「1人で決めるなんてこの世の中難しすぎる」妊娠の相談で「死にたい」403件──男性からの相談も
■「死ぬなら相談してからでもいいかと思った」透明化された妊婦たちのSOS
──ピッコラーレには今までにどれくらいの相談が寄せられているのでしょうか。
2015年の12月から今までで、相談者の方は1万2000人ぐらいです。「もう死ぬしかないと思っていたけど、どうせ死ぬなら相談してからでもいいかと思った。助けてください」といったメールも多いんです。もう死ぬしかないと思ってしまうのは自然な流れだと思っていて、調べてみたんです。(相談のメッセージの中で)「死」という言葉だけで1552件ありました。「死にたい」まで書いてあったのは403件ありました。それから「消えたい」というのも158件ありました。
「どうせ死ぬなら相談してからでもいいか」というのはどういうことなんだろうと思った時に、もう死ぬしかないと思うくらい誰にも知られていなくて孤立している自分、妊婦である自分を誰も見てくれなくて、透明化されている、そういう私を見てほしいということ。「妊娠してしまって死ぬしかないと思っている私がここにいるということを、あなたの相談窓口だけでも知ってちょうだい」ということかなと思ったんですね。
──なぜ、死ぬしかないと思うほど、妊娠を1人で抱えてしまうのでしょうか。
妊娠が進んでから私たちのところに連絡をくれる人もいるのですが、「家の人で妊娠に気が付いてくれている人はいる?」ときくと、「誰も気が付いてない」と。「体とか変わるでしょう?」と言うと、「太ったことにしている」と、そんなふうに言っているのです。
(若くして望まない妊娠をした人は)「妊娠を親には絶対言えない」と思うことがとても多いです。そこにはいろんな理由があります。例えば虐待があるおうちであれば、親に言ったら何をされるかわからないから怖くて言えない。ただ、そればかりじゃなくて、何にも問題がありそうに見えない家庭であったとしてもこういうことが起きるということは窓口にいるとわかるんです。
(赤ちゃんが)0日死亡してしまった環境についての調査では、「同居者あり」なんだけれども0日死亡に至ってしまった人が一番多かったという結果が出ています。
──生まれたばかりの赤ちゃんが遺棄される事件が何度も起きています。そうした事件の背景には、虐待や貧困などが重なっているのでしょうか。
そういう方もいらっしゃると思います。あるいは、そういう人が「助けて」と言いにくい社会だということはあります。「助けて」なんてことを言ったら誰かに怒られるとか、非難されるとか思っていたら、絶対助けてなんて言えないですよね。
例えば、「妊娠している」というと「おめでとうございます」から入る、まだ産んで育てると決めていないのに「ママ」と呼ぶ、そういうところに母性神話みたいなものが残っています。当たり前とみんな感じているけれど、危機的な妊娠をしてしまった人は特に感じると思うんですね。
だから、「彼女は私だったかもしれない」という感覚を持っておくことがとても大事じゃないかと私は思っています。遺棄の事件があった時に、ネットニュースにコメントがつくじゃないですか。そうすると、「こういう人にはもう一生子どもを産ませないようにした方がいいと思います」とかいうコメントに「いいね」がすごくいっぱいつくんですよね。「いいね」をする前に、どうしてそうなってしまったのか、考えてほしいです。
■「妊娠が困りごとになっちゃうのはあなたのせいじゃないよ」
──今「妊娠したかも」とか、妊娠して悩んでいる人にはどう呼びかけたいですか?
1人で抱えないで、絶対怒らないから連絡してきてほしいです。
「私がどうにかしなければいけないと思います」とか「自業自得だと思うけど、ただ死にたいと思います」とか思う人がとても多いんだけれども、あなたの責任じゃないよというふうに思います。 相手があることだからということももちろんそうだけど、妊娠が困りごとになっちゃうのはあなたのせいじゃないよ、社会のせいだよと私たちは思っているから、自分を責めないでねと思います。どんな妊娠であってもね。
妊娠を1人で決めるなんて、この世の中難しすぎるよということ。だから決めなくていいよって、そういうふうに私は少なくとも言いたいなと思っています。
──妊娠で困っているかもしれない人が周囲に居たら、できることはありますか?
もしあなたのお友達でそういう人がいたら、遠慮せずに私たちにお話ししてくだされば、「お友達どんな人なの?」から始まって、もしお友達が電話できそうだったらとか、チャットができそうだったらという話をして、そのお友達とつながる方法を一緒に考えることができるから、連絡くださいねと思います。
学校の先生からも来たりしますから、生徒が心配という人がいれば連絡いただければと思います。問題を解決するときは本人とのやりとりが必要なので、先生との間で妊娠を解決するということはできないんですが、とにかく私たちはその人が大変なことにならないように、その妊娠を一緒に抱えていくことはお約束できるので。
■男性からの相談も──「まんざら捨てたもんじゃない」若者たち
── 妊婦だけでなく、周囲の人からの相談もあるんですね。
実は最近だと、チャットなどでうちの窓口に相談してくる方の15~20%ぐらいが男性なんですよ。若い人から「避妊に失敗したかもしれない」という相談が多くあります。
若い人たちが自分ごととして「今彼女が妊娠したらとても大変だ」と思っているということがわかるんですね。そういうのを聞いていると、まんざら捨てたもんじゃないなという感じはするんです。
だから、そういう電話が来ると私たちは「まずアフターピルを飲むよね」「ピルはいくらするから、払えそう?」とか、対処方法など個別の性教育みたいに話をするんです。例えば「コンドームをしていたんだけど破れちゃった」「ずれちゃった」「外れちゃった」ということであれば、「コンドームどのくらい練習した?」というところから始まって、「1ダース分ぐらいは練習しなきゃね。しかも暗いところでね」と伝えることもあります。
無責任な男の人にばかり目が行くかもしれませんが、しっかり考えている若い子が多いです。だからこそ、高校生などしっかり考えている年代に、包括的性教育という、人権を中心においた性教育を伝えていくこともすごく大事じゃないかと思っています。
日テレ報道局ジェンダー班のメンバーが、ジェンダーに関するニュースを起点に記者やゲストとあれこれ話すPodcastプログラム。MCは、報道一筋35年以上、子育てや健康を専門とする庭野めぐみ解説委員と、カルチャーニュースやnews zeroを担当し、ゲイを公表して働く白川大介プロデューサー。
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