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戦争体験の日本軍兵士の“心の傷”国が初調査 対象は戦傷病者と認定された人のみ 遺族の思い

2025年3月13日 18:25
戦争体験の日本軍兵士の“心の傷”国が初調査 対象は戦傷病者と認定された人のみ 遺族の思い

過酷な戦争体験の中でかつての日本軍兵士が負った〝心の傷〟について国による初の調査が行われ、その結果が12日、報告されました。鶴岡市出身の元兵士の遺族はどう受け止めたのかー。そして、今回の調査を巡る国の動向を振り返ります。

厚生労働省が所管する戦傷病者史料館・「しょうけい館」の有識者会議。傍聴席で会議の行方を見守るのは、鶴岡市出身の黒井秋夫さん(76)です。

ホームビデオ「おじいちゃんピースしてくれ。早くしてくれよ」

これは、1990年に亡くなった黒井さんの父・慶次郎さんの生前の姿です。

黒井秋夫さん「反応しない」「年々こういう状態が進行」「何かの意思感じられない」

かつての日本軍兵士として中国での戦闘に加わっていた父は、戦後、PTSD・心的外傷後ストレス障害に苦しんでいたのではないかー。
黒井さんは元兵士の遺族らとともに証言集会を重ねながら、国による実態調査を求めてきました。

黒井秋夫さん「父は戦後、抜け殻のようなかたちになって孫に反応もできないような人生を終えた。PTSDの兵士の76歳の姿どうしてこうなったんだ誰の責任なんだ」

黒井さんたちの活動がきっかけとなり、おととしの3月、国会で当時の加藤勝信厚生労働大臣が答弁しました。

加藤勝信 厚生労働大臣「元兵士やその家族の体験研究の成果などを調査ししょうけい館の運営有識者会議での議論を行っていくなかで考えていきたい」

そして、この答弁から1年後の去年3月ー。国が初めて、実態調査に乗り出すことが決定。厚生労働省が2006年に開設した「しょうけい館」が主体となり、心に傷を負った兵士の資料や研究成果の収集を進めることになりました。

元川崎医療福祉大学教授 福田孝雄 座長「精神的な問題ですから家庭の外に出したくないということがあったなら調査は簡単ではない」

決定後間もなく、黒井さんたち遺族は厚生労働省の担当者と面談しました。

黒井秋夫さん「我々から事情を聴けばそれはPTSDだとわかると思いますのでぜひその実態調査から始めてもらいたい」

しかし、調査対象となる元兵士は現存する戦時中のカルテなどの客観的な根拠に基づき、戦傷病者として認定された人に限ることが判明ー。
黒井さんの父・慶次郎さんのように、入院や治療の記録がないまま亡くなった元兵士は、調査の対象から漏れていたのです。

実態調査の対象をめぐって去年8月、当時の武見敬三厚生労働大臣は次のように答えました。

武見敬三 厚生労働大臣「対象については基本的に戦傷病者として認定された方を考えているが専門家の意見なども踏まえてどのような資料の収集や展示の方法が適切か今後検討していきたい」
記者「戦傷病者に認定されていない元兵士の調査は検討に入る?」「検討をする」

そして12日に開かれた「しょうけい館」の運営有識者会議。

黒井秋夫さん「対象の拡大について大臣が『検討する』と言っていたので少しでも後押しになる発言があればと期待している」

1年間の調査結果を厚生労働省の担当者らが報告しました。
今回の調査で収集された元兵士のカルテや、家族の体験記などの資料を整理・分析し、ことし7月から10月にかけて企画展を開催、来年2月ごろからは
常設展示する方針が決まりました。

黒井秋夫さん「父親には『第一歩』かなと伝えたい。しょうけい館ができて18年初めて兵士の心の病気についての展示をするということなので巨大な一歩」

一方で黒井さんは、戦傷病者と認定されなかった帰還兵が〝調査対象外〟となったことが議論されなかったのは「残念だ」とも続けました。

黒井秋夫さん「帰還兵の戦争トラウマ子どもたちや家族がそれで大変な苦労をしたそういう点で今も続いているということを声を大にしてこういう場にも届くようにがんばっていかなければいけない厚労省の人たちにもぜひ考えてもらいたい」

厚生労働省の担当者はYBCの取材に対し、「今回の展示に向けた調査は3月末で終了」とした上で、「今後の調査の見通しは〝未定〟」と述べています。

最終更新日:2025年3月13日 20:04
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