「戦争に行って、死んで、日本を守る」 100歳超の双子姉妹“きんさん”が激怒した息子の憧れ 戦時教育に翻弄された若者たち 今でも残る“怒り”と“悲しみ”…

100歳超えの双子姉妹として大人気だった“きんさんぎんさん”。愛らしい表情が印象的でしたが、戦争のさなか、きんさんが息子の一言に激怒したことがあったといいます。戦争に行くのが当たり前だった時代に、きんさんが息子に伝えた思いとは…?
少年兵に志願した息子に激怒 「戦争に行くばかがあるか!」
1990年代、長寿の双子姉妹として日本中から親しまれた、名古屋市出身の成田きんさんと蟹江ぎんさん。2人が訪れる先には多くの人が詰めかけるなど、まさに国民のアイドル的存在でした。
2024年11月、取材班は成田きんさんが住んでいた名古屋市南区の自宅を訪ねました。出迎えてくれたのは、きんさんの息子・成田幸男さん(94)です。
笑顔で写るきんさんの遺影の前で幸男さんが語ってくれたのは、80年前の出来事。幸男さんの“ある言葉”をきっかけに、きんさんが激怒したといいます。
成田幸男さん(94):
「自分が少年兵に志願したんですよ。予科練とか少年航空隊に志願したら怒られちゃってね。『戦争に行くばかがあるか!』と怒られましたよ」
当時14歳だった幸男さんが憧れたのは海軍飛行予科練習生、通称「予科練」。14歳から17歳ぐらいまでの少年たちが、航空機に乗るための基礎訓練を受けるもので、約24万人が入隊。戦地に赴いた2万4000人のうち、8割にあたる約1万9000人の若者が特攻隊などで命を落としました。
成田幸男さん(94):
「あのころは予科練や航空隊に憧れてね。そういう教育だもんね。戦争に行くのが当たり前だった。国のために戦争に行って、死んで、日本を守るんだというのが普通だったもんね」
男は戦争に行くのが当たり前だった80年前。きんさんとぎんさんのきょうだいも戦争で命を落としたといいます。さらに、きんさんの息子2人も戦争へ。幸男さんまで戦地に行かせるわけにはいかないと、きんさんは必死で止めたのです。
成田幸男さん(94):
「国民に反する言い方でね。行けば死ぬことがわかっているから、子どもを死なせたくない。兄たちは兵隊に行っているので、いつ死んで帰ってくるかわからない。『お前まで行ったらどうするんだ』、家が空になるから(母親のきんさんは)そういう気持ちで言ったんでしょうね」
予科練の試験を受けたものの、幸男さんは体重が軽かったため合格できなかったといいます。
成田幸男さん(94):
「やはり行きたかったね。自分の友達も(予科練に)行ったので。当時は国のために死んでもいいんだという気持ちだった。ばかな気持ちだよね」
大切な子どもを戦争に行かせたくなかった成田きんさん。戦地に行った息子たちが帰ってきた時には…。
成田幸男さん(94):
「それは喜んでいました、『よく帰ってきた』といって」
兄たちに可愛がられていた幸男さんも、うれし涙が出たといいます。
「非国民だ!」と言っていた大人たちの態度は終戦で一変…
幸男さんと同じように予科練に憧れ、戦争に向かおうとした名古屋市守山区に住む大島一義さん(93)。
大島一義さん(93):
「当然のように、国のため家族のために男は戦争に行くんだと。いわゆる軍国少年でした。だから教育は怖いですね」
大島さんは予科練に入隊するため、8月15日の午前中に試験を受けて合格し、9月には航空隊に入隊する予定だったといいます。しかし、家族に報告したわずか30分後、終戦を迎えました。
戦争が終わった途端、大人たちの態度は一変。大島さんは、そんな大人たちに強い憤りを感じていました。
大島一義さん(93):
「腹が立って! 腹が立って! 非国民だなんだと散々脅かしておいて、終わってみたら、負けたら、知らん顔をして誰も何も言わない! なぜごめんなさいが言えないんだ! 子どもをこき使って散々やった挙げ句の果てに、大人が横を向いているなんて、もってのほかです! これには腹が立った!」
ゆがんだ戦時教育に翻弄された当時の若者たち。街は消え去り、怒りと悲しみだけが残りました。
戦後80年を迎える今年。幸男さんと大島さんは、今の若者たちには同じような辛い思いをしてほしくないと話します。
成田幸男さん(94):
「国の取り合いなんてなぜやるのか。人を殺し合って、自分も死ぬかもしれない。戦争は絶対ダメ! ばかがやること。人間じゃないですよ、戦争は」
大島一義さん(93):
「私たちのように時の流れに流されることなく、自信を持って生きてほしい」