【物議】「あの場所がいかに危険か」認定こども園『浸水想定区域』内に建設で懸念の声 宇陀市側「過去に越水した記録ない」
奈良県宇陀市が、来年春に新たに開設する予定の「認定こども園」をめぐり、市民らが懸念の声をあげています。理由は、その建設地にありました。
加藤沙織 記者
「市議会の委員会室前です。ご覧の通り『傍聴は満席』とあるこの部屋の奥では、新しいこども園をめぐる審議が続いています」
こども園の建設計画の安全性をめぐり、市民の有志が市に対し、“待った”をかけました。その問題とは…。
奈良県の北東部に位置する自然豊かな高原地帯「宇陀市」。こののどかな街で今、議論となっているのは、市が進める新しい認定こども園の建設計画についてです。
市の計画では、今ある3つの幼稚園と保育園を統合し、約6800平方メートルの広い敷地に、鉄骨2階建てのこども園を新築します。
市内の子どもを預けられる託児所も併設され、最新の子育て支援拠点の誕生に期待の声が聞かれる一方…。
住民男性
「あの場所がいかに危険なところか、もう一度考えていただきたい」
住民女性
「今回の決定後の説明について、私は大変残念に思っております」
市側の担当者
「我々としては十分、そのご心配の点についても対応できる」
昨年8月に開かれた住民説明会の音声です。こども園の建設をめぐり、不安の声が噴出した原因は目の前を流れる“川”でした。
建設地の向かいに流れるのは「宇陀川」です。市のハザードマップなどによりますと、川沿い一帯は「浸水想定区域」とされているのです。
9時間に380ミリの雨が降った場合、園の周辺一帯では50センチから3メートルの浸水が想定され、現状、建設地の川沿いでは、1メートル65センチ程度の浸水が想定されています。
2020年の熊本豪雨では川沿いの老人ホームが浸水し、逃げ遅れた入居者が亡くなった事例も。被災前から避難訓練などを重ねていたといいますが、水は想像を絶するスピードで地域を襲いました。
園に子どもを預ける保護者は…。
保護者
「増水したらみんな避難できるかというのは不安もある。話を詰めていってくれればと思います」
「環境としてはすごくよくなるのかなと思っているので、安全確保してもらって、通園できるいい環境が整うのであればうれしい」
こうした安全を求める声に対し、市は「すでに対策を計画している」といいます。
宇陀市 こども未来課・山本裕平課長
「建設予定地については全く(過去に)越水したという記録は残っていない。浸水想定区域ではあるが、ハード対策もしていく」
市は建物の基礎や園庭を1メートルかさ上げし、そこへさらに1メートルの壁を作ることで、浸水のリスクを減らせると強調。また、避難計画についても来年4月の開園までに作るとしました。
自治体に求められる対策について、専門家は。
摂南大学理工学部・石田裕子教授
「『今まで起きなかったから、この先も起きない』ということはありえない。対策をしたら子ども園そのものは守られると思うが、結局、そこにあふれるはずの水がこども園に入っていかないことで、その周りの土地が浸水する可能性というのは否定できない」
近隣住民は計画の見直しを求める請願書を議会に提出し、きょう午後3時から始まった審議は今も続いています。今後、月末の本会議でも議論は続く見込みです。