【独自解説】680億円ともいわれる違約金の行方は?緊急会見で事務所との契約終了を発表したNewJeansに「対応は極めて悪質」と批判の声も…泥沼化する騒動の背景にある、韓国の“アイドルビジネス”の手法
韓国は、政治も芸能界も大騒動に。大人気アイドルグループ『NewJeans(ニュージーンズ)』が緊急会見を開き、所属事務所『ADOR(アドア)』との専属契約を終了し、フリーで活動を続けることを発表したのです。「NewJeansの対応は極めて悪質」との意見も出る中、彼女たちの未来は?韓国の芸能ウオッチャー・ヒョンギ氏の解説です。
■緊急会見で事務所との契約解除を発表 人気アイドルに何が―
韓国の5人組ガールズグループ『NewJeans』は、2022年に所属事務所『ADOR』初のアーティストとしてデビュー。K-POP史上デビューから最短で米・ビルボードHOT100に入るという快挙を成し遂げました。日本でも精力的に活動していて、ヒョンギ氏によると2023年の売り上げは約120億円ともいわれています。
そんなNewJeansが2024年11月28日、緊急会見を開きました。この会見は開始2時間前に突然、外部の広告代理店を通して告知されたもので、「11月29日(金)午前0時をもって専属契約は解除される」と契約解除を発表しました。
■<時系列で振り返る>NewJeans生みの親・ADOR前代表ミン・ヒジン氏巡る“お家騒動”
2024年4月、親会社『HYBE(ハイブ)』が業務上背任などの疑いで告発し、NewJeans生みの親で所属事務所『ADOR』代表だったミン・ヒジン氏を解任。同年9月、NewJeansが生配信で『HYBE』に抗議し、ミン氏の代表復帰を要求・いじめの告白などを行いました。同年10月には、「職場でいじめを受けた」とメンバーが国会で証言しましたが、“労働者でないため該当せず”と判断されました。
同年11月13日、「受領から14日以内に要求を受け入れなければ契約解除」と記した内容証明を『ADOR』宛てに送付。同月20日、ミン・ヒジン氏が社内取締役を辞任。同月28日、緊急会見で『ADOR』との契約解除を発表しました。
(注:同年12月5日、『ADOR』が専属契約有効確認の訴えを起こしました)
Q.生みの親であるミン・ヒジン氏が所属事務所の代表を解任されたところから、全ては始まったんですよね?
(韓国芸能ウオッチャー・ヒョンギ氏)
「そうです。普通の記者会見だと代理人弁護士が同席したりしますが、今回、メンバーだけで会見をしています。メンバーはまだ16~20歳で未成年もいるのに、こんなにしっかりとした会見を見たことは、今までにないです。いろんな臆測や報道がありますが、ミン・ヒジンさんが全部把握してやっているのではないかといわれるぐらい、ミン・ヒジンさんとメンバーの関係性は深いんだと思います」
■事務所からの回答送付期限前に記者会見を告知…「会社としてどんな対応をしていたのか疑問」
2024年11月13日の内容証明は事務所に突きつけた“最後通告”で、同年11月14日に事務所が受領し、“期限”は同年11月28日に。
事務所は、会見の1時間前に回答を送付しました。しかし、NewJeansはその約1時間前の午後6時半ごろに『記者会見の告知』を行っていて、回答を見たうえで午後8時半ごろから緊急会見に挑みました。
メンバーのハニさん(20)は「会社側は改善の余地や要求を聞く意思が全くない」と話した一方、会見後、事務所は「契約は2029年7月まで有効、契約は継続中」と反論しています。
Q.回答送付より前に会見の告知を行っているということは、メンバーは自分たちの要求が全く受け入れられないと、事前に知っていたということですか?
