【解説】能登半島地震の生々しい「語り部」 隆起した海岸など震災遺構をジオパークへ
「北國新聞論説委員の野口強さんとお伝えします。よろしくお願いします。きょうはどんな話題でしょうか。」
◆隆起海岸をジオパークに
北国新聞論説委員・野口 強 さん:
「能登半島地震で地盤が隆起した海岸などについて、石川県は、大地の公園「ジオパーク」として登録をめざす検討を始めました。被災地では生活再建が最優先ですが、県では、こうしたエリアを震災を記憶する遺産として保存することで、長期的な視点で、防災教育や復興応援ツアーに生かしていく方針です。」
「きょうのテーマは、こちら。」
「ジオパークになるか 能登の震災遺構」
◆元日の地震で能登半島で最大4メートルの海底隆起
市川:
「能登半島では、元日の地震で最大約4メートルの海底隆起が発生しました。」
野口さん:
「国土地理院によると、関東大震災で確認された房総半島の約2メートルを超え、観測史上、最大規模です。輪島市などの漁港や海岸で、それまで海底だったところが、白くむき出しになって海の上に露出しているのを見かけますが、地震のすさまじさを伝えていて、ジオパークを構成する要素として申し分ないでしょうね。」
◆ジオパークには国内版と世界版が...
市川:
「ジオパークは、学術的に貴重な地形・地質を備えた自然を、観光や地域振興に生かすのが目的ですよね。」
野口さん:
「国内版と世界版があり、国内版の「日本ジオパーク」は46地域。そのうち石川の「白山手取川」など10地域は、ユネスコの世界ジオパークに認定されています。ジオパークには、何億年も前の地球の記録が残るところ、というイメージがありますが、意外と新しい構成スポットもあります。」
「白山手取川ジオパークの目玉の一つ、重さ4839トンの「百万貫の岩」は、ちょうど90年前、手取川大水害の際、すさまじい水流によって上流から押し流され、何キロも下流の白山市白峰の現在地に到達したと伝わります。」
「1つ目の、目からウロコです。」
「大地の記憶を刻む災害の”語り部”」
◆手取川大水害
「この水害では、112人が亡くなっていて、能登半島地震より前に県内で起きた最大規模の災害でした。」
「そう考えてみると、大水害が運んだ百万貫の岩も、今度の地震で隆起した海岸も、大地を揺るがすような地球の変動の痕跡をとどめていて、そこにあるだけで、災害の生々しい「語り部」であることが分かります。」
◆地震の記憶継承へ共同声明
「先だって、青森県で開かれたジオパークの全国大会では、白山手取川や立山黒部など、能登を取り巻く6つのジオパークが、「能登半島地震は、地球の動きと 人々の暮らしのかかわりを改めて意識した瞬間だった」と受け止め、ジオパークの取り組みとして防災・減災の普及活動をしていくという、共同声明を発表しました。」
市川:
「防災遺産という観点も、ジオパークの価値につながるととらえているわけですね。」
野口さん:
「そうした意味でも、能登半島地震が生んだ遺構を、ジオパークとして残すことに意義があると思います。」
「2つ目の、目からウロコです。」
「崩れた見附島も防災遺産の象徴」
「見附島や窓岩といった、奇岩絶景が海沿いに並ぶ能登の自然景観は、地震で修復しがたい被害を受けました。しかし、その痛々しい姿で、「自然と向き合う時は謙虚であれ」というメッセージを訴えていると言えます。これも立派な防災遺産として、ジオパークになりうると思います。」
市川:
「ジオパークの認定に向けどんなスケジュールで進められるのですか?」
野口さん:
「県としては、まずは日本ジオパークをめざすことになるんですが、登録申請の主体は、市や町です。何といっても、今はインフラ復旧や被災者の生活再建が最優先ですから、隆起した箇所の保存に向け、自治体の考え方を聞いたうえで、本格的な取り組みは、年明け以降になる見通しです。」
市川:
「復興が軌道に乗る段階でジオパークに登録されれば、観光誘致にとっても追い風になりますね。」
◆被災地に修学旅行誘致
野口さん:
「県は2027年度をめどに、能登半島地震の被災地で、県外からの修学旅行を受け入れる予定です。その誘致に向け、震災の教訓を伝える学習プログラムを作り、隆起した海岸や見附島の見学などを組み込む考えで、まさにジオパークを目指す動きとリンクしている。こうした取り組みが足並みをそろえることで、能登に活力を呼び込みたいですね。」
市川
「ありがとうございました。野口さんの目からウロコでした。」