【海街リポート】県内外から多くの来客 陸前高田の鮮魚店 人気の秘密と店主の思い 岩手
東日本大震災の被災地のいまを伝える海街リポートです。津波で大きな被害を受けた陸前高田市の中心部に、震災後オープンした一軒の鮮魚店には、いま県の内外から多くの客が訪れています。人気の秘密と店主の思いを取材しました。
午前10時の開店と同時に次々に客が訪れているのは、東日本大震災の被災地、陸前高田市に、5年前オープンした「荒木鮮魚店」です。
「きょうは宮城から」「どちらから」「浜松です」「静岡県!?」
津波で大きな被害を受けいまも空き地が目立つ街に、県の内外から人を呼びこんでいます。人気の理由は、朝水揚げされたばかりの、三陸の魚の刺身が300円台など、お手頃な価格で販売していることです。また…。
江口アナ
「大変です。いきのいい毛ガニがフィルムを破ってしまったようです」
荒木英幸店主
「まぁいつものことですね」「いつものこと」「いきがいい証拠ですね」
地元、陸前高田市出身の店主荒木 英幸さん(52)です。荒木さんは、水産高校を卒業した後、市場に勤めたり、居酒屋を営んだりと、ずっと地元三陸の魚に関わってきました。
働く父の背中をみて、長男の一樹さんは、高校で調理師の資格をとり、主に煮物や揚げ物などのお惣菜を作っています。
妻のモト子さんも商品を並べたり会計を担当したりしています。荒木さんは店で、ふるさとの魅力を発信したいと思っています。
江口アナ「この貝は何ですか」
荒木店主「イシカゲガイです、陸前高田の名産品です」
国内で唯一、陸前高田市だけで養殖されているという夏に旬を迎える幻の貝、イシカゲガイは、踊るようにいきがいいのが特徴です。
荒木さんおすすめの食べ方、お寿司でいただきました。
「新鮮なのではじめこりっという食感があるんですが、噛めば噛むほどやわらかくなって甘みがすごいです。磯の香りも口いっぱいに広がりました」
荒木さんは、朝の6時から10時間、魚をさばき続けています。どんなに忙しくても「働ける喜び」を感じています。その理由は…。
荒木店主「家は買って10か月、保険も入ってない、ほぼ終わったかなみたいな」
荒木さんは、震災前は隣の大船渡の港の近くで、魚の卸会社と居酒屋を営んでいましたが、震災の津波で、工場も居酒屋も、そして家族で暮らす家も失いました。
多くの命が失われた街で、荒木さんは命ある限り、前向きに生きていかなければと思いました。
その年のうちに大船渡市内で卸会社も居酒屋も再開させ、家族のために休みなく働いてきました。そして、5年前、ふるさとににぎわいをつくりたいと生まれ育った陸前高田市に戻り店を開きました。鮮魚店にしたのは、地元・三陸の魚のおいしさを食卓に届けたかったからです。
荒木店主
「確かにいま(人口が)1万7000人くらいかなとは思うんですけど、店を開くにあたってあまり人口は関係ないかなと思って」「やり方ひとつでうまくやればお客さんを呼び込むことができるんじゃないかなと思ってやってます」
「2、4、6、8、10、115…」
お客さんが喜ぶ目玉商品を販売するようにしています。この日は、大船渡で水揚げされたマグロのお寿司です。10かんで税込み861円というお値打ち価格です。限定30パックのこのお寿司は、開店から50分で…。
江口「あ、これで売り切れです」
盛岡からきた客「本当ですか!わ~いやった~買いに来たんです」
安さの理由は、店主の荒木さんが小売店や飲食店に魚を販売する「仲卸」をしているため、一度に多くの魚をまとめて買い付けることで、割安で仕入れることができること。そして、三陸の海の幸のおいしさを伝えたいという荒木さんの思いも影響しています。
荒木店主
「お客さん目線である程度値段つけてますんで」「おじいちゃんおばあちゃんから子どもさんまでたくさんきてくれますんで」
妻のモト子さんに聞くと…。
「ちょっとでも(値段)上がったらちょっとでも楽になるのになんてははは思いますけどねははは」「子どもさんがお誕生日とかご褒美に何がいいっていったときに、荒木鮮魚店のお刺身がいいとかお寿司がいいとかっ言ってくれるのがすごくうれしくて、そっちのやりがいの方が大きかったりして」
この日も…。
紫波町から来た母娘
「安いしおいしいし、2時間かけてくる価値は全然あると思います」「あんこうとかもおみそ汁にして、いっぱい食べてくれるので、この年であん肝食べてます」「2歳であん肝の味知ってる」
遠方からのお客さんは、ここ数か月で倍くらいに増えました。荒木さんが4か月前に初めて手にしたスマートフォンで店の商品を発信しはじめたからです。いまは1万8000人以上がフォローし、週末には県の内外から1日200人以上が訪れます。
荒木店主
「やっていることは小さいかもしれませんが、1人でも2人でも陸前高田に来てもらえればいいんじゃないかと思います」
荒木さんに気になっていたことを聞きました。鮮魚店の入口の右側にあるもう一つの扉のことです。
荒木店主
「食堂をやりたいなと、あとは看板を入れるだけなんですけどもね」「やることには年齢は関係ないのかなと思いますね、もし60になってやりたいことがあったら多分またやりますね」
来年以降の食堂のオープンを目指す荒木さん。いきのいい52歳の挑戦が続きます。