×

「楽しい思い出を」高田松原海水浴場でにぎわいづくりに取り組む人たち

2024年8月30日 18:47
「楽しい思い出を」高田松原海水浴場でにぎわいづくりに取り組む人たち

 月に1度、東日本大震災の被災地のいまを伝える海街リポートです。津波で大きな被害を受け3年前に復活した、陸前高田市の高田松原海水浴場が舞台です。
 この夏、訪れた海水浴客に楽しい思い出を作ってもらおうと、にぎわいづくりに取り組む人たちを江口アミアナウンサーが取材しました。

奥州市の家族
「海デビューしに来ました~」

水沢高校女子サッカー部
「水沢からです」
「部活前に泳いだんですか?」
「はい」
「体力あるね~!」

江口アミアナウンサー
「緑がまぶしい松林に白い砂浜、 そして輝く海が呼んでいます!行ってきます」

 東日本大震災の津波で大きな被害を受け、3年前に復活した陸前高田市の高田松原海水浴場です。

 海水浴期間中には、東北でここだけという巨大な遊具「ウォーターパーク」が海に設置され、この日はおよそ300人が飛んだり跳ねたりして、楽しんでいました。

お昼時に行列ができていたのは「海の家」です。

店頭に立つこの男性は…。

「ラーメン屋さんの方は…」

紺野学さん(44)
「きょうは従業員に任せて」

 空き地が広がるふるさと・陸前高田ににぎわいをつくりたいと、おととし、市内にラーメン店をオープンさせた地元出身の紺野 学さんです。

紺野さんが疲れるまで休まないという店には、連日多くの客が訪れています。

子ども
「うんめぇ」

 そんな紺野さんは、海水浴場が復活した3年前から、夏はラーメン店に加えて海の家も運営し「二足のわらじ」で働いています。
 
幼いころから友達や家族と遊びに来ていた大好きな地元の海に、もっと人を呼び込みたいという思いがあるからです。

紺野学さん
「昔を知っている分、ちょっと寂しい部分はね、昔と全然違うんで寂しい部分は結構ありますね」
「たぶん(震災前は)これの5倍くらいは人がいたんじゃないですかね、いやもっといたかな」

かつてのにぎわいが忘れられません。

 今からちょうど30年前、ビーチが人で埋め尽くされていた高田松原海水浴場です。震災前のピーク時には、20万人ほどが海水浴に訪れました。しかし…。

 震災の津波で砂浜が流され、海岸沿いに7万本あった松は1本だけになりました。
美しい風景とにぎわいを取り戻そうと、砂浜の再生と松の植樹が行われ、3年前の2021年、震災後はじめて海開きをしました。
 
50年以上前から数えきれないくらい訪れているという57歳の女性は…。

一関市 和賀 栄子さん
「震災後10年くらいは…来ても何もって感じだったし、亡くなった方に悪いなっていう気持ちもあったけども、今は、来て、楽しんで、遊んで、いろいろとお金を使って帰っていくのが正しいことなんじゃないかなって思っています。」

「泳ぎましたか?」
「落っこちました、ウォーターパーク!」

 心からの笑顔が戻りつつある海。
 
 ことしはお盆に台風が上陸するなど海水浴場を閉鎖した日が多く、海水浴客は去年より少なかったものの、復活してから2番目のにぎわいでした。

 紺野学さんが運営する「海の家」は、残念ながらことし黒字にはなりませんでした。それでも、海で楽しい時間を過ごしてほしくて、来年も運営することに決めています。

海の家 紺野学さん
「純粋に、普通に楽しんでもらえればそれだけで。いい思い出になればいいかなと」

 海辺には、多くの子どもたちの姿がありました。

 海の安全を守るライフセーバーが、この日「海デビュー」をする子どもたちに、事故やケガのないよう安全な遊び方を教えました。

 ライフセーバーの1人、神奈川県横浜市出身の菅野 睦子さん(23)です。

 菅野さんは、去年、陸前高田市の観光をPRする地域おこし協力隊員になりこの街に移住しました。

 高校生の時、旅行で陸前高田を訪れたことがきっかけで、人や自然に魅せられたからです。

 そんな菅野さんは、去年、体力が求められるライフセーバーの厳しい実技試験に臨み、合格しました。

 陸前高田の魅力の一つである海に、安心して多くの人に来てもらいたいからです。

菅野睦子さん
「海に入っていない子も中に入るので、海ってこんなに楽しいんだ、しょっぱいんだっていうそういうところからまず知ってほしいなと思うので」

菅野さん
「緊張してるの?」
梨奈ちゃん
「うん」

 初めての海を前に不安そうなのは、市内に住む村上梨奈ちゃんです。

 いつも見ていた海で遊んでみたくて、3年生のお兄ちゃんと参加し、お兄ちゃんはすぐ慣れましたが…。

 梨奈ちゃんは、菅野さんにぴったりとくっついて離れません。

 それでも、ずっと手を握ってくれた菅野さんの支えで、海の水はちょっぴり冷たいこと、浮かぶと気持ちがいいことを知りました。

 海辺では母の明日香さんが見守っていました。

 母 明日香さん
「やっぱりまだ海に対するこわいっていう感情が残っている人が多いのかなっていう気持ちもあり、でもこんな素敵な海がね、満喫できるから。教えてくれる人がこうやっているからこそ心配なく遊べるかなと思います」

 この夏、海での事故はありませんでした。

菅野さん
「楽しい思い出になれるように、ちゃんと安全管理をしていきたいなと思っています」

子どもたちの笑顔があふれた陸前高田の夏。

これからも「楽しい海」であり続けるように。奮闘する人たちがいました。

    テレビ岩手のニュース