×

睡眠薬使った性犯罪 巧妙化する卑劣な手口

2020年8月29日 8:00
睡眠薬使った性犯罪 巧妙化する卑劣な手口

いま、性暴力への対策が国をあげて進められている。

「何かされたかもしれない・・・」被害者自身も確信を持てない、そんな事件が相次いでいる。一体何が起きているのか。浮かび上がったのは性被害にあったことすら気づかせないある手口だった。

◆性被害に支援態勢強化

今月、内閣府が性犯罪被害者の支援をするため、ある方針を決めた。性犯罪の被害者が電話で相談しやすくなるよう、ことし10月までに全国共通の短縮ダイヤルを導入するという。

電話すれば各都道府県にある「ワンストップ支援センター」につながり、産婦人科での診察やカウンセリングのほか、内容によっては警察への届け出を促すなど、被害にあった直後から総合的な支援をするとしている。

どんな小さな声でも拾い上げ、被害者の泣き寝入りを少しでも防ごうというのが狙いだ。

◆巧妙化する手口

国がここまで対策を急ぐにはワケがある。レイプは「魂の殺人」と呼ばれ、被害者の心身に深刻な傷を負わせ、その後の人生にも影響を与える卑劣な犯罪である。

しかし、実は最近、性被害にあったこと自体を気づかせないという巧妙な手口が目立つようになってきているのだ。

今月、ある男が警視庁に再逮捕された。無職の47歳の男。

逮捕容疑は去年11月、東京・港区でAさん(40代・女性)を抵抗できない状態にし、性的暴行を加えた疑いだ。この男が逮捕されるのは3回目。すでに2件は起訴されている。

Aさんの場合、こんな手口だったという。

男とAさんはマッチングアプリを通じて知り合った。男は年齢を5歳ほど若く偽ったうえ「ヒロシ」と名乗り、後日、Aさんと初めて会うことになった。

約束の日の夜7時頃、駅前で合流すると、男はファストフード店で事前に買っておいたカフェラテをAさんに渡して飲ませたという。

しばらくするとAさんは意識がもうろうとなった。男はAさんをさらに居酒屋などに連れ回して酒を飲ませ、最後はレンタルルームで犯行に及んだとみられている。

◆「何かされたかも・・」

実は、カフェラテには男によって事前に「睡眠薬」が混ぜられていた。捜査関係者によると、Aさんはカフェラテを飲んでからその後の記憶がない。「日付が変わった頃、気がつくと1人で外を歩いていた」と話しているという。その後、男とは連絡がとれなくなったという。

「何かされたかもしれない」

そう友人には相談したが、記憶があやふやだったこともありAさんは警視庁に被害を届け出ることはなかった。

事態が動いたのは半年以上が経った今年6月だった。警視庁が別の女性に対する同様の事件で男を逮捕したのだ。押収した携帯電話やパソコンから犯行の様子を自ら撮影した動画などがみつかり、Aさんをはじめほかにも被害者がいることが判明した。

捜査員がAさんに確認したところ、Aさんは「やはり被害にあっていたのか」と肩を落とし、「絶対に許さない」と怒りをにじませたという。

警視庁のある捜査関係者は「犯行は用意周到。睡眠薬だけでなく、居酒屋で酒を飲ませることで記憶が混乱するようにしていた。被害者はあと10数人はいるとみているが、本人からの届け出がないと特定できないものもある」と話す。

性犯罪の被害者は事件の性質上、声をあげることをためらいがちだ。さらに睡眠薬などの薬物を使った手口がより事件を発覚させにくくさせているのだ。

◆早めの相談を

警察庁によると、過去5年間に全国で摘発された性犯罪(強制性交、強制わいせつなど)のうち、年間で30件~80件以上は催眠成分の入った薬物を使用したものだった。処方箋があれば入手できる睡眠導入剤が使われるケースが多いという。

性的暴行に悪用される強力な睡眠薬などは通称「デートレイプドラッグ」ともよばれ、
インターネットでも簡単に入手できてしまうのが実情だ。

捜査関係者によると、薬物を使った性犯罪の特徴として、一人の犯人が複数の被害者に繰り返し行うことがあげられるという。薬物を使うことで被害者の記憶が欠落し、さらに、薬物によっては数時間から数日で体外に排出されてしまうため証拠が消えてしまい事件が発覚しにくい。これに犯人は味をしめるのだという。

「さらに被害者は『(性被害を)信じたくない』 という心理も働く」と捜査関係者は指摘する。それでも、「証拠採取など、性犯罪の捜査は時間との勝負。少しでも疑わしいのであればためらわずに警察へ相談してほしい」と話す。

緊急を要する場合は110番通報が好ましいが、警察にも性犯罪の被害に悩む人向けに「#8103(ハートさん)」という無料短縮ダイヤルがあり、そちらの利用もよびかけている。

薬物を使った性被害から身を守るにはどうすればいいのか、警視庁のある捜査幹部はこう警鐘を鳴らしている。

「見知らぬ人から渡された飲み物は口にしない。トイレで席を立つときも飲み物は持って行く。これだけ事件が横行するなか、特に初対面の相手にはそれぐらい警戒してほしい」