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藤井五冠“最年少”名人なるか…チャンスは一度きり 渡辺名人が思い起こした30年前の「アレ」

2023年1月3日 13:00
藤井五冠“最年少”名人なるか…チャンスは一度きり 渡辺名人が思い起こした30年前の「アレ」
竜王防衛から一夜明けての会見で藤井五冠がしたためた「千思万考」
次々と記録を打ち立てる将棋の藤井聡太五冠。2023年も注目の戦いが控えている。レジェンド・羽生善治九段との初めてのタイトル戦。「名人」挑戦権の行方、そして最年少名人の記録更新は。20歳の王者はまだまだ大記録樹立の可能性を残している。
(社会部 内田慧)

2022年、藤井五冠は年明け早々から大記録を打ち立てた。1月から2月にかけて行われた王将戦七番勝負で、藤井五冠は4連勝のストレート勝ちで王将のタイトルを奪取。史上4人目の五冠達成者となった。

これまでの五冠は大山康晴十五世名人が39歳10か月、中原誠十六世名人が30歳5か月、そして羽生善治九段が22歳10か月での達成だったが、藤井五冠は19歳6か月と大幅に更新した。

8大タイトルのうち、5つを保持した藤井五冠。2022年は防衛戦が多くなり、公式戦の対局が1か月半以上ない時期もあったが、「叡王」「棋聖」「王位」そして「竜王」を防衛し、五冠のまま2023年を迎える。

■最も伝統あるタイトル「名人」への道

将棋の8大タイトル。この中には挑戦権獲得まで、デビューから最短でも5年かかるタイトルがある。それは400年以上の歴史を誇る称号、「名人」。

江戸時代の1612年から幕府の庇護を受けながら、「名人」の称号は長く世襲されてきたが、明治維新によって経済的基盤を失い家元制度は衰退していった。そして1935年に実力制になると、それまでは一度名乗ると終生「名人」であったものが、現在のタイトルという形となった。

現在、「名人」に挑戦するには1年を通して行われる順位戦のリーグを勝ち上がって最上級のリーグA級でトップに立たなければならない。

順位戦は下からC級2組、C級1組、B級2組、B級1組、A級と5つのクラスに分かれていて、多くの棋士がプロデビューするとC級2組から参加する。そのため、名人への挑戦権を獲得するのはデビューから最短でも5年かかる。

藤井五冠は2022年にトップのA級に昇級した。挑戦権を獲得したら、「名人」を奪取できるのは2023年の5月から6月で、その時、藤井五冠はまだ20歳と10か月ほど。

「名人」の最年少獲得記録は谷川浩司十七世名人の21歳2か月で、この記録を更新する可能性を残しているが、記録更新のチャンスは1度しかない。

■名人就位式で渡辺明名人が言いかけた言葉

挑戦者を待ち受けるのは渡辺明名人。2022年の名人戦では挑戦者の斎藤慎太郎八段を退け、3連覇を果たした。8月に行われた名人就位式で渡辺名人は次の挑戦者について以下のように語った。

渡辺明名人
「将棋界では以前、米長先生が同じような状況で非常に名言を残されていたんですけれども、その時の映像を探したんですけれども見あたらなかったので今回は差し控えさせていただきたい(会場笑い)」

この発言にピンと来た方は、かなりの将棋通だろう。米長邦雄永世棋聖の「名言」とは、1993年の名人就位式でのこと。49歳にして初めて名人を獲得した米長永世棋聖。この時の49歳という年齢は、防衛を除く名人獲得としては現在でも最年長記録となっている。

その米長永世棋聖はこう語ったのだ。

米長永世棋聖「来年、アレが出てくるんではあるまいか…」。

「アレ」とはこの年、A級に昇級してきた羽生善治九段。まさに今の藤井五冠と同じ状況だ。翌年、米長永世棋聖の予言通り、羽生九段は名人戦の挑戦者となると、米長永世棋聖は名人を奪取された。

残り少なくなった今期の順位戦、挑戦者は誰になるのか。渡辺名人は年明けごろから挑戦者争いを注視し、研究をすると語っている。

名人挑戦者が誰になるか、気になるところだが、藤井五冠はその前に注目のタイトル戦を控えている。1月8日から始まる王将戦七番勝負では将棋界のレジェンド羽生善治九段が挑戦者として2年ぶりにタイトル戦に登場し、藤井五冠に挑む。

19歳で初めてのタイトルとして竜王を獲得し、1996年には当時の7つのタイトル独占を果たした。

その後、羽生九段は規定の回数、同じタイトルを獲得すると得られる「永世称号」の資格を2017年までに、叡王をのぞく7つのタイトルで得ていて、「永世七冠」となっている。

2018年にタイトルを全て失うまで羽生九段が積み上げてきたタイトル獲得数は通算99期で歴代最多。多くの棋士がタイトル獲得を果たすことなく引退となる中で、まさに驚異的な記録。

羽生九段は2022年、順位戦でA級からB級1組に降級となり、不調もささやかれていたが、再びタイトル戦に戻ってきた。

ファンの待ち望んでいた藤井五冠と羽生九段の初のタイトル戦。挑戦権獲得後の会見で、羽生九段は「ひのき舞台で対戦を実現することができて本当によかった」と語った。

タイトル獲得通算100期も掛かっているが、タイトル戦を通じて羽生九段は次代の後継者に、何を伝えるのだろうか。

■8大タイトル独占の可能性も

2022年最後の公式戦となった、12月27日の対局で藤井五冠は、「棋王」への挑戦権を獲得した。これで藤井五冠には2023年に将棋の8大タイトル独占・八冠の可能性も出てきた。八冠の「可能性」が出てくること自体、異常なことだ。

対局後の会見では、記者から史上初の八冠達成に向けた思いについて質問が出た。

「目指すにはまだまだ実力が足りない」「少しずつ実力を高めていって、その先にそういう事(八冠)が見えてくれば」ーー藤井五冠は控えめながらも、このように先を見据えた。

2023年2月からは羽生九段以来、史上2人目の六冠達成をかけて、棋王の渡辺明名人に挑む。残るタイトルは3つ。タイトル戦負けなしで着実に高みへ登る藤井五冠。8大タイトルの独占が達成される日は近いのかもしれない。

(※2022年末時点の敬称を使用しています)