「ホストは生きがい」女性客につけこむ“悪質ホスト”問題 大学生が1000万円貢ぐ…規制強化へ
女性客に多額の借金を背負わせ、売春させるなどの「悪質ホスト」に対し、警察はこの1年、取り締まりを強化してきましたが、トラブルはあとを絶ちません。その卑劣な手口と対策をゲキ追しました。(取材・報告=的井文謙記者)
■大学生が性風俗店で働きホストに1000万円 女性客「アイドル推す感じ」
取材班が12月に話を聞いたのは、つい最近までホスト通いをしていた大学生のAさん・20歳です。
Aさん
「20歳で学生しながら、夜のお仕事しています。(ホストクラブに通い始めて)1年半くらいです」
記者
「1年半でどれくらいお金使いました?」
Aさん
「トータルで約1000万くらい使いましたね」
いわゆる「デリヘル」や「ホテヘル」といった性風俗店で勤務し、多くて月に100万円ほどある収入はほとんどホストに貢いでいたということです。
そこまで何が女性たちを魅了させるのでしょうか。
大阪・ミナミのホストクラブ「CLUB KING」を取材すると、大音量の店内でシャンパンコールの声が飛び交う中、Aさんと同じくらいの若い女性が数多く来店していました。中には3日連続で来ている女性も。
ホスト
「3日連続(シャンパン)卸してくれてます。ということは明日も、明後日も、明々後日もスタンプラリー集めていきましょう!よいしょ!」
これだけの大金を一夜に注ぎ込む彼女たちの心境とは…読売テレビは、何人かの女性客に話を聞くことができました。
女性客①(29歳・会社員)
「(半年で)300万くらい使っていますね。」
記者
「払うに値する何かがあるんですか?」
女性客①
「あります。顔です。アイドル推すみたいな感じです」
女性客②(23歳・風俗店勤務)
「お金持ちしか行けないようなところだと思ってたんですけど、いざ行ってみたら、初回キャンペーンみたいのがあって、5000円とか1000円で飲める。で、キャスト(ホスト)さんがついてみたいなのってなかなかないじゃないですか。行ってみて、楽しくてハマったみたいな感じです」
女性客③(25歳・風俗店勤務)
「1年間で1200、1300万円くらい使いますね。大好きなんで。彼(ホスト)が。一生懸命やし、自分が頑張る目標になってくれるんで。(彼が)ホストやめるまで応援し続けます」
このホストクラブで、最も高額なシャンパンは1本200万円に上るといいますが、それでも彼女たちからすると納得の金額だということです。
■問題の原因「売掛金」 回収目的で女性客に“売春”も…
ホストクラブは大阪に約200店舗あり、激しい競争を繰り広げています。そんな中、今問題となっているのが「売掛金」と呼ばれる仕組みです。
通常のツケは店への借金ですが、売掛金はホスト本人が店への支払いを立て替える特有の仕組みです。
自身も売掛金を抱えていたというAさんによると、売掛をする理由として、女性客は担当ホストのため、売り上げ順位に貢献したいと考えるといいます。
Aさん
「どうしても勝ちたいから未収(売掛)で入れるっていうパターンもあるし、担当ホストの目標とかがあって、その目標を叶えるまでに額が足りない。だから売掛してほしいって担当から頼まれる」
一方、ホスト側は。
KINGのホスト・楓優氏
「いま女の子にすごいフォーカスされていると思うんですけど。女の子が苦しい思いしてる。でも、ホスト側もめちゃめちゃ苦しい思いしちゃうんですよ。結局ツケが自分たちに来るので。僕自身給料がマイナス200万円になったこともありますし」
こうしたなか、売掛金の回収のために一部の悪質ホストクラブで横行しているのが、性風俗店へのあっせんです。
11月には、先ほどの「KING」とは別のミナミのホストクラブの経営に携わる奥田千城被告(31)が、売掛金の返済が困難になった女性に対し、自身が実質的経営者である「松島新地」の料亭を売春する場として提供した罪で逮捕・起訴されました。
Aさんも実際に性風俗店を紹介された経験があると話します。
Aさん
「ホストから風俗店を紹介されることはなかったんですけど、ホストの知り合いの『スカウト』から紹介されることはあって。やっぱりスカウトを紹介してくるってのが結構多いみたいですね」
■性風俗店のスカウト「俺の言うこと聞かなかったから、人生がめちゃめちゃになる」
ホストやスカウトは、性風俗店に女性客を紹介すると、「スカウトバック」という紹介料をもらうことができるため、執拗に風俗店を紹介してくるといいます。
実際にAさんとホストとのSNSでのやり取りをみせてもらうと。
ホスト
「おれが紹介した人に相談してよ。なんでも紹介できるよ?その人」
Aさん
