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【解説】“紀州のドン・ファン”殺害事件・元妻初公判 “殺人”どう立証?

2024年9月12日 21:00
【解説】“紀州のドン・ファン”殺害事件・元妻初公判 “殺人”どう立証?

“紀州のドン・ファン”と呼ばれた資産家の男性を殺害した罪に問われている元妻の裁判員裁判が始まりました。元妻は「殺していない」と無罪を主張しました。

森圭介キャスター
「事件が起きたのは6年前、2018年の5月でした。和歌山県田辺市の自宅で“紀州のドン・ファン”こと資産家の野崎幸助さんが亡くなっているのが見つかりました。死因は急性覚醒剤中毒でした」

「事件から3年が経過した2021年に野崎さんを殺害したなどとして逮捕・起訴されたのが、元妻の須藤早貴被告です。須藤被告は、55歳年の離れた野崎さんと事件の3か月前に結婚したばかりでした」

「ただ須藤被告が、野崎さんを殺害したとする直接的な証拠がありません。検察側が状況証拠を積み上げ、須藤被告の殺人を立証できるのか。これが裁判の争点となっています」

「12日に行われた初公判で須藤被告は冒頭、『私は社長を殺していませんし、覚醒剤を飲ませたこともありません』と無罪を主張。一方の検察側は『財産目当てで結婚し、覚醒剤を使って完全犯罪を実行した』と指摘しています」

「その理由について、検察側の冒頭陳述の内容をまとめました。まず事件が起きた2018年5月24日の状況ですが、この日、家政婦が一時外出しました。死亡推定時刻などから算出した野崎さんが覚醒剤を飲んだという時間帯に家にいたのは、野崎さんと須藤被告。2人きりだったということです。検察側は、須藤被告に十分な犯行機会があったと主張しています」

「続いて、死因となった覚醒剤の入手についてです。事件の約2か月前の3月下旬に、須藤被告は野崎さんから離婚届を見せられたといいます。その同じころに須藤被告の携帯には『老人・完全犯罪』『覚醒剤・過剰摂取』などの検索履歴があったとしています。さらに4月7日には、覚醒剤の密売サイトで致死量の3倍以上にあたる少なくとも3グラムの覚醒剤を注文していたといいます。その翌日、覚醒剤と思われるものを入手したとしています」

「ただ、野崎さんは過去に覚醒剤の使用歴、さらには覚醒剤を入手した痕跡がなかったので、覚醒剤を誤って飲み込んだ事故とも、自殺とも、考えがたいとしています」

「そして、動機についてです。検察側は須藤被告が友人や家族に『自然死で遺産を得る予定だった』などと伝えていたこと、さらには事件後に、野崎さんの会社の役員に就いて、自分の口座にお金を送金させるなどしていたことを指摘。ここから検察側は、須藤被告が遺産を手に入れるという殺害の動機があったと主張しています」

「ただ12日の冒頭陳述では、野崎さんに覚醒剤を飲ませた方法についての言及はありませんでした」

「須藤被告の弁護側は、『本当に須藤被告がやったのか』『殺意があったと言えるのか』『本当に事件なのか』と言っています。つまり事故の可能性についても判断してほしいと、無罪を主張しています」

■検察側:覚醒剤の「摂取方法」言及なし

森キャスター
「元大阪地検検事の亀井正貴弁護士に話を聞きます。まず、冒頭陳述では、覚醒剤を摂取させた方法について、検察側の言及はありませんでした。野崎さんに注射痕がないこともわかっていますが、この点について、どうみていますか?」

元大阪地検検事 亀井正貴弁護士
「おそらく検察側も覚醒剤の摂取方法については特定できなかったと思います。だから解明できていないということだと思います。ですから摂取方法自体はだめですけど、少なくとも、死因となった覚醒剤はこの部屋に行って誰かが入れた、という周辺のところで、その状況証拠で殺人を推認できると判断したと思います」

森キャスター
「注射痕がないことから口から摂取させたのではないか、という声もありましたが、それも立証するのは難しかったということですか?」

亀井弁護士
「おそらくいろいろな可能性がありますが、それぞれの特定された可能性については、やはり難点があったと思うんですね。しかし最終的には覚醒剤で死んでいるわけです。すると事故死、他殺死、自殺しかなく、消去法でいくと他殺が残り、やったのはこの被告だけだという、限定された、積み上げた立証の方法です」

■状況証拠だけで立証は?

