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【特集】「どうやったら犯人を殺せるか…それが夢でした」妹を殺害された社長の壮烈半生 辿り着いたのは“犯罪者の更生支援”という生き方 何度裏切られても「俺は絶対離さへん」

2024年5月11日 17:00
【特集】「どうやったら犯人を殺せるか…それが夢でした」妹を殺害された社長の壮烈半生 辿り着いたのは“犯罪者の更生支援”という生き方 何度裏切られても「俺は絶対離さへん」
元犯罪者の更生を支援する草刈健太郎さん

 2005年、米・ロサンゼルスで映画脚本家になるという夢を追っていた日本人女性が、アメリカ人の夫に殺害されるという凄惨な事件が起きました。その女性の兄・草刈健太郎さんは犯人を憎み、「相手を殺すのが夢」「犯罪者なんかみんな死んだらいい」とさえ思っていたといいます。しかし今、そんな彼が熱心に取り組んでいるのは、『職親(しょくしん)プロジェクト』と呼ばれる元犯罪者の更生支援。被害者家族でもある彼が、なぜ罪を犯した人に手を差し伸べ、やり直すチャンスを作っているのか―?その歩みを追いました。

妹を殺害された男性が手を差し伸べるのは、元犯罪者の少年たち 「実は最初、嫌でした。犯罪者なんか、みんな死んだらいいのにと…」

 ホームセンターで買い物をしているのは、建設業などを営む会社社長・草刈健太郎さん(50)と、少年院を出所したばかりの少年。少年の衣料品や日用品・仕事に使う道具など、次々とカートに入れていきます。

(カンサイ建装工業・社長 草刈健太郎さん)
「ワクワクやな。やっと仕事に出られるやん」

 支払いは、草刈さんのポケットマネー。少年院から出所したお祝いです。

 元犯罪者に“やり直すチャンス”を作っている草刈さん。実は、19年前に妹を殺された被害者家族でもあります。

(草刈さん)
「実を言うと、初めは嫌でした。犯罪者なんか、みんな死んだらいいのにと思っていました」

 そんな彼がなぜ、罪を犯した人たちに、手の差し伸べ続けるのでしょうか―。

 この日、大阪・阪南市にある少年院で草刈さんが話したのは、『職親プロジェクト』についてです。300を超える企業が少年院や刑務所を出た元犯罪者に職を提供し、更生支援を行う取り組みで、草刈さんは立ち上げから関わっています。

(草刈さん)
「“職の親”と書いて、仕事を皆さんに与えて、まぁ“親”になって皆さんの更生をしながら、会社の役に立ってもらおうと」

 草刈さんは、少年たちが語る夢を否定することはありません。

(草刈さん)
「何になりたい?夢、何かあるの?」
(少年)
「一応、動物園の飼育員」
(草刈さん)
「へー!すごいやんか」
(少年)
「そういう企業さんって、職親プロジェクトにあるのかなって」
(草刈さん)
「今はないけど、俺、知り合いでおるで。そのためには、勉強せなあかんかもわからへんしね。大卒しか採らないようなら、大学行かなあかんやろうし。一回、自分で調べたら?先生にも聞いて。頑張りや。な?」

3日ぐらいで辞めるかな…そう思いながらも受け入れた少年が、今では“会社の宝”に「刑務所の中で面接してもらった日のことは、一生忘れません」

 かつてはギャンブル漬けの生活で、金がなくなると盗みを繰り返していた飯尾康章さん(36)。窃盗罪で2年7か月服役し、出所後、草刈さんの下で塗装職人として働き始めました。

(草刈さん)
「めちゃくちゃキレイに塗れてる」

 ギャンブル依存症を克服し、一級塗装技能士の資格も取りました。

(草刈さん)
「ずっと黙々と仕事をやってもらっているので、ほんまにありがたいです。うちの会社の宝です。初めは、『多分3日ぐらいで辞めるかな』と思っていました(笑)」

