戦争で兵士が負った「心の傷」 国が行った調査の対象外の元兵士 厚労相「何ができるか検討したい」
過酷な戦争体験の中でかつての日本軍兵士が負った〝心の傷〟について昨年度初めて、国が行った調査を巡り、福岡厚生労働大臣がこのほど、「調査結果の展示内容などを専門家に見てもらい、どのようなことができるか検討したい」と発言しました。調査対象の拡大を巡る今後の動向が注目されます。
太平洋戦争などで出征した旧日本軍兵士のうち相当数が、過酷な戦争体験のトラウマからPTSD・心的外傷後ストレス障害などの精神疾患を発症していたことが、近年明らかになってきています。
YBCで取材を進めてきた鶴岡市出身の元兵士の遺族らは、亡き父が生前感情の麻痺や突然の怒りに襲われ、家族に暴力を振るうなどした行動の背景に戦争のトラウマがあったのではないかと証言活動を続けています。
黒川安子さん(73)(酒田市出身)「幼少時“お父さん お父さん”と近づこうものなら振り払われた。父は人を信頼できない戦後復員してきてそうなったと母は言っていた」
市原和彦さん(73)(神奈川県在住)「父はお膳をよくひっくり返したり母に酒をぶっかけたり暴言を吐いたり・・・恐ろしい おっかない父親。戦争の影というのは人間を本当にゆがめさせる」
遺族らの活動がきっかけとなり、厚生労働省では昨年度、戦争のトラウマを負った旧日本軍兵士について国として初めての実態調査を行いました。1年間で収集した旧陸海軍病院のカルテなど当時の資料をもとに、来年2月ごろから国立の戦傷病者史料館「しょうけい館」で常設展示を行う予定です。
一方、3月末で終了したこの調査では、客観的な証拠により戦傷病者と認定されていない元兵士は対象から外されていました。遺族らは、調査対象の拡大を国に求めています。
元川崎医療福祉大学教授 福田孝雄座長「物的な資料は数少ないカルテなどはあるかもしれないが個人的なプライバシーの問題もあるし調査は簡単にはいかない」
こうしたなか、福岡資麿厚生労働大臣は閣議後の記者会見で調査の対象が限定されていたことについて問われ、次のように答えました。
福岡資麿 厚労相「戦傷病者と認定されていない元兵士については戦後80年が経過し多くの方が亡くなっているなかで戦争と症状の因果関係の判断が難しいなどの課題があると認識している」
そのうえで今後の調査について次のように述べました。
福岡資麿 厚労相「戦傷病者と認定されていない元兵士に関するさらなる取り組みについてはしょうけい館での新たな展示が行われた後、展示内容等を専門家に見てもらいながらどのようなことができるか検討したい」
東京のしょうけい館で行われる戦争のトラウマに苦しんだ元兵士についての展示はことし7月から10月にかけて企画展が、来年2月ごろから常設展示が始まる予定です。