望まない妊娠③》日頃から若者の性の悩み聞く場が必要
3部では、妊娠をきっかけに"誰もが孤立することなく自由に幸せに生きることができる社会の実現"を目指して活動を続ける認定NPO法人ピッコラーレの理事、土屋麻由美さんが相談支援などの現場で感じる課題を伝える。
■アプリ通りに生理が来ないと妊娠?…性教育の必要性
妊娠や性をめぐる相談を受ける「にんしんSOS東京」を運営するNPOピッコラーレが分析したデータでは、「妊娠したかもしれない・避妊について」という相談件数は年々増加している。(2015年~2019年)市町村の母子保健サービスは、妊娠確定後の相談を受けるところが多い中、妊娠が確定していない時期に「妊娠したかも」と感じた時から相談できる場所が必要とされていることを示しているのではないかという。相談内容の集計では"避妊をしなかった""避妊に失敗してしまった"など避妊に関する相談が多く、次いで、"生理が遅れている""妊娠初期症状のような体の変化がある"などの相談者の身体の変化によるものが多いという。また、「挿入行為をしていないが妊娠が心配」「妊娠検査薬で陰性と分かっても不安」「緊急避妊薬を欲しいが入手できない」といった相談は、10代に多い。一方、「緊急避妊薬を内服したが避妊ができているか」といった相談は20代に多く、あわせて、生理や妊娠に関する知識不足からくる不安の相談も多いという。
■妊娠の仕組みを知らない若者たち
「男性が自慰行為をして、少し経ってから、その手で私の性器に触れたので妊娠しているかもしれない」といった相談が寄せられることもある。「出血があり、生理だと思っていたが妊娠しているケースがある」というネット記事を見て不安になった人などからの相談もある。ピッコラーレの分析によると、こうした相談の背景として、10代は「生理周期がわからない」、10代・20代では「ネットやアプリの情報に振り回されている」という割合も多い。、女性だけでなく男性も含め、生理、妊娠の仕組みや避妊の知識を学ぶ機会が少なく、性教育の不足も原因ではないかという。
■生理周期のアプリに振り回される人も
生理が来る間隔は、10代ではまだ体が成熟しきっていないため、ホルモンバランスが崩れて不安定になりやすく、ダイエットや睡眠不足、環境の変化や、ストレスなどの影響も受けることがある。そうしたことを知らずに、それまでは、あまり生理周期を意識したことがなかった人が、性行為をするようになって生理管理アプリを利用し始め、「アプリ通りに生理がこないから妊娠したのでは」などと過度な心配をする人もいるという。生理日や排卵日の予測をどのように出しているのかわからないため、アプリに振り回されている状態でもあると土屋さんは話す。
「相談窓口」でできることは、こうした若者が置かれている状況を理解し、個人に寄り添った支援をすること、そして相談者が必要としている情報を伝えて、一緒に考え、不安を軽くするような提案をするとともに、一人で抱えることがないよう、いつでも相談してきてほしいと伝えることだとしている。
■若い人たちが性について相談できる場が必要
ピッコラーレは、性に関する相談や話ができる場所が必要だとして、寄付や助成金をもとに、若者たちの居場所で「ピコの保健室」を定期的に開設し、助産師などが対応している。
やってきた学生などからは、「コンドームという名前は知っているけど実物を見たことも触ったこともなかった」「どこに売っているのかいくら位なのかも知らない」「ピルは避妊のために飲むことは知っていたけど、生理痛が楽になるとは知らなかった」「低用量ピルで生理の周期を調整することができるなんてもっと早く知りたかった」といった声があがるという。一方、こどもたちの周りにいる大人からは「性の相談をされても自分たちもなかなか話をすることが難しかったが、『ピコの保健室』をきっかけに、こどもだけでなく、大人も一緒に考え、性について話すことが徐々に自然でオープンなものになり、職員も少しずつ意識が変わってきた」という声も聞かれるようになったという。
土屋さんは、児童館などこどもや若者の居場所に、助産師が入ることはこれまでなかったと思うが、学校以外の場所にも、子どもたちからの様々な相談を自然な形で受けられる場所が求められていると話す。
■"妊娠出産をしなくなったら国は滅びる"危機感
スウェーデンのユースクリニックでは、“性やからだやこころについて”の相談をはじめ、低用量ピルやアフターピルなどを無料で提供したり、性感染症などが心配であれば無料で検査を受けられたりする。スウェーデンでの設置数を東京都の23区で換算すると、235か所、各区に10か所ほどになるという。土屋さんは、日本でも、少しずつユースクリニックの取り組みが始まっているものの、まだまだ数は限られていると指摘した。
若い世代の人たちが自分の身体と向き合っていくためには、学校教育の中での性教育を進めていくことや、普段から性や体について話し、相談できる「保健室」のような場所を子どもたちの身近につくることが必要だと話す。
現在、自治体によっては、高校3年生まで医療費は無料になっているところはあるが、自費診療である緊急避妊薬や妊娠の診断や性感染症検査などは、無料とはならない。「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」(すべての人が、適切な医療サービスを必要なときに、支払い可能な費用で受けられる状態)ということを考えた時、若い世代のヘルスケアについては、まだ制度が整っていないように感じると土屋さんは指摘する。そして「女性が妊娠出産を選択しなくなったら国は滅んでしまう」と話し、経済的に厳しい若者世代が、無料で予防の時点から産婦人科を受診できる仕組みをつくることも重要ではないかと提言した。
すべての妊婦が安心して生活できる社会の実現は、男女問わず誰もが考えるべき課題だ。