森キャスター
「今回の裁判は、目撃者などの直接的な証拠がありません。須藤被告の犯行だと検察側が積み上げて、どう立証するのかがポイントとなりますが、この点についてはいかがでしょうか?」

亀井弁護士
「もともと密室性があるので、犯人性はこの被告である可能性が高いと。そして動機関係もけっこう、立証されています。そして、凶器となった覚醒剤の入手経緯に関してもおそらく立証されるんだと思います」

「それに加え決定的だったのが、スマホ検索。そして関係者に対する供述により計画性が認められるという点です。その意味では、最初から最後までの計画的な殺人行為についてのストーリーを描くことができているということです」

桐谷美玲キャスター
「状況証拠だけで罪を立証することは、難しいことですか?」

亀井弁護士
「基本的には難しいことですが、状況証拠を積み上げて立証できると考えたものだけを起訴しているんですね。状況証拠だけで立証できないものはもう落ちています。だから、暗数的に事件になっていない、起訴されていない事案はあると思います」

森キャスター
「暗数的に起訴されていない事案とは、どういうことですか?」

亀井弁護士
「要するに状況証拠の積み上げが、『犯人くさいな』というところまでの判断はできても、さらにいくつかの論点があるわけです。犯行を推認するためにはいろいろな観点から、周りから固めていって推認されるというのを積み重ねるわけです」

「それが足りない場合、例えば100%ほしいけど70%しか足りないとなると、民事事件であればどちらかが正しいので判決を出せますが、刑事事件は疑いを入れない程度に立証する必要がありますから、70%の立証ではだめなんです。90%など確度の高い証拠を要求されるわけです」

■弁護側と検察側 現状は?

森キャスター
「弁護側の主張はどうみていますか」

亀井弁護士
「弁護側の主張としては、他殺ではなく、事故死かもしれないし自殺かもしれない、別のものかもしれない。そんな疑問をどんどん出していくわけです。特に、摂取方法は中核となる殺人の実行行為ですから『そこが解明されなくて、殺人と認定するのですか?』とか、例えば密室性についても『防犯カメラは全部カバーできているんですか、死角はないですか』などの点で弾劾していくということです」

森キャスター
「覚醒剤を摂取させた方法について、検察側がまだ言えていない部分を突いてくる可能性があるということですね」

亀井弁護士
「もしかしたら自殺かもしれないし、別のものかもしれないということにつながるわけです」

■今後の注目ポイント

森キャスター
「今回、検察側の証人は28人を予定されていますが、この人数は多いのでしょうか、少ないのでしょうか」

亀井弁護士
「とんでもなく多いと思います。私の経験では10人くらいまでです」

森キャスター
「そのなかでポイントとなる証人、この人が出たら裁判の流れがかなり決定づけられるというような証人はいますか?」

亀井弁護士
「私が一番注目しているのは覚醒剤の入手に関してです。例えば密売人が証人として出てくる、その過程に関与した者が出てくるようなことが一番注目すべきことではありますが、ほかにもありますね。けっこう証拠がちりばめられています」

森キャスター
「つまり誰から覚醒剤を入手したのか、その人が出てくれば、非常に確度が高くなるということですね」

亀井弁護士
「被告が覚醒剤を入手したとこまで行けば、何らかのかたちで関与したというところまで、推認は働きますから」

森キャスター
「ただ今回、直接的な証拠がないというなかで、現段階で、検察側と弁護側のどちらが有利な流れになるのでしょうか?」

亀井弁護士
「検察側が非常に有利だと思います」

森キャスター
「それだけの証人、さらには証拠が出てくるのではないかということですね」

亀井弁護士
「そうですね。かなりの状況証拠をつかんでいるなと思います」

   ◇

今回の裁判ですが、判決は12月12日に言い渡される予定です。

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