(ヒョンギ氏)
「はい。大きい事務所なので、メンバーがこんなふうに出る前に話したり、未成年の場合は親とも話したり、何らかの形でできたと思うんです。でも、どこまでが真実かわかりませんが、経済面の話もいろいろ出たと思いますがそれも全部蹴って、『お金はいらない、ミンさんの復帰を要求している』となったということは、今まで、本社含めて会社として、メンバーたちにどんな対応をしていたか疑問だと思います」
■「“いじめ”への謝罪」「ミン氏の復帰」メンバーが事務所に求めた2つのこと
NewJeansは事務所に対し、2つの要求をしていました。
要求①が、『“社内いじめ”への謝罪』です。HYBE社内でハニさんが別のグループのアーティストに挨拶した際、別のグループの関係者が「無視して」と言ったなどの問題で、防犯カメラの映像提供を求めました。
ただ、事務所側はお辞儀で挨拶する場面のみを提供。また、「保存されていた映像30日分と両グループのメンバーや関係者の出入りの記録を全て確認したが、挨拶をする姿の他に特異な事項がなかった」と回答し、名誉棄損・証拠隠滅には当たらないとしています。
要求②は、『前代表ミン・ヒジン氏の復帰』です。親会社『HYBE』は2024年4月、ミン・ヒジン氏が“独立”を企てたとし、業務上背任などの疑いで告発。ミン代表は解任となっていました。
これに対し事務所は、取締役会の経営判断の領域だとして、「専属契約には、特定の人物が代表取締役を務めなければならないという内容は含まれていない」と回答しました。
Q.契約の中に「NewJeansはミン・ヒジン氏以外プロデュースしてはいけません」という文言は一言もないから、ということですね?
(ヒョンギ氏)
「そうなんです。でも、ファンたちはミン・ヒジンさんと一緒にやりたいという気持ちが物凄く強いです。また、大きい事務所に対して、裁判より国会での発言や記者会見という形に出るということは、まずファンを自分たちの味方にして、一般の人たちも味方にして、そこから着々とやっていこうという流れになっているのではないかと思います」
■約680億円ともいわれる違約金、どうなる?法律家でも分かれる見解
2024年3月、当時まだ代表だったミン・ヒジン氏と『ADOR』前副代表らが話し合いを行っています。韓国メディアが入手したチャットの内容によると、違約金の算出額は約500億円~約680億円ということです。ただ、NewJeansは会見の中で、「責任は『HYBE』と『ADOR』にある。違約金を支払う理由は全くない」と話しました。
『朝鮮日報』によると、韓国のエンタメ業界に詳しいチョ・グァンヒ弁護士は、「違約金の免除理由は、事務所の暴言と暴行。本件に当てはめるのは難しい」という意見です。一方、ノ・ジョンオン弁護士は、「ミン・ヒジン氏のプロデュースが契約の前提にあり、重要な要素となっていれば、NewJeans側が有利に」との見解を示しています。
■「対応は極めて悪質」NewJeansを非難する声も…韓国アイドルビジネスの難しさ
2024年12月4日時点ではミン・ヒジン氏との合流についてはわかっていませんが、『朝鮮日報』によると、エンタメ業界に詳しいツン・ヘミ弁護士は「契約解除訴訟は“信頼関係の破綻”がカギ。アーティストが勝訴する判例は多い」と話していて、ヤン・テジョン弁護士は「メンバーが『ADORと死んでも一緒に仕事ができない』と言えば、契約解除阻止は難しい」との見解を示しているということです。
一方、NewJeansの対応は“極めて悪質”だという意見も出ています。『聯合ニュース』によると2024年12月3日、韓国の芸能・音楽業界団体と芸能マネジメント連合は、「誰もが宣言だけで契約解除が可能になれば、どのようにして専属契約の効力を確保でき、こうした不確実な契約に基づいて誰が投資できるのか」「現行法では、悪意を持って契約を解除する場合、損害賠償を請求する以外に契約を維持するための可能な措置がない」と表明しました。また、「NewJeansの対応は極めて悪質」として、これまでの立場を撤回し、会社との対話に応じてもらいたいとしています。
Q.韓国の芸能界では、「勝手に辞められると困る」という意見もあるんですね?
(ヒョンギ氏)
「そうなんです。韓国のアイドル業界は、大体先に投資して後でお金を回収するシステムなので、こんなふうに記者会見をポンッとやって辞められてしまうと、これから投資する企業や個人がどんどんいなくなってしまうから、ちゃんと向き合って話をして解決してくださいという声明を、韓国マネジメント業界が出しました」
Q.事務所が、ミン・ヒジン氏がNewJeansを連れて独立してしまうと思った可能性もありますよね?
(ヒョンギ氏)
「本当はあり得ないですけど、今の状況では、なくもないです。ただ、事務所もイメージがありますし、これは可能性の話ですが、どっちにしろ違約金なども払わなければいけないなら、事務所を基にして0から100まで細かく契約書を書いて、もうタッチされない形で、事務所も良い・メンバーたちも良い・みんなが良い感じでまとまる可能性も、なくもないと思います」
(「情報ライブ ミヤネ屋」2024年12月4日放送)