「スカウト使った方がいいのかなやっぱり。ホストから紹介してもらったスカウト、今までトラブルしかなかったから、使うの少し怖い」
ホスト
「一回会ってみる?めっちゃいい人やで」
Aさんは実際にあった怖い体験も教えてくれました。
Aさん
「そのスカウトに例えば自分の情報、顔写真とかスタイル写真とか体重とか送った後に店舗詳細っていうのが送られてくるんですけど、見たら結構本当にちょっとやばそうな店というか、断ったりしたら、『俺の言うこと聞かなかったから、人生がめちゃめちゃになるんだよ』とか言われた」
大阪府警によると、2024年のホストクラブ関連の検挙者数は62名と、前の年を上回っていて、そのうち14人が売掛金に関するトラブルが原因だということです。
■初めての客を狙う悪質営業マニュアル“一撃講習”
悪質ホストによる被害は、常連の女性客以外にも及んでいます。
今年9月、大阪府警が摘発したミナミのホストクラブ「Aria」の関係先から、ある営業マニュアルが見つかりました。
その名前は「一撃講習」。
「一撃」とは、初めて来店する女性から一回でいかに大金をせしめるかを意味しています。
1、彼女であること
2、昼職であること
3、20歳以上であること
4、ホストについて知識がないこと
マニュアルには、客として狙う女性の条件がこう記されていました。
警察によりますと、恐喝の罪で逮捕・起訴された「Aria」ホスト、藤咲湧斗被告(24)はまず、マッチングアプリで出会った20代の女性とデートを重ね、自身を「彼氏」と思いこませていました。
そして去年6月、女性と食事をしている際にこう切り出します。
藤咲被告
「ホストクラブのミーティングに遅れたら罰金になる。同伴なら罰金はないから一緒に来てほしい」
被害者の女性は、”彼氏”を助けたいとの思いから、「初めて」ホストクラブへ足を踏み入れます。
しかし、そこで女性は記憶がなくなるまでシャンパンなどの高額な酒を飲まされたのです。その一夜で請求された金額はなんと108万円7000円にものぼりました。
藤咲被告
「払うまで帰られへんから」
藤咲被告はこう女性を脅し、消費者金融から金を借りさせていたということです。
■規制強化で風営法改正へ…売掛金「自主規制」の動きも実効性は
相次ぐ悪質ホストの問題を受け、警察庁の有識者検討会では12月、取り締まりの強化を求める報告書がまとめました。報告書を踏まえ、警察庁は2025年の通常国会で風俗営業法の改正案を提出する方針です。
恋愛感情につけこみ、高額な飲食をさせる「色恋営業」や、売掛金を威迫して回収する行為、女性を困惑させるなどして性風俗店で働かせたり、売春させたりする行為、そしてホストに入る性風俗店からの紹介料である「スカウトバック」などを行政処分や刑事罰の対象にすることを検討しています。
また、1カ月の売り上げが2億円もあるホストクラブがあるなか、法人への罰金の上限が200万円であることから、抑止力を高めるにも、上限を大幅に引き上げる方針です。
さらに悪質ホストグループのある店舗が営業停止処分をうけても、別の系列店で営業が行われている実態があることから、系列店も営業できないようにすることを検討しています。
警察庁の露木康浩長官は12月19日、「卑劣なビジネスモデルを解体し、(悪質ホストクラブの)責任者やグループの排除を目指して参りたい」と話しました。
一方で大阪のホストクラブでは自主規制をかける動きもあります。
ホストクラブの業界団体「大阪飲食健全共同組合」の春山学会長
「世間的にも色々ご心配やご不安を招いてることをこれは広くお詫びを申し上げるとともに、じゃあ組合ではどういうことを実際できるのかということを何度も検討と議論を繰り返しまして、2025年の4月をめどに、売掛金を全体の2割まで落とす決定をしました」
この共同組合では加盟するホストクラブに対し、売掛金の上限を支払い代金のまずは2割とし、徐々に廃止する方針だということです。また、被害相談を受ける窓口も設置するといいますが、加盟店の数は大阪のホストクラブ全体の半分以下で、実効性は不透明です。
Aさんも売掛金の廃止だけでは必ずしも問題の解決にはつながらないと話します。
Aさん
「禁止にしてもOKにしてもそれほど変わらないと思ってて、というのも、売掛禁止にしてるってことはその稼いだ額とか、持っているお金でしか楽しめないと思うから、だから少しでもお金を持つために、夜職なりで働いたり、金融関係から借りたりする」
要は先に稼いで払うか、後から働いて払うかの違いでしかないということです。
本来「客をもてなす」ことを意味する「ホスト」。女性客、そして業界そのもののためにも、意味のある変化が求められています。