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【記者は見た】‟紀州のドン・ファン”裁判 法廷での須藤被告25回の審理と28人の証人…‟異例の裁判”の行方は

2024年9月15日 10:00
【記者は見た】‟紀州のドン・ファン”裁判 法廷での須藤被告25回の審理と28人の証人…‟異例の裁判”の行方は
須藤早貴被告と野崎幸助さん

 “紀州のドン・ファン”と呼ばれた資産家の男性が殺害された事件。殺人などの罪で起訴されていた元妻の須藤早貴被告(28)の裁判員裁判が12日、和歌山地裁で始まりました。
 
 須藤被告が殺害したことを直接裏付ける証拠がない中、須藤被告は初公判で改めて無罪を主張。全25回の審理を経て、判決は12月12日に言い渡される予定です。
 
 初公判と2回目の審理を傍聴した記者が見た法廷での須藤被告の様子と、裁判のポイントとはー。

(報告:読売テレビ報道局 澤井耀平記者・阿部頼我記者・泉達也記者)

■法廷に現れた須藤被告 その表情と被告人席での様子は…

 9月12日木曜日、午前10時40分。和歌山地裁101号法廷。
 須藤被告は全身黒のワンピースに白いマスクを着けて、堂々とした様子で入廷しました。

 人定質問のあとの罪状認否で、3秒間ほど沈黙した後、はっきりした口調で「私は社長を殺していませんし覚醒剤を飲ませたこともありません」と起訴内容を否認した須藤被告。黒のワンピースに胸下までの長い黒髪が印象的で、マスクをしていて口元の表情はわからないものの、検察官をしっかりと見つめながら話を聞き、時折資料も手に取りながら裁判に臨んでおり、とても堂々と落ち着いているように感じました。
 また、検察の冒頭陳述で出された「完全犯罪 薬物」「老人 完全犯罪」といった検索履歴などの状況証拠の読み上げの際にも、須藤被告はまっすぐに前を見つめていました。

■「直接証拠」なき裁判…「状況証拠」積み上げる検察

 2018年5月、事件当日。
 亡くなった野崎幸助さん(当時77)の自宅で、野崎さんの家政婦の女性が、午後3時ごろに夕食の準備を終え外出。午後6時ごろに自宅の防犯カメラが出入りする野崎さんの姿をとらえたあと(野崎さんの最終生存確認時刻)、午後8時ごろ、家政婦の女性が帰宅するまで、須藤被告と野崎さんは2人きりでした。

  検察の起訴状では、この間に須藤被告は野崎さんに致死量の3倍もの覚醒剤を摂取させたとしています。また、自宅の台所や掃除機からは微量の覚醒剤が検出されていて、事件前に須藤被告が覚醒剤の密売人と接触した形跡があったということです。

 須藤被告自身は日常的に覚醒剤を使用していた形跡はなく、野崎さんを殺害するために覚醒剤を入手した可能性が高いと検察は証言しました。これらを踏まえて検察は、「財産目当てで結婚後、覚醒剤を使って完全犯罪を行った」と主張。初公判では「二人きりであったこと」と「覚醒剤を使った犯行時間帯」が重なっていたことが提示されました。

■友人には「警察に何か聞かれても答えないように」

 13日に行われた第2回公判では、須藤被告の学生時代の友人の証言として、野崎さんとなぜ結婚したかを尋ねた際、「財産をくれるから結婚した」「月100万円もらえるから。そんなおいしい話ない」と返答していたことが明らかになりました。
 友人のSNSグループでは「財産はけたはずれ」 「遺産入るまでに何年もかかる。入るまで海外を飛び回る」などと投稿していたほか、野崎さんが亡くなり、事件が報道されるようになってからは、「警察に何か聞かれても何も答えないように」と友人らに対し‟口止め”をしていたことも明らかにされました。

 検察側がこうした内容を説明している際も、須藤被告は動揺する様子もなく、時折メモを取りながら淡々と聞いていたほか、後半ではやや説明に飽きたように下を向く様子も時折見られました。

■「本当に事件なのか?彼女は犯人なのか?」弁護側は‟無罪”主張

 須藤被告が野崎さんに覚醒剤を摂取させたことを裏付ける「直接的な証拠」はありません。「犯人は須藤被告以外にありえない」とする検察と、「そもそもこれは殺人事件なのか?そして須藤被告が犯人なのか?」と根本から事件を否定する弁護側。双方の主張をまとめると以下のようになります。

<検察側の主張>
①覚せい剤を摂取させた時間帯(午後4時50分~午後8時ごろ)には、現場には須藤被告と野崎さんの2人きりだったこと

②午後6時ごろに現場(野崎さんの自宅)敷地内にある防犯カメラで野崎さんの生存が確認されていること。
 ※この時点では覚せい剤を過剰摂取した際に見られる錯乱の症状がみられないこと。

③午後10時36分に野崎さんの遺体が確認されていること

④覚せい剤の過剰摂取の場合、症状が出るのは摂取後約30分後で、約2時間以上経ってから死亡するのが一般的とされていること。ただし覚せい剤を詰めた「カプセル」を使用して、何らかの方法で服用させた場合は症状の発出はさらに40分遅らせることができる。
→以上から須藤被告の犯行時刻は<午後4時50分~午後8時ごろ>のおよそ3時間

<弁護側の主張>
①本当に事件なのか?覚醒剤だとわかって飲んでいたら事件ではない

②須藤被告は犯人なのか?覚せい剤を飲ませたのが須藤被告でなければ、殺人罪には問えない

③殺意はあったのか?人を殺そうと思った時に、覚醒剤という手段を選ぶのか?思い立つのか? 本当に殺意を持って、被告が覚醒剤を飲ませたと言えるのか?飲ませたとしても殺そうと思っていなければ、殺人罪には問えない。

■25回の公判で証人は28人…異例の裁判 判決は12月12日

 公判では検察による「証拠調べ」も始まっています。検察は「完全犯罪 薬物」などの須藤容疑者の事件前のインターネットでの検索履歴や動画の視聴履歴を特に多く並べて提示し、説明していました。
 一方で、「直接証拠」という‟本丸”がない中、状況証拠や証言をひたすら積み重ねていくことで‟外堀を埋めていくしかない”今回の裁判の難しさを改めて感じました。

 野崎さんの死から6年。
 判決までに異例の25回もの公判では、28人にも及ぶ証人が出廷します。判決が予定されている12月12日までに、果たして検察は須藤容疑者の犯行をどのようにして立証していくのか。担当記者として、注目の裁判の行方を引き続き追っていきたいと思います。

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