望まない妊娠②》誰にも知られたくない…孤独で一人で産むしかないと考える全ての妊婦さんへ
2部では、妊娠をきっかけに、誰もが孤立することなく自由に幸せに生きることができる社会の実現を目指して活動を続ける認定NPO法人ピッコラーレの理事で助産師でもある土屋麻由美さんの話から、妊婦が抱える悩みの背景をたどり、今不安を抱える全ての妊婦とパートナーへの思いを伝えます。
■『赤ちゃんを助けるより誰にも知られたくなかった』
妊娠を周囲に相談できず、知られたくないと思ってしまう。その背景を土屋さんはこのように推測する。
相談者の中には、虐待などから逃れるため親元を離れ、お金もなく、住む家もない若者も多くいる。未成年であれば、住居を契約するにも保護者の同意書などが必要だが、親に居場所を知られてしまうため、住民票を動かすこともできず、家も借りることもできず、ネットカフェや漫画喫茶、SNSでつながった人の家などで生活する場合もある。親からの虐待、性暴力、金銭の搾取といった経験がある若者にとって、自宅は安全な生活の場所ではなく、一人で生きる糧を得るため、パパ活をしたり、風俗などで働く人もいる。
そうした中で妊娠がわかっても、生きていくために、風俗の仕事をやめられない、「誰も助けてくれないし、病院にも行けない、一人で産むしかない」といった絶望や葛藤の中、「赤ちゃんを大切に思うよりも、自分が生きていくのに必死だった」「自分の子どもというより、知らないうちにお腹の中にいた物という感覚」そう話した女性もいたという。
そして、誰にも知られず一人で出産した場合、「泣き声を聞かれたら赤ちゃんがいると周囲にばれてしまって、私が生きていけなくなる」といった思いから乳児遺棄が起きる可能性があるという。困ったことがあっても「自分でなんとかしなさい」「人に迷惑をかけるな」などと言われて育って来た人は、誰かに頼ることもできない。裏切られた経験も多く、人を信じることが難しかったり、人に何を相談するのかがわからないと言う人もいる。
ピッコラーレでは、このような女性が、少しでも話してみようかなという気持ちになれたらと、X(旧Twitter)で「妊娠の不安や悩み、話してみませんか?」「妊娠は一人では抱えられないこと」「一緒に考えてみませんか」などと発信している。
■妊娠は女性だけの自己責任なのか
妊娠は女性だけでは実現せず、必ずパートナーが存在する。中には暴力を受けたり、女性が断れない状況での性行為があり、妊娠する場合もある。避妊をしたつもりなのに妊娠してしまうこともある。思いがけない妊娠は起こるものであり、「自己責任」だとして、その責任を女性に向けるのではなく、「妊娠した女性の、健康や人権を守れる社会をつくることが必要だ」と土屋さんは話す。
10代などの場合、自分たちが妊娠できる体・妊娠させる体だという自覚や知識がない中で「思いがけない妊娠」が起きてしまうことがあるが、「性行為をすれば、10代でも妊娠すること。妊娠した時には、二人の問題として一緒に考えるということを、学校教育の中でも伝えていくことが必要ではないか」と土屋さんは話す。
女性にとっては、「相手が考えてくれない」「経済的にも協力してくれない」「自分は関係ないと言われた」、こういった状況が大きな不安や葛藤につながる。妊娠がわかった場合、たとえ中学生や高校生でも「妊娠」という現実に向き合うことは重要で、女性だけにその問題を押し付けることは、相手を傷つけ、人生を大きく変えることになるのだということを考えておく必要があるという。もちろん、その予防として避妊についても学ぶことは必要だが、妊娠に直面した時には「相談先はある、親や学校に知られたくないからと抱えこむのではなく相談して」「困ったことを話してくれれば怒ったりせず、一緒に考えるよ」といったメッセージを届ける必要を感じているという。
■妊娠したのでは?と"今困っている人"へ
助産師でもある土屋さんに、「今現在、妊娠しているかもしれない」と心配や不安を抱えている方に、どのようなメッセージを伝えたいか尋ねた。
相談者の中には、「一度相談をしたけれどやっぱり心配」「生理は来たけど、妊娠していないか不安」という人もいるという。相談をして「その時は大丈夫だと思ったけれど、しばらくすると不安になってきた」「ネット検索をしたら、いろいろな情報が出てきて、また心配になってきてしまった」と言う人には、何度でも相談していいよ、何回でも聞くよとメッセージを送っているという。中には、性行為をする度に妊娠の不安にさいなまれ、それなら性行為をしなければいいのにしてしまうのは自分自身が弱いからだ、と話してくるケースもあるという。
土屋さんは「人と人とのふれあいとして性行為をすることは悪いことではなく、生きる上で大切なこと。それでも『妊娠したかもしれない』という不安を抱えてしまう場合は、どうすれば、少しでも安心できるかを、一緒に考えることも大事なことなので、遠慮しないで相談してきてもらえたら」と話す。
■相手の男性が一緒に同じくらい悩んでくれたら…
不安になる要因は人それぞれだが、自分がそうした状況になると想像していないからこそ、悩みが生じる場合もあるのではないかという。「相手に生理が遅れていると言ったら、俺には関係ないと言われた」「いきなり連絡が途絶えたり、LINEをブロックされたりした」という女性もいて、パートナーの態度や発言によって傷つき、戸惑い、驚き、どうしたらいいのかわからず不安になる女性もいるという。「相談窓口」には、男性からの相談も17%ほどあるという。男性も、避妊の失敗や思いがけない妊娠で戸惑い相談してくる。「妊娠を男性が一緒に受け止め考えてくれたら、女性の葛藤はかなり軽減される。相手を責める問題ではなく、一緒に考えることが必要だ」と土屋さんは繰り返す。
次回は、3部として、学校以外の若者の居場所で相談を受け付ける「保健室」の仕組みや性教育の必要性、今後の課題について紹介する。