親「娘は寝言で『やめて』と繰り返すことがあります。なぜ娘がこんなに苦しい思いをしなければならないのか。胸がつぶされる思いです。性犯罪は“心の殺人”と聞いたことがありますが、その通りだと思います。長田被告を絶対に許しません」
また、別の女児の父親は「娘の成長にどんな影響を及ぼすのか心配でならない。去勢して一生独房から出ないで欲しい」と話した。別の保護者も代理人を通じて「娘は夜中に突然泣き叫ぶことがある。これから先の人生で一体何がトリガーになるかわからず心配。娘の小さな体に地雷を埋め込んだようなものだ」と意見を述べるなど、保護者が一様に心配していたのは、子どもへの将来の影響だった。
ついたて越しに、顔を赤らめながら保護者の訴えを聞いていた長田被告。最終意見陳述で「自分の欲を満たすために何の罪もない子たちを被害者にしてしまった。ただただ、私は卑劣な犯罪者でした。心から申し訳ないと思っており、何も弁解の余地はありません」と謝罪した。
そのうえで、「本来安心して子どもを預けられるはずの保育園で、大切な我が子が被害を受けたことに対する保護者の悲痛な心情は察するにあまりある」として、懲役14年の実刑判決を言い渡した。
長田被告は真っすぐ前を向き、身じろぎせずに判決を聞いていた。
(社会部司法クラブ記者・宇野佑一)
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【司法記者の傍聴メモ】法廷で語られる当事者の悲しみや怒り、そして後悔…。傍聴席で書き留めた取材ノートの言葉から裁判の背景にある社会の「いま」を見つめ、よりよい未来への「きっかけ」になる、事件の教訓を伝えます。