 草刈さんが更生支援に関わり始めて、11年。これまでに30人以上の元犯罪者を雇用してきました。

 この日は、飯尾さんを『職親プロジェクト』の活動に誘い、宮城・仙台市にある少年院へ。

(草刈さん)
「彼は、ギャンブル依存症を脱却して、自分の努力で克服したので、そんな気持ちを今日喋ってもらえたらな、と」
(塗装職人・飯尾康章さん)
「こういう縁もあるし、恩を返したいと思うんです」
(草刈さん)
「十分、返してもらってるよ」

 犯罪白書によると、再び罪を犯した人の割合は47.9パーセント。また、再犯で服役した人の約7割が、無職です。

 飯尾さんは、少年たちに参考にしてほしいと、仕事の大切さを語り始めました。

(飯尾さん)
「なぜ仕事を辞めずにやってこられたかといいますと、はっきり言って苦労もあったけど、楽しかったからです。塗装の仕事は、平らな所をローラーで均等に塗ること。そして、細かい所をパケで丁寧に塗ることが大事です。私は、その塗った後の仕上がりを見て、きれいに塗れているか、どこかダメな所はないか、確認します。そして、きれいに塗れている時に、達成感があります」

(飯尾さん)
「みんな楽しい人ばかりで、私を心から支えてくれました。番頭さんや周りの職人さんが、いつも気にかけてくれるのが嬉しかったです。このような素晴らしい成長する場を与えてくれた草刈社長に、感謝しています。刑務所の中で面接してもらった日のことは、一生忘れません」

 刑務所の中で面接してもらった日―。それは、2014年のことでした。

(草刈さん/2014年)
「『自分、こんな所強い』って、ある?」
(飯尾さん/2014年)
「みんなに優しいと言われます」
(草刈さん)
「弱い所は?」
(飯尾さん)
「我慢が足りないですね」

(草刈さん)
「まぁ、見てる感じでは…仕事が務まるのかなって(笑)『できます!』ぐらい言うてよ」
(飯尾さん)
「大丈夫です」
(草刈さん)
「大丈夫?」
(飯尾さん)
「やれます」
(草刈さん)
「やれる?」
(飯尾さん)
「はい」

 精神的な弱さもありましたが、受け入れてもらえた飯尾さん。あの日の面接が、人生を変えるきっかけになりました。

妹を殺害された兄は、「犯人を殺すこと」を夢にまで見た…でも選んだのは、犯罪者を“支援”する道 その裏にある、切なる想い―

 草刈さんは、活動を始めるまで、犯罪者を憎んでいたといいます。

(草刈さん)
「私は、犯罪被害者家族の一人でもあるんです。2005年12月に、アメリカで妹を殺されました。自分自身、その相手をどうやったら殺せるんやろうばかり考えていました。自分の夢でしたから」

 草刈さんが見せてくれたのは、妹・福子さんと撮った写真です。

Q.いつの時ですか?
(草刈さん)
「20代前半ぐらい。俺、まぁまぁ良い体型してるな(笑)」

 草刈さんの妹・福子さん(当時25)は、米・ロサンゼルスで映画の脚本家を目指していましたが、アメリカ人の夫に殺されました。

Q.その日のことは、今でも覚えていますか?
(草刈さん)
「大変や、もう家帰ってきたら。飛行機乗るのも、ずっと泣きじゃくって…とりあえず、アメリカの妹の部屋まで見に行ったら、血みどろでした」

 殺害した理由について、アメリカ人の夫は当時「精神障害があった」などと主張しましたが、その後、裁判で有罪となりました。

(草刈さん/2005年、福子さんの葬式で)
「どのような理由があっても、人を殺めるということは、許されるものではありません。遺されている者は、どうなるんでしょうか…」

 妹のような被害者を生みたくない―。その思いが、再犯を防ぐための加害者支援に向かわせました。

大麻に手をつけた少年に差し伸べた手「どんな道行こうが、俺は絶対離さへん」

 「基礎知識が増えれば関わる人も変わり、悪さをする仲間から離れられるかもしれない」と、少年院で『公文式』を導入しました。半年間ほぼ毎日学習することで、社会へ出た時に必要な知識や忍耐力を身に付けてもらうことが狙いです。

