【特集】難病ALSの元教師②「教育への熱は消えない」現役教師、教師を目指す学生へ 思い受け継ぐ教え子たちは…【長野】
全身の動きや呼吸などができなくなっていく難病ALSを患う元教師。教え子の助けを借りて行う"命の授業"。生きる意味や幸せの感じ方を伝える活動は、 大きく広がっています。
佐久市の元教師、有坂栄康さんが、難病ALSと闘う中で作った講演、命の授業。
27年前の教え子たちに代読してもらい、6月から主に学校で、命や幸せについて話しています。
講演
「病気と闘いながらわかったことがあります。それは心の持ちようで心の在り方で誰もが幸せになれるということ」
子どもたちと授業ができることを喜ぶと同時に、有坂さんは教師に対して伝えたいことも、たくさん温めていました。自費出版した本は、若い教師向け。自分が先輩から教わったことや、経験から得たことをまとめたものです。
そんな彼に、願ってもない話が。
上原博光さん
「やっぱり有坂先生の今までの実践とか熱い思いっていうのもすごくわかってるので、きっと、もちろん子どもたちへの授業もあるんだろうけれどもやっぱ我々が有坂先生から学ぶ機会っていうものを設けたいなと思って、でそれをより多くの先生たちに知ってほしいなっていう」
上原さんは有坂さんと一緒に働いたことがあり、自分が立ち上げた教員の研究会に、有坂さんを講師として呼んだのです。
いつもの命の授業に加え、先生たちに考えてほしいことなど、1時間半の講演を参加型にしようと、計画を練ります。
有坂さんPC音声
「疲れた休む」
文書を作るのも会話をするのも、すべてのコミュニケーションは、目の動きでパソコンを操作して行います。目の負担は大きく、続けて2時間が限界です。8月、研究会が開かれる長野市の小学校に、有坂さんと彼をサポートする教え子たちが集まりました。
さらに今回は、先生を目指す大学生たちも、ワークショップを手伝ってくれることになりました。
講演は、基本的にスライドを使って説明していきます。
読み手のクレイトン美保さんが、有坂先生との思い出も交じえながら。
クレイトン美保さん
「一番大人になって心に残るのは怒られたこととか泣いて怒るんです先生。それがとっても心に響いて変わらなきゃいけないなと子ども心に思ったこととか」
スライドの途中で、いくつかの教師向けワークショップをはさみます。30人ほどの参加者が、2つの教室6グループに分かれ、有坂さんが用意した課題を話し合います。
クレイトン美保さん
「子どもたちが自分のことを好き価値がある良い人と感じることができるようにするにはどうすればよいか2つ考え付箋に記入してください。書かれたアイディアをこの4つの枠の中どこら辺に位置するのかグループ内で話し合っていただき、その模造紙に貼り付けていただきたいと思います」
はっきりした正解のない問いですが、いいと思えばすぐに実践できる、そのためのアイディア共有です。
参加者
「他者評価と自己評価が合えばすごいいいけどちょっとずれると、ずれたっていいんだけどね。最近の子どもってすごい褒められてると思うんですよ。昔の子どもに比べると。ありがとうってとりあえず言ってみるってさあ割と効果がある。私たちのグループでは効果が大きくて即効性のあるものとすればその子がほんとに夢中になって関われるものを作って、そういう経験が自分の良さを体感できていくんではないかな。子どもが全然そんなこと何とも思ってないっていうところを認めるっていうことは大切かなって思います。毎日学校来てるねとかそれは褒めるんじゃなくて認めるってよな形で子どもに返してやる」
「教師は天職」と話す有坂さんにとっても、たまらない時間だったに違いありません。この日のことを書いた、有坂さんのブログ。
有坂さんブログ
「熱心に討論している先生方の輪の中に入りたいと思いました」
反対に、命の授業を聞いた先生が感じたのは。
研究会の会長と上原さん
「かつての教え子がこうやって集って自分の代わりに話をしたり語る訳じゃないそれを我々がまた聞いてるこの場所っていうかすごいよね。その頃に一生懸命やったことがちゃんと教え子たちに響いてるんだなってのもすごく。だから結局幸せってそういうことなんだろうなって思いましたよね」
27年前、教え子と過ごした時間がどれほど濃密だったかわかる、命の授業。
有坂先生の力になりたい、また話が聞きたいという教え子は、県内各地にいます。
飯田もその一つ。
9月は、伊賀良小学校と阿南第一中学の教え子が、命の授業を企画しました。驚くのは、スタッフの3分の1近くが親だったこと。
有坂さんの妻
「わ、か、る、わかる」
教え子の母
「わかってくれた。ご無沙汰してます」
教え子の籠橋裕美さん
「思い出の地に先生が来て下さるっていうのがもうほんとに感慨深いと言うか最高です」
この日はスライドを読むのも飯田の教え子。130人の来場者は、車いすの有坂さんを目の前にして、彼がつづった言葉を、過去や現在、 自分や周囲と重ねました。
講演
「教師として子どもたちに伝えてきたがんばれを自分に向けなければと思いました。今度はここにいる皆さんが誰かの勇気や元気になってほしい。皆さんが幸せでありますように。終わります」
ここまで有坂さんの講演を支えてきた、長野市東条小学校の教え子たちにとっても、飯田が特別な場所になりました。
最初の教え子
「後ろから見させていただいてウルってくるポイントがあるじゃないですか、それが一緒で、やっぱり有坂先生の教え子なんだな、一緒に授業は受けてないですけど同じ授業を受けてたんだなっていうのをすごく感じていてそれがすごくうれしかったです」
飯田の教え子と保護者たち
「またおいなんよ~」
有坂さんと彼らの活動から広がる輪。それを輪の真ん中で見ている彼が、命の授業で得たものは。
有坂さんPC
「どん底、苦しさ、怒り、絶望の中にも生きる価値や喜びを見出せたよ。もちろんこれからも心を磨かないとね」
有坂さんはこれまでに『命の授業』や『若い教師向け指導書』を自費出版し、専門である体育の授業の作りについても執筆を続けています。
有坂さんは「引き継ぐことは人生そのもの」と話しています。