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小池氏再選もたった“2人”の女性知事「“女の戦い”が死語になる前の最後の年に」七夕決戦がもたらすものは?

2024年7月9日 5:50
小池氏再選もたった“2人”の女性知事「“女の戦い”が死語になる前の最後の年に」七夕決戦がもたらすものは?
小池百合子氏が3期目の当選を果たした東京都知事選挙。3番手に終わった蓮舫氏ともに、日本では珍しく、女性の有力な候補者同士が戦った選挙でもありました。これからの政界のジェンダー平等に影響を与えるか?報道局ジェンダー班の庭野めぐみ解説委員が、ジェンダーと政治に詳しい上智大学の三浦まり教授に話をききました。

■「“女の戦い”が死語になる前の最後の年になる」知名度抜群の2人の闘いが明けて…

上智大学 三浦まり教授
「政治的なキャリアが長く、女性の政治家の中でも抜群に知名度のある2人の対決は“女性が政治に出るのが当たり前”というような感覚を広げていく画期になるのではないかと期待しています」

報道局ジェンダー班 庭野めぐみ解説委員
「そろそろ『女の候補者』とか『女性政治家』という言い方もやめたいとは思うんですよ」

三浦教授
「次世代の女性たちに与える大きな影響、ロールモデルの効果はとてもあるんではないかと思っています。他方、女性視聴者中心に、女性同士が戦う構図を面白おかしくしているメディアの報道に対しては批判的な声も上がってきていると思うんですね」

「今後多くの女性たちが立候補することになれば、もはや女性が出るのは“当たり前”。複数の女性同士が戦うのも“当たり前”になるので、わざわざ“女の戦い”なんて言うことは、死語になっていくのではないか。死語になる前の最後の年になるのではないかなと思っています」

■全国でたった“2人”の女性知事「新しいことができたかというと…」

庭野解説委員
「そもそも全国の都道府県や市区町村で今女性の首長はかなり少ないです。そういう現状をどう見ていらっしゃいますか?」

三浦教授
「おそらく今、特に首都圏中心に、女性リーダーが増えてきているから、“女性も首長になるのが当たり前”と思っている若い世代の人も多いと思うんです。でも、実際は女性首長の人数は1桁台です。現実とのギャップを知ると、女性の首長が出てきたことの意義はなお一層感じられるのではないかと思います」

「地方ではまだ“女性の候補者は初めて”ということが多いと思うんですよ。初の女性ということで、『今までと何か違う新しいことやってくれるんじゃないか』と期待値で投票される方が多いと思うんですね。でもだんだんと増えてくると、『実際に権限を持ったときにどれだけ新しいなにかを実現できたのか』というふうに有権者の目もより厳しく変わってくるんじゃないかなと思います」

庭野解説委員
「今、知事でいうと2人ですよね。山形県と東京都。首長が女性になったことで何か変わったことはありますか?」

三浦教授
「結構厳しいですね。大きな行政組織は基本的には男性中心なんです。また、いろんな業界団体、企業などと交渉しながら決定をしていくその相手もほとんど男性なので、紅一点で進めないといけないということになります。ですから、女性知事だったとしても、新しいことができたかというと必ずしもそうじゃないケースが多いと思います」

「昨今であれば、女性の副知事を登用するとか、女性の管理職の割合を引き上げるなどはどの組織もやっていると思います。必ずしも女性リーダーだから女性の管理職登用に成功するとは限りません。そこは男性のリーダーであっても、組織がどういうロジックで動いているのかがわかっている人が、要所を押さえて人事改革をやれば回っていくんです。そういうのがわからないで、結果的には長期的な影響を及ぼすことには至っていないケースが多いと思います」

■「女性だからだめだった」ではなく1人の人間として評価を

庭野解説委員
「あらためて、なぜ女性の議員や首長を増やしていくことは重要だとお考えでしょうか?」

三浦教授
「圧倒的に男性中心に政治が営まれているので、今まで政治に声を届けることができなかった当事者性を持っている人が直接政治に関わることによって、政策にも変化が生まれることが一つ大きいと思います」

「同時に、あらゆる人が政治に参画できる、政治リーダーになれると実感できることが民主主義にとってとても重要だと思うんです。ところが、男性しかなれないとか、中高年でないといけないとか、健康でないといけないとか、世襲の方が圧倒的に有利であるとか、国政を見てそういうふうに思ってしまう方が残念ながら多いと思うんですね。そうなるとそもそも政治家を目指さないということになりますから、結果的に選ばれる人も非常に一部の限られた人たちだけになってしまう」

