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【飯塚事件】「まず裁判所だけに証拠品リストの提示を」福岡高裁が検察に勧告 弁護団「一歩前進」

2025年1月30日 18:07
【飯塚事件】「まず裁判所だけに証拠品リストの提示を」福岡高裁が検察に勧告 弁護団「一歩前進」
1992年に飯塚市の女児2人が殺害された、いわゆる「飯塚事件」の裁判のやり直しをめぐる審理が30日、福岡高等裁判所で行われました。弁護側が求め、検察が拒否している「証拠の開示」について、福岡高裁は、まず裁判所だけに証拠品リストを提示するよう検察に勧告しました。

再審=裁判のやり直しをめぐる審理は、30日午前、福岡高裁で行われました。再審を申し立てているのは、久間三千年(くま・みちとし)元死刑囚の妻です。

久間元死刑囚は1992年2月、福岡県飯塚市の女児2人を殺害したなどとして死刑判決を受け、執行されました。現在、2度目の再審請求の審理が福岡高裁で行われています。

30日の審理の焦点は、弁護団が求め検察が拒否している弁護側証人の「初期供述」に関する証拠や証拠品リストの開示について、裁判所がどう対応するかでした。

検察はこれまでに2度、裁判所から開示勧告を受けていますが、初期供述については「捜したがない」、証拠品リストは「開示する必要性はない」として開示を拒み続けています。

弁護団によりますと、裁判所は30日、検察に対し、まず証拠品リストを裁判所だけに提示するよう勧告しました。提示されたリストの中身を裁判所が確認し、弁護団への開示を促すかどうかを検討するということです。

■徳田靖之弁護士
「リストに載っていれば(証拠が)検察庁の中に絶対あるんだから捜せって話になるし、ないとなれば、検察に捜させろという話になるんだと思うんです。」

検察は2月13日に勧告に応じるかどうかを回答し、応じる場合は証拠品リストを2月13日に提出すると答えたということです。

今回の勧告について、弁護団は「小さな一歩」と捉えています。弁護団はなぜ「証拠開示」にこだわるのでしょうか。

弁護団が開示を求めている証拠のうち、最も重視しているのが事件当日、飯塚市の三差路で女児2人を見たとされた女性の初期供述です。女性は女児2人を最後に目撃したとされ、警察がまとめた女性の供述調書には「事件当日の朝、三差路を車で通る際に女児2人を見た」と書かれています。

ところが、2018年に女性は弁護団に連絡してきて、調書の内容を否定したのです。

『女児を事件当日に見たのではない。私の記憶とは違う調書が作られた』

確定判決は、女性の供述調書などに基づき、三差路を連れ去りの現場と特定しました。同じころ、久間氏の車によく似た紺色ワゴン車が通っていたことを、久間氏を有罪に導く状況証拠の一つに挙げています。

■德田弁護士
「この証言通りだということになると何が起こるかというと、誘拐場所がどこだったのか特定できなくなる。誘拐された時間も、午前8時30分でないということになる。そうなると、三差路を通った紺色ワゴン車が事件と関係しているかどうかは、全く分からなくなってしまう。」

弁護団は、証言の信用性を明らかにする上でも、警察が女性から事情を聴いた際の初期供述に関する捜査報告書や、関連する証拠がどのくらいあるのか確認するため「証拠品リスト」の開示が必要と訴えました。

しかし、検察はこれまで2度にわたる裁判所の勧告に対し。

『捜査報告書などは見当たらない』
『証拠品リストを開示する必要性はない』

証拠の開示を拒み続けています。

■德田弁護士
「事実を解明しようとすることに、これほど背を向ける。袴田事件や福井女子中学生殺害事件で再審開始の決め手になったのは何だったのか。隠していた証拠が表に出てきた。それで、無実の人に再審開始がなされたわけです。」

通常の刑事裁判で、検察は有罪にするための証拠を出し、無罪方向の証拠は出さないのが普通です。

その捜査機関に眠る証拠を再審の段階で提出させるのが「証拠開示」の手続きです。この「証拠開示」により、無罪を強くうかがわせる証拠が明らかになり、過去にいくつもの有罪判決が覆っています。

■德田弁護士
「検察はこんなことまでしているじゃないかと批判されて、再審開始決定に文句も言えないという状況が生まれているのに、この飯塚事件に関してはまた同じことをしようとしている。」

去年10月には「袴田事件」で再審無罪が確定しました。さらに、39年前に福井県で起きた殺人事件でも再審開始決定が確定しました。いずれも、検察が長年裁判に出してこなかった「隠された証拠」が裁判官の判断に大きな影響を与えたのです。

この2つの再審事件では裁判所が検察を厳しく批判しています。

■袴田事件再審無罪判決より
『(証拠は)捜査機関によって捏造されたもの』
『(自白調書は)非人道的な取り調べによって獲得され実質的にねつ造されたもの』

■福井女子中学生殺害事件
『不誠実で罪深い不正な行為で、到底容認することはできない』

福岡高裁は30日、検察に対し、証拠品リストを弁護団に開示するよう促すのではなく、まず裁判所だけに提示するよう勧告しました。また、女性の初期供述に関しては言及しなかったということです。

弁護団が望む事実解明への道筋が絶たれることは避けられましたが、受け止めは複雑です。

■弁護団
「評価が難しいんですよね。だけど、私としては一歩前進。具体的に動き出している。膠着(こうちゃく)状態を一歩抜け出すという意味で、現実的な解決策として一歩前進だと受け止めています。」

弁護団が重要視する「証拠開示」へ踏み出した小さな一歩。裁判のやりなおしをめぐる攻防は、一つのヤマを迎えています。

最終更新日:2025年1月30日 19:35
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