望まない妊娠①》"生後0か月で亡くなる赤ちゃん"…妊婦の葛藤と相談先
人生の大きな節目とも言える《妊娠・出産》だが、それを喜べない女性もいる。そうした人たちから相談を受け、居場所を提供しているNPOについて伝える。
■児童虐待で亡くなる子ども…実は"0歳児"が多い
生後間もない赤ちゃんを遺棄したなどとして逮捕された女性について報じられることがある。こども家庭庁によると、2021年度に心中以外の虐待で死亡した子ども50人のうち最も多いのは0歳児(24人)で、約半数を占め、そのうち3人は生後0日、つまり生まれた当日に亡くなり、生後1日以降1ヶ月未満で亡くなった子どもは3人と報告されている。
その背景には、望まない妊娠をした女性が誰にも相談できずに、孤独の中で出産する実態があるとして、認定NPO法人ピッコラーレは、365日、誰でも匿名で妊娠にまつわる悩みをメールや電話などで相談できる「にんしんSOS東京」などの活動を行っている。ピッコラーレの理事で助産師でもある土屋麻由美さんに聞いた。
■"親には絶対に相談できない"
「にんしんSOS東京」には2015年12月の開設以来、「妊娠したかも」「病院に行きたいけどお金がない」「親には相談できない」といった相談が毎日寄せられる。その数は新規相談者10897人、対応の回数は5万件以上。(2024年2月末時点)東京だけでなく全国どこからでも匿名でメール・電話・チャットで相談ができ、医療・福祉、心理系の専門スタッフらが対応している。
相談内容の約7割は「妊娠したかもしれない」というもので、その他には「避妊について」「思いがけない妊娠」「中絶するかどうかの悩み」「中絶後の悩み」「妊娠・出産・生活に関すること」など幅広い。
10代の女性が、虐待から逃げるため家出をし知人宅を転々とし、生きるために夜の街で働くうちに、男性から性行為を強制されて妊娠するも、妊娠したことが店側に知られると働けなくなるため、言うことができないケースや、中には誰が父親かわからないケースもあるという。また、付き合っていた男性に妊娠したと告げたとたんに連絡がとれなくなり、親にも友人にも話せず、病院にもかかれず、自力で出産するしかないという女性たちもいる。ピッコラーレのスタッフが出会った女性の中には、臨月になっていて、その日のうちに入院、出産にいたったというケースや、所持金が数百円で電車に乗れないという女性もいたという。ピッコラーレでは、必要と判断すれば女性に実際に会って面談をしたり、産婦人科の受診に付き添ったり、役所の福祉の窓口に同行することもある。相談者とやり取りをする中で、途中で連絡がとれなくなることもあるというが、それでも、定期的に様子をうかがうメールを送るなどして、いつでも相談してくることができるよう対応しているという。相談窓口「にんしんSOS東京」は、寄付や助成金で運営されていて、さらにピッコラーレは、現在、埼玉県や千葉県からの委託も受け、同様の相談支援活動を行っている。
■若年妊婦のための居場所「ぴさら」とは?
ピッコラーレは、安心して過ごせる家がない、誰にも頼れないという、主に10代20代の妊婦を支えるには、相談を受けるだけではなく、《安心して妊娠中から出産後まで暮らせる居場所》が必要だと考え、2020年6月、一軒家を借りて「ぴさら」を設立した。
土屋さんによると、家庭で虐待を受けてきたという人の中には、夜寝ていると何をされるかわからず、安心して眠れない日々が続いた経験から、「安心して寝ていいよ」と言っても、朝方までなかなか眠ることのできない女性もいるという。それでも女性たちは「ぴさら」のスタッフと話し、「子どもを育てるには何ができたらいいのかな」など、少しずつ妊娠や出産、子育てをイメージし、現実に向き合っていく。「ぴさら」でともに生活をする女性同士が悩みを話し、支えあうこともある。
■本人が決めることにこだわる理由とは
「ぴさら」に来る女性の多くは、幼少期から虐待や暴力を受けており、「自分の考えを聞いてもらったことがない」「自分で選んでいいと言われた経験がない」という女性も少なくない。妊娠がわかり、それが、自分が望んでいたタイミングではなかった場合、《子どもを産む・産まない》《自分で育てる・育てない》といった選択をすることは、これまでの人生で、自分で考え、自分で選んできた人であっても葛藤が生じるものであり、ましてや、自分で選択し決定する経験をしてこなかった女性たちにとっては、「自分で決めていいんだよ」と言われても、決断することは容易なことではない。その決断をするところから、寄り添い一緒に考えるということが必要となる人もいる。
■"このシャンプーを使いたい"…自分で決める経験を
「ぴさら」での食事は、決められたものを提供するのではなく、その女性が食べたいものを聞き、スタッフと一緒に買い物にも行き、自分で食べたいものを作ることもあるという。シャンプーやコンディショナーなども、備え付けのものを使うのではなく、各自が使いたいものを選んで買うようにしている。女性たちは「普段は一番安いシャンプーを買うけど、ずっとこれを使いたいと思っていた」などと、ちょっと高めのものを買ってうれしそうにするという。シャンプーを一つ選ぶという経験であっても、女性たちには「自分で決めていいんだ」「自分は尊重されている」と感じて欲しいと「ぴさら」のスタッフは考えている。「ぴさら」を"卒業"していった女性たちが遊びにきて、将来について一緒に考える場所の提供も始まっている。
■“生きていてもいいかな”と感じてもらえる支援を
土屋さんに活動の中で感じる課題を聞くと、少子化対策として、行政などによる出産や子育て支援策は様々打ち出されているが、経済的に困難な妊婦や若年の妊婦に対する支援は、「一律ではなく、もう少し厚くする必要があるのではないか」と話した。それは、妊娠してもお金がなく受診できないとか、中絶するお金がないことで、出産をしなければならず、そのために、仕事や居場所を失ってしまう人たちが存在するからだという。
妊娠することで、生活や人間関係が変化し、「うれしい」とならず、「困りごと」となる人たちがいる。「妊娠して、死ぬしかないのかなと思ったけれど、どうせ死ぬならその前に相談してみてからでもいいのかな」との思いから、相談をしてきてくれた女性がいたという。女性は「自分のことを一緒に考えてくれる人たちがいることがわかった時、生きていてもいいかな、と思った。」と話した。土屋さんは、「これからも妊娠が困りごととなっている人たちに寄り添い、本当に必要な支援とは何かを考えていきたい。」と話している。
第2部では、妊婦の悲痛な思いや妊娠したかもと不安に感じる全ての妊婦へのメッセージを伝える。