庭野解説委員
「多様性がないと、同じようなことしか思いつかないとか、困っていることがわかりにくくなってしまうということですよね」

三浦教授
「同質的な人たちではなくて、多様な人たちで営まないといけないというのは、社会がもう既に多様だからですね」

「若者の声も十分に届いていないと思いますし、非正規雇用者も十分に届いていないし、政治家がほとんど男性である中では、女性たちが経験するようなことも過小評価されたり、最初からなかったものにされてしまっている。そういった現実がまだまだあると思います」

庭野解説委員
「男性でも100%素晴らしくなくても総理大臣になったり、大臣になったり、知事になっているわけですが、女性の候補だとより厳しく皆さんが採点、減点していく。女性に厳しいと思うんですよね」

三浦教授
「完全にそうだと思いますね。ダブルスタンダードだと思います。男性の政治家が何か失敗をしても、『男性だから政治家は無理だ』と、そんなことは絶対に誰もおっしゃらなくて、その人の資質が足りなかったということになるわけですよね。でも女性の場合には『女性だったから駄目だったんだ』という結論になりがちなんですよね。そのことをメディアや社会が認識して、政治家やリーダーを評価するときに、女性も1人の人間として評価すべきで、“女性だから”というふうに関連付けない。そういった思考の癖をつけていかないと、女性は常に不利な状況に立たされてしまうということになると思います」 

■政界に女性が増えた先に──「男性の多様化がテーマになる必要がある」

庭野解説委員
「女性の政治家ですとか、自治体のリーダーを増やすには、どういったことをしていくのがいいと思われますか?」

三浦教授
「自分で手を挙げれば立候補はできるわけですよね。ただ、知事とか、あるいは政令市みたいな大きなところの議員だと、結局なにか組織を束ねていかないと当選するのは難しい。皆さん無所属になられますけど、実質上は保守系の団体、あるいは革新系の団体から支援を受けているのが通常なんですよ」

「なんでこういうふうになるかというと、やっぱり投票率が低いからなんですね。そうすると組織を固めたら一定の票数がもう見込めるので、上ずみにちょこっと乗せればいいだけなわけです。もっと投票率が高くなれば、組織とは関係ない候補がより勝ちやすくなるんですよね。新しいタイプのリーダー、その新しいという中には女性も入ってくると思います」

庭野解説委員
「国政ではクオータ制、つまり女性の割合を決めていくことの必要性も述べられています」

三浦教授
「日本の国政の場合にはやっぱり政党中心ですから、政党に対して男女ともに40%から60%にという形で定めるのが、女性候補を増やすためにはとても効果的だと思います」

「既に政治分野における男女共同参画を推進する法律の中で、政党は努力義務として『数値目標を設けること』と書かれているんですね。実際に自民党も国政で30%という目標を掲げていて、国民民主党が一番最初でしたが、立憲民主党、共産党も掲げていますから、法律の効果はあると思っています」

「数値目標を掲げると、政党は必死で女性候補者を探すようになるんですが、今までの探し方だとやっぱりいないんですよ。地方議員の経験者、官僚、秘書というのが政治家の3大前職なんですが、そこにそもそも女性が少ないんですよね。違うところから候補者を探さなくてはいけないので、職業の経験としても多様性が生まれるのは大きなメリットだと思います」

「そうしてくると男性もよくよく見たら金太郎飴じゃないかというふうになってですね、今までとは違うところから男性政治家を発掘して、育てていこうとなっていく。同じようなキャリアを持った人たちだけで決めてしまうと、本当に政治が劣化していきます。女性を多様化していくその先は、男性の同質性にメスを入れて、男性の多様化がテーマになる必要があると思います」

■Talk Gender~もっと話そう、ジェンダーのこと~

日テレ報道局ジェンダー班のメンバーが、ジェンダーに関するニュースを起点に記者やゲストとあれこれ話すPodcastプログラム。MCは、報道一筋35年以上、子育てや健康を専門とする庭野めぐみ解説委員と、カルチャーニュースやnews zeroを担当し、ゲイを公表して働く白川大介プロデューサー。

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番組ハッシュタグ:#talkgender