新型コロナワクチンの立役者にノーベル賞 不屈の研究者が見出した技術が“医療の未来”を変える
![新型コロナワクチンの立役者にノーベル賞 不屈の研究者が見出した技術が“医療の未来”を変える](https://news.ntv.co.jp/gimage/n24/articles/b35be7350c964f3db2a1dd39c0b69697/31aec070-ce32-4198-a35f-39eade83d5c3.jpg?w=1200)
今年のノーベル生理学・医学賞が2日発表された。受賞が決定したのは、ハンガリー出身のカタリン・カリコ氏とアメリカの大学のドリュー・ワイスマン氏。
2人は、多くの人が待ち望んだ新型コロナウイルスワクチンの開発の立役者とも言える。ワクチンの基礎となる「mRNA(メッセンジャーRNA)」の技術を発見したのだ。「mRNA」は、遺伝子の情報をコピーして運ぶ物質で、これまで、この「mRNA」を用いたワクチンは、体内に入れると強い炎症が起きるという課題があった。それを解決したのが、カリコ氏。カリコ氏は、mRNAを構成する物質を「シュードウリジン」という別の物質に置き換えると、炎症反応が抑えられることを発見。この技術が確立されていたことで、パンデミックから1年足らずで、ワクチンの実用化が成功したのだ。
■不遇の時代を経験するも…カリコ氏「科学者になることは楽しい」
東京にある日本科学未来館では、受賞決定後、カリコ氏の研究業績やその半生を紹介する展示が行われている。展示にはカリコ氏が自らメッセージを寄せていて、苦難や忍耐は人生の一部だと綴っている。展示の中には、札束とテディベアのレプリカも。そのテディベアは、カリコ氏の苦難に満ちた研究人生を物語るモノ。
カリコ氏は1955年、ハンガリーに生まれたが、当時、社会主義体制下で経済が停滞し、研究費が打ち切りに。研究を続けるため、30歳で家族とアメリカに移住することを決断。しかし、ハンガリーからの渡航には、家族3人でたった100ドルしか持ち出しが認められなかった。
そこでふと目にとまったのは、娘が持っていたテディベア。去年、NNNの取材に応じた際、「テディベアにお金を入れて、縫い直して、娘に渡したんです。娘に1000ドルくらいのお金をこっそり持ち出させたんですよ。そのおかげで、アメリカに到着した後、最初の給料がもらえるまでの1か月間、食べ物を買えて、生活することができました」と当時のことを振り返った。
アメリカでも研究の意義が理解されず、大学を転々とするなど不遇の時代は続いたが、世界中で新型コロナの感染が広がる中、カリコ氏らの長年の研究成果により、ワクチンの開発はわずか1年で実を結ぶことになった。
カリコ氏は、受賞後のインタビューでこう答えている。
「もっと科学の重要性を世の中に浸透させて、子どもたちに勉強して科学者になってもらいたいです。もっと多くの科学者が必要です。科学者になることは楽しいと(伝えたいです)」
■日本では研究の立ち遅れを指摘する声も
mRNAは、コロナワクチン以外にも、医療を変える大きな可能性を秘めている。軟骨や脳の病気の治療のほかがんの治療にも応用できると考えられている。ところが、日本では、研究規模や資金などの理由で世界から見ると遅れをとっていると指摘する研究者もいる。
今回のカリコ氏の受賞が、日本国内の研究を後押しすることになるか。医療の在り方や考え方を将来変えていく可能性を秘める研究、国内ではこれからが正念場だ。