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「このままではヤバい…」各地で路線バスが崩壊寸前…いったいなぜ?【#みんなのギモン】

2023年10月5日 18:35
「このままではヤバい…」各地で路線バスが崩壊寸前…いったいなぜ?【#みんなのギモン】


「この度、就労困難者が増加したため当面の間、減便して運行いたします」

記者が住む神奈川県逗子市、逗子駅のバス停にはこのようなお知らせが掲示されていました。就労困難者の増加、つまり、運転する人がいないということです。最新のデータでは、2030年には必要な運転手数が3万6000人分も不足するという試算もあります。全国で深刻な問題になっているバスの運転手不足、それは地方だけでなく東京郊外でも。現場でいま何が起きているのでしょうか。最新事情を追いました。(報道局 調査報道班 川崎正明)

夕方の帰宅時間に間引きされるバス

神奈川県川崎市、小田急線向ヶ丘遊園駅。小田急バスの停留所にある電光掲示板にはこのようなメッセージが流れていました。「乗務員不足のため一部路線を臨時ダイヤで運行しております」

帰宅時間の午後5時過ぎ、田園都市線あざみ野駅方面に向かうバス乗り場には20人以上の行列ができていました。この時間は約10分間隔でバスが出発するのですが、午後5時28分のバスが出た後、40分発が間引かれて運休、52分発まで24分間バスが来ないのです。

女性の利用客
「減便されたらイヤですし困ります。20分近く待つのは大きな問題です」

20代男性の利用客
「自分は車の免許を持っておらず、生活の中でバスの利用が必要なので(便が)減ったら困ります」

小田急バスによると、この路線を運行する登戸営業所管内では9月26日から32便が運休。現時点では運行再開の見通しは立っておらず、今後、運転手の採用状況とダイヤ改正により運行を再開するか検討するとしています。また武蔵境営業所管内では全体の1割弱にあたる167便が運休しているといいます。

大阪の金剛バスは廃止届け

大阪府富田林市。難波から電車で45分程の場所にある大阪南東部のベッドタウンです。この場所に本社を構え15路線(運休中の1路線含め)を運行する金剛自動車は、乗務員の不足や売上の低下などから今年12月20日をもってバス事業を廃止すると発表しました。住民の通勤通学などに深刻な影響を与えかねない、バス事業廃止という決断。運転手不足は深刻な問題となっています。

3万6000人の運転手が足りない

先月、日本バス協会がバス運転者数の今後の推移をまとめた最新のデータを公表しました。2017年には13万3000人いたバスの運転手が、2023年は11万1000人に減少。2030年には9万3000人にまで減るとしています。路線維持に必要な人員は12万9000人ですので、2030年には3万6000人の運転手が足りなくなるとの試算です。

さらに2024年からは時間外労働の上限規制や休憩時間の改正が行われるため、運転手の働く時間が今よりも短くなります。つまり、来年からは路線を維持するためには運転手の数がさらに必要になるのです。

日本バス協会は「賃金や労働条件の改善、女性運転者の活用、外国人運転者の導入検討などを進めているが、運転者を確保できなければ減便や廃止は避けられない」としています。

「このままではヤバい」と訴えたバス会社

神奈川県を中心に路線を展開する京浜急行バス。高速バスを含めて806台の車両と(8月31日現在)、1333名(9月16日現在)の運転手を抱えるバス会社です。現在、逗子、追浜営業所管内のバスが一部運休しています。(10月4日現在)

京浜急行バス 人事労務課 玉井純 課長補佐
「コロナも含めて就業困難者が増加しており、今後さらに就労困難者が増えた場合は、他の路線も減便するかしないかという状況です。乗務員の数がギリギリであることは間違いなく、来年度以降、最大で数十名の運転手が足りません」

この会社では今年の夏、親会社である京浜急行の電車1編成すべての車内広告を「バス職員募集」のポスターで埋めるキャンペーンを行いました。

さらに600両すべての路線バスにも運転手募集のポスターを掲示しています。ポスターの中には「人財不足で、このままではヤバいです」と将来への不安を訴えた内容も。

このようなキャンペーンを行ったことで参加者がゼロの日もあった会社説明会に、10人近くが来るようになったといいます。

新人運転手…なぜ、この世界に?

神奈川県横須賀市、追浜営業所の新人運転手、藤沼天太さん22歳。ツーブロックに刈り上げた髪型で、記者には今どきの若者にみえました。その藤沼さんの乗務に同行させてもらいました。藤沼さんは2020年4月に入社。入社後の3年間は羽田空港のリムジンバス乗り場で乗客アテンドのサービスに就いていました。京浜急行バスでは入社後すぐに運転手研修業務には就かせず、まず現場に出てお客さんとのやりとりを学ばせるといいます。

そして今年6月、運転手見習いとなり2か月間の教習後、8月に追浜営業所配属となり、指導運転手の元、営業運転に就いています。記者が取材に伺った日、藤沼さんは京浜急行追浜駅近くと丘陵地帯を切り開いた住宅街を結ぶ「湘南鷹取循環線」に乗務していました。

給与、待遇面の改善が必要では…

午後3時過ぎの便の乗客は約20人、その8割弱がお年寄りでした。車内で転倒しないよう慎重な運転技術が求められます。トラックなどの交通量の多い国道16号線を走った後、丘陵地帯に開発された住宅街へ向かう山道を登っていきます。トンネルや急カーブの連続、運転だけでも大変だと感じましたが、それ以外にもやることはたくさん。運賃の収受、ドアの開閉、アナウンス、さらには運転席を離れて車いす利用者の介助と様々な業務をこなしていきます。勤務時間も不規則で、この日は午後出勤。午後2時13分に乗務を開始し、午後10時42分に終了するまで、この路線に10回乗務します。

生まれ育った横須賀の地元で、人の役にたつ仕事に就きたかったという藤沼さん

京浜急行バス追浜営業所 藤沼天太運転手
「(運転手不足によって)自分たちが回してるダイヤが今後、どうなってしまうのかという不安や、乗務するバス路線が廃止になり、自分たちも仕事がなくなるという不安はあります。自分の時もそうだったように、憧れられる先輩になれるよう頑張って、少しでも運転手になりたいという人が増えてもらえたらと思います」

不規則な勤務時間や重労働、そして乗客の命を守り安全に目的地まで運ぶという一番の使命。運転手のなり手が少ないというのも理解できる気がしました。

国土交通省によるとバス運転者の平均年齢は53.4歳(2022年)で今後、大量に退職者が出ると予測されています。年間所得額は全産業平均の497万円に対し、バス運転者は399万円(2022年)と、約2割も低い状況です。

また、30両以上保有する乗合バス事業者218のうち94%が赤字経営です。すでに2010年度から2021年度にかけて全国で1万5332キロメートルの路線が廃止されています。

“人々の足”となる公共交通機関が“崩壊”することのないよう、国や自治体のさらなる支援と、利用者一人一人がさらに危機感を持つことが大切ではないでしょうか。

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