魔物か神か…H3ロケット開発 失敗にも負けず 技術者たちの挑戦【NNNセレクション】
約30年ぶりとなる日本の新型ロケット「H3」は、失敗との闘いだった。
2023年2月、巨大プロジェクトを束ねた 、JAXA・H3プロジェクトマネージャの岡田匡史さんは、涙を流しながら話した。「お子さんもいらっしゃいまして…。ごめんねっていう気持ちです」
ただ、宇宙開発の未来のために。 失敗しても、挫折しても。技術者たちは、決して諦めなかった。
岡田さんはこれまで、「エンジン開発は、魔物が潜んでいます」と常々話してきた。
魔物が潜むというロケットの新型エンジン「LE-9」は、順調に燃焼試験を重ねていた。 しかし2020年9月、JAXAは突然の“延期”を発表。技術者たちは徹底的に不具合を検証し、エンジンの改良を重ねた。
2021年、延期発表から9か月に岡田さんは「まあ、9合目なんですけれども、これから先の坂道が、ロッククライミングに近いような」 と、印象を語っていた。
―――魔物は、まだまだどこかにいる?
岡田さん
「それは、ずっといると思います。魔物は“技術の神様”ですので。我々がいかに技術に向き合っているかが、試されているんだと思います」
そして、その“魔物”は容赦しなかった。
岡田さん(2022年1月)
「H3ロケット試験機1号機の、2022年3月までの打ち上げを見合わせることとするとして、発表させていただきました」
原因は、またしても「第1エンジン」の「LE-9」。2回の延期で、打ち上げは2年の遅れ。 開発費用は297億円追加された。 岡田さんは、「“寝ても覚めてもH3”という状態になっています」と明かした。
2023年2月17日―――。種子島の発射台に、H3ロケットが姿を現した。 総合指令棟「RCC」では、打ち上げができる状態かどうかの判断が行われていた。
「第3回GOです。頑張って」という岡田さんの言葉で始まったカウントダウン。ところが、「リフトオフしません」 というアナウンスが…。司令棟内には 「え?なんだ?」 という声が響いた。
「ただいま、メインエンジンは着火しましたが、SRB-3は着火しなかった模様です」とアナウンスが流れる。
魔物は、三度現れた。 これまで苦しめられてきた「LE-9」は無事着火したが、補助ロケットに着火信号を送るコントローラーが異常を検知したため、補助ロケットが着火しなかったのだ。
打ち上げを見に来た女の子の「心が爆発しそうなくらい、本当に楽しみにしていました」 と話した。岡田さんは、「ごめんねっていう気持ちです」 。
それから約1か月後の3月7日、再度の打ち上げが設定された。 先端に地球観測衛星「だいち3号」を載せ、H3ロケットは打ち上げ態勢に入った。
岡田さん
「前回打ち上げの中止の理由になりました電気系統も、やるだけのことはやり切りましたので」
「頑張ります」
その日は、見事に晴れ渡った。
岡田さん
「それでは落ち着いていきましょう。最終GO / No GO判断」
「GOです。お願いします」
リフトオフの瞬間、「行け!」と力を込めた岡田さん。「LE-9」も補助ロケットも、無事着火した。
打ち上げを見に来た親子は「ママ、ロケットが通った」 「ずっと飛んでった、すごいよ」
一度わいた司令棟だったが、すぐさま技術者たちはこれまでにない異変を察知した。 「あれ?来ないぞ。何これ」とつぶやく岡田さん。 すると、「ロケットはミッションを達成する見込みがないとの判断から、指令破壊信号を送信しました」というアナウンスが告げた。
開発費・約300億円の衛星もろとも、H3ロケットはフィリピン沖に落下した。
岡田さん
「みんなで頑張ったH3が、そこでいなくなってしまった。技術の神様にしては、ちょっと手厳しかったですかね」
「完全に参りました。今回は」
打ち上げを見に来た女性は、「一歩一歩です。大丈夫、また頑張ってくれます」と涙ながらに話した。技術者たちは決して諦めなかった。 合言葉となったのは「Return to Flight」 だった。
※2023年6月4日放送 NNNドキュメント’23『魔物か神か~H3ロケット 指令破壊への決断~』をダイジェスト版にしました。