(草刈さん)
「大学までいけるんちゃうか、このままのペースでやっていったら。できたら頑張って。悪いことせんと、な」

 1000枚以上のプリントを解いたことで、自信をつけた少年もいます。

(草刈さん)
「今から社会人になったら、“山あり谷あり”ある。でも、その中で、“山”から下りないでほしい。せっかく、ここまで登ったんやから。休憩しても、ええやんか。でも、山の上に登ったときの頂きを見たらええねん、いつか。一瞬で人間って変わるんやから」

 新たに少年を雇うため、兵庫・加古川市の少年院を訪れた草刈さん。防水工事の仕事をした経験がある19歳の青年・セイヤさん(仮名)と面接しました。

(草刈さん)
「何やったんやっけ?」
(セイヤさん)
「少年院に来た理由は、大麻。でも、やめる気はあります」

 セイヤさんは、公文式を受ける中で、草刈さんと知り合いました。

(草刈さん)
「以前、うちの現場の仕事、やってくれてたんや。頼むわ。今度はチームで、ファミリーで」
(セイヤさん)
「はい、よろしくお願いします」
(草刈さん)
「もし悪い道に行っても、こうやって知り合ったら、俺は絶対に離さへんで、悪いけど。どんな道行こうが、俺は絶対離さへん」
(セイヤさん)
「よろしくお願いします」
(草刈さん)
「頑張ってください。一緒に頑張りましょう。よろしく、ありがとう!」

 握手を求めた草刈さんに、セイヤさんは応えます。

(草刈さん)
「頑張ってください。ラストチャンスやで」
(セイヤさん)
「はい、頑張ります!」

働き始めて3日後に起きた、まさかの事態…「ほったらかしにして、一人ぼっちにして、無関心が一番あかん」

 数日後、会社の寮で、セイヤさんの歓迎会が開かれました。

(セイヤさん)
「草刈さんは、熱いというか人情があるというか。あまり今まで良い大人に出会えたことがなかったので。今は草刈さんとか親とか公文の人とか、支えてくれて応援してくれている人がいるし、それを裏切りたくないという気持ちが強いです」

 この日集まったのは、セイヤさんと同じように、少年院や刑務所を出て更生の道を歩んでいる仲間たち。

(草刈さん)
「もう悪いことすんなよ!全員でローソク吹こか」
(全員)
「3・2・1!フーッ!」

(草刈さん)
「悪いことすなよ、このケーキに誓って。ようこそ刑務所へ、違うで。ようこそシャバへ!」
(全員)
「ははは(笑)」

 仲間の一人が自作のラップに込めたのは、やり直していく決意です。

(少年)
「チャンスはあったそこら中に 気付けなかった内の一人 俺はもちろん いつも通りだから セロトニン浴びて張り切ってる Don’t cry 非行少年がチャンスを掴みに行くのさ」

 新しい仲間もでき、良いスタートが切れた……はずでした。

 セイヤさんは、3日だけ働いた後、突然仕事を辞めました。

(草刈さん)
「仕事が多分しんどかったのか、人的なトラブルで辞めますみたいな話ですよね…」

 これまでも、半分近くが仕事を辞め、再犯した人もいました。それでも、頼ってくれるのを待っています。

(草刈さん)
「一回裏切られるのは、もう当たり前。刑務所や少年院出た人間が更生してないと、一回裏切られたら『はい終わりです』と、ほとんど皆さん諦めてしまうと思います。でも、それをほったらかしにして、一人ぼっちにして、関わる人が周りにいなければ…やっぱり無関心が一番あかんと思うんです」

 無関心の積み重ねが、次の犯罪を生む―。妹・福子さんのためにも、草刈さんの更生支援は続いていきます。

(「かんさい情報ネットten.」2024年3月19日放送)

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