海外サイトは捕まらない?FC2めぐる攻防
いま、警視庁が目を光らせているサイトがある。それは、動画販売サイト「FC2コンテンツマーケット」だ。このサイトについて、警視庁は「違法なアダルト動画の無法地帯になっている」と危機感を強めている。「海外サイトだからバレない、捕まることはない─」いやいや世の中そんなに甘くはない。
■「FC2コンテンツマーケット」実際に見てみると…
警視庁保安課が目を光らせているのが動画販売サイト「FC2コンテンツマーケット」だ。簡単に言えば、個人がアダルト動画などを投稿して出品、閲覧者が購入するという仕組みになっている。
実際にサイトを見てみると、下着姿や裸の女性の写真が並び、そこには「個人撮影」などといった言葉が添えられている。さらにサムネイル写真をクリックすると、女性がわいせつな行為をしている画像や動画が現れる。個人が撮影したと思われるものや、盗撮とみられる動画も目立つ。「了解のもと撮影しています」と注釈も書かれているが定かではない。
ほかにも「期間限定販売」「今後は入手不可能な映像」などと購入をあおる言葉も。中には「無修正」をうたった20分ほどの動画が2780円で売られていた。
もちろんアダルト動画の中でも無修正やモザイクが極端に薄いものは摘発の対象になる。
■FC2でわいせつ動画販売…一斉摘発
ことし11月、このサイトで無修正のわいせつな動画などを販売したとして警視庁などは男7人を一斉に逮捕した。7人に面識はない。逮捕されたのは会社社長や研究機関の職員や海上自衛官など職業も様々だ。
自ら撮影したわいせつな動画や、ネット上で集めた無修正動画を販売し、7人の販売額は合計約4億7000万円にのぼるとみられている。7人のうちの1人、海上自衛官の男は、動機について「コロナで在宅勤務になり副収入が欲しくなった」と供述したという。
コロナ禍もあってか、副業や副収入といった動機で、こうした違法なわいせつな動画を出品する人があとを絶たない。警察も野放しにしているわけではないが、警視庁のある捜査幹部は摘発の難しさについてこう話す。
「FC2の画面は日本語で表示され、明らかに日本人向けのサイト。だが本社はアメリカにあるため、違法なわいせつ動画は海外のサーバーを経由して日本国内に販売されている。販売者を特定するには、運営元のFC2に照会するのが最も早いが、アメリカでは無修正動画が違法ではないため協力を得るのは難しい」
ネット上の犯罪では「海外」という壁に捜査が阻まれることも多いが、警視庁などは今回、別事件で押収した証拠品の解析や関係者の供述から7人を特定し、逮捕にこぎつけたという。
「具体的な捜査手法は明かせない」とのことだが、あらゆる手段を駆使して取り締まりを行っているのだ。
「海外」という壁を越えて地道な捜査が実を結んだケースには次のようなものもある。
■盗撮動画販売…被害女性の証言きっかけに
ことし6月、20代の女性が警視庁にこんな被害を訴えた。
「私が盗撮された動画がFC2で売られている」
この女性、風俗店の従業員だった。客とのわいせつな行為の動画が知らぬところで売られていたというのだ。撮影を許したことはなく、おそらく盗撮されたもの。この動画について女性は思い当たる節があった。1か月ほど前に、盗撮したかどうかで40代の客の男とトラブルになっていたからだ。
捜査は早かった。女性の証言や防犯カメラの捜査などから、1か月後には女性を盗撮したとして42歳の会社員の男が逮捕された。さらに、この時に押収した男のパソコンなどを解析したところ、FC2に出品しているアカウントが見つかった。この男と盗撮動画を販売していた人物が同一人物であることが証明されたのだ。
その後、男はFC2でわいせつ動画を販売した疑いでも再逮捕された。運営元のFC2に照会せずとも立件したのである。
捜査の結果、動画は、メガネ型のカメラでわいせつな行為のサービス中に盗撮されたものだった。はじめから盗撮した動画を販売する目的があったのだろうか。調べに対し、男はこう供述している。
「海外サイトなので捕まることはないと思っていた」
しかし、捜査幹部はこれを一蹴する。
「運営元に照会ができないからには、一つ一つ地道に関係者を割り出していく。話を聞いて販売者を特定する。海外サイトだから違法でもバレないというのは大きな間違いだ」
■関連業者も見逃さない
それだけではない。取り締まりを強化するため、警視庁はいま、摘発の対象を関連業者にも広げている。
FC2では動画が購入された場合、出品者に対してポイントが支払われる仕組みになっている。このポイントは通常、換金するのに1か月ほどかかるが、すぐに換金したい出品者は、業者を通じてポイントを商品券などと交換することもできる。
警視庁が目を付けたのは、この交換業者だ。業者は手数料をとりポイントを商品券と交換しているのだが、ここに捜査のメスをいれたのだ。
警視庁はことし11月、「わいせつ電磁的記録等送信頒布幇助」の疑いで、都内にある商品券販売サイト運営会社の社長の男を書類送検している。前述のメガネ型カメラによる盗撮事件では42歳の男が逮捕されたが、この男が動画を販売するのを手助けしたという容疑だ。
社長の男は「FC2」と契約を結び、男が動画販売で得たポイントを24万円分の商品券に交換。男は、その商品券を換金して、別のわいせつ動画の制作資金にしていたという。
さらに、足がつきにくくなるように、自らが動画を直接出品するのではなく出品代行業者を通じてFC2に出品するケースもあるという。警視庁はこうした業者についても摘発できないか現在検討している。
日々、ネット上に出品される違法なわいせつ動画。警視庁の捜査幹部は「副業として手を出す人も多いが、違法なわいせつ動画がまん延することによって他の犯罪を助長することにもつながり得る。どこかで歯止めをかけなければならない」と警戒を強めている。
(*写真はFC2コンテンツマーケットHP)