2度の有罪判決も更生できなかった青葉被告 日本の再犯者率は48%…再犯防ぐ手立てはー【連載:京アニ事件ー傍聴席からの考察ー第6回】
5年前、京都アニメーション第1スタジオが放火され36人が犠牲となった事件。25日、殺人などの罪に問われた被告の男に判決が言い渡される。男は、過去に暴行事件や強盗事件を起こすなどし、2度も有罪判決を受けたことがあったが、更生できず重大犯罪の被告となった。日本の再犯者率は約48%と高い数字で推移を続けている。どうすれば再犯を防げるのか、ある遺族の活動を取材した。(報告:尾木水紀・阿部頼我・藤枝望音)
■「中の人はどうなってもいいと思っていたのか」「そうなります」被害者について問われ苛立ちも
殺人などの罪に問われている青葉真司被告は、京都アニメーションでの放火殺人事件の前にも2度逮捕されていて、2007年には、女性への暴行事件などで執行猶予付きの有罪判決を、2012年にはコンビニエンスストアでの強盗事件で懲役3年6か月の実刑判決を受けていた。
人を傷つける事件を起こしたことがあった青葉被告だが、今回の裁判の法廷でのやりとりからは、“傷つけた相手や家族の気持ちを考える想像力”は働かなかったことが垣間見える。
(妻を亡くした男性)「家族、特に子供がいることを知っていましたか?」
(青葉被告)「申し訳ございません。そこまで考えてなかったです」
(遺族の代理人弁護士)「中の人はどうなってもいいと思っていましたか?」
(青葉被告)「そうなります」
(遺族の代理人弁護士)「死んでもいいということですか?」
(青葉被告)「そうなります」
(遺族の代理人弁護士)「事件前ためらいがあったとのことだが被害者のことは考えなかった?」
(青葉被告)「自分の10年間のことに対して頭がいっぱいになり、被害者まで頭が回りませんでした」
(遺族の代理人弁護士)「死ぬのはわかっていたが、被害者の立場は考えなかった?」
(青葉被告)「逆にお聞きしたいですが、自分(の作品)がパクられたりしたことに対して、良心の呵責もなくただ被害者の立場だけで…」(※青葉被告は自分の小説を京アニに盗作されたと主張している)
(裁判官)「あなたが質問する場ではない」
被害者についての度重なる質問に対して苛立ちを見せ、裁判官から注意を受ける場面も見受けられた。
■刑務所で新制度 被害者や遺族の心情を加害者に伝えることが可能に
2023年12月から新たに始まったのが、「刑の執行段階における被害者心情の聴取・伝達制度」。被害者や遺族の心情を刑務所・少年院の中にいる加害者に伝えることができるものだ。
「被害者担当官」が設置され、被害者の心情を聞き取り書面にまとめたうえで加害者に読み聞かせをする。希望すれば、加害者が話を聞いた時の反応を被害者側に知らせることも可能だ。
これまでは、被害者側が面会を申し込むことは可能だったが、加害者が拒めば実現はしなかった。手紙を出すことも可能だったが、読まれたかどうか確認する術もなかった。
全国における再犯者率は、約48%(2022年・法務省調べ)と高い数字で推移を続けている。被害者の“悲痛な叫び”を伝えることで再犯抑止につなげることが期待されている。
■「命の重さに見合う罰則はない」亡き娘の思いを胸に刑務所で語り続ける遺族
2012年4月23日、京都府亀岡市で登校中の児童の列に車が突っ込み、3人が死亡、7人が重軽傷を負った。中江美則さん(60)は、娘とそのお腹にいた赤ちゃんを亡くした被害者遺族でありながら、刑務所で講演を行うなど、犯罪加害者の更生保護に取り組んでいる。
(中江美則さん)
「被害者はある日突然命を奪われ、家族たちも強制的に人生を終わらされ、遺族は一生悲しみの底で苦しみ、生き続ける。夢も希望も一切を断たれ、かたや加害者は希望を持って生きることが出来る。法に守られた刑務所で刑に服したことで、自分が犯した罪を償ったと思うのは大きな間違いやと思っています。命の重さに見合う罰則はありません。被害者たちと釣り合いが全くとれません。日々、深まる憎悪は制御不能で怒りを抑える術が見つかりません。復讐しかないのは当然でしょう。父親にとって一番苦しいことが起きてしまいました。みなさんやったら、どう思いますか。自分に置き換えたらどんなことをしても復讐したいと考えられませんか」
車を運転していた当時18歳の少年は、無免許の上、連日、遊び続けた末の居眠り運転で、懲役5年以上9年以下の不定期刑が確定した。
少年は事故を起こす以前から無免許運転を繰り返すなどし、保護観察処分を受けていた。この時に更生していれば、娘は死なずに済んだかもしれないという強い思いが、中江さんにはある。
元少年の刑期が終盤にさしかかるころ、中江さんたち遺族には、「地方更生保護委員会」で意見を述べる機会が設けられた。ただそれは、元少年の仮釈放の可否を判断するためのもので、自らの思いが元少年に伝わることはなかった。元少年は、2021年に出所したが、中江さんのもとに連絡はないままだ。
(中江美則さん)
「自分らは何年経っても憎悪から解放されません。法律から逃げられても人の憎しみから逃げられることはないです。僕は思うことがあります。刑務所では自由がないと思っていますか。みなさん、僕にとっては、うらやましいことに守られていると思います。守られながら罪を償っているのは何のためですか。誰のためですか。犯罪を繰り返すごとにその罪は悪化している事実もあると思うし、繰り返すと、こんな父親よりもっと地獄を自ら招いてしまうと思います。お願いやから、ここには戻ってこないで下さい」
(取材記者)
「印象的だった言葉は?」
(講演を聞いた受刑者・30代)
「復讐という言葉。私の被害者の方、ご家族の方も同じ目に遭わしてしまいたいという気持ちが本心なんだと。私は、10年ここにいるんですけど、犯した罪に釣り合わない生活、テレビを見て笑うこともあれば…そういう自分を恥ずかしく思いますし、復讐してやりたいという言葉がものすごく心に沁みる。自分の将来のことばかり考えていたのが本当のところで、(出所後の)仕事をどうするか考えていたんですけど、まずは謝罪の気持ちを持ってじゃないと自分の生活は成り立たないし、同じ再犯を犯すことになってしまうので、ここですべてもう一度人生をやり直すつもりで、被害者の方と正直向き合って、そのうえで自分の生活を成り立たせるようにと考えるようになりました」
講演の後、中江さんのもとには刑務所の中から手紙が届いた。更生保護の活動に少しずつ手ごたえを感じ始めている。
■取材を終えて...
中江さんの刑務所での講演を涙なしで聞くことはできなかった。被害者・遺族の“悲痛な叫び”を聞いて、心を動かされる加害者は決して少なくないであろう。
新制度には、心情を伝える被害者側のリスク軽減や「被害者担当官」の教育の充実など、課題もあるが、再犯の抑止、人の命が奪われるような“最悪の結果”を減らすことにつながればと切に願う。