特集「キャッチ」多国籍のプロ球団が佐賀に誕生! 言葉と文化の壁を越え「初勝利」目指す チームをつなぐのはインドネシア人の父と日本人の母を持つ22歳
■去年11月の発表
「新球団名はこちらです。」
去年11月、発足が発表された「佐賀インドネシアドリームズ」です。
佐賀県武雄市と嬉野市をホームタウンとし、九州のプロ野球独立リーグ「九州アジアリーグ」にことしから準加盟しています。
代表の福原佑二さんがこれまでに類を見ない球団を発足したきっかけは、インドネシアを訪れた際に見た野球の環境です。
■福原佑二代表
「ボールもバットもボロボロで、それでも一生懸命に笑顔あふれながら野球をする姿にすごく心を打たれたし、野球を東南アジアでも広げたいという気持ちがますます強くなった。」
チームを構成するのは、インドネシア、スリランカ、フィリピン、シンガポールと海外4か国に日本のあわせて5か国の選手たちです。
海外の選手は、仕事や学校を辞めて家族と離れ、単身で日本にやってきました。ほとんどの選手が母国で代表経験があるというドリームチームです。
しかし、このチームには1つ大きな課題があります。
■香月良二 監督
「コントロール。こっちに…なんて言ったらいいのかな。」
それが言語の違いです。ほとんどの選手に日本語が通じないのです。
そんなチームで、重要な役割を果たしている選手がいます。
■日本人選手
「『俺の球は絶対に芯に当たらない』という気持ちで投げてと伝えて。」
日本語をインドネシア語に通訳するのは、タカハシ・リッキー選手(22)です。インドネシア人の父と日本人の母を持ち、インドネシア語、日本語、英語を話すことができます。
■矢崎友規選手
「しっかり外国人との間に入ってくれるので、そこは本当にやりやすい。」
タカハシ選手はU18インドネシア代表に選ばれるほどの実力の持ち主です。野球で夢を追うために、通っていた大学を休学してまで入団を決めました。
■タカハシ・リッキー選手
「僕は休学まで選んでここに来て、何も得ずに帰るというのはめちゃくちゃダサいんじゃないか。ドリームズの初開幕・初試合・初スタメン・初打席・初ヒットみたいな、全部『初』が付くような成績は出したいと思っています。」
違いを尊重しながらの寮生活
言葉だけではなく宗教も異なる海外の選手たちは、地元の企業が無償で提供する佐賀県嬉野市の寮で生活をともにしています。
寮のキッチンには多国籍チームならではの工夫があります。
■タカハシ選手
「ムスリム(イスラム教徒)の人は豚がダメなので、基本そっちのコンロはムスリムの人で、こっちは食べ物の制限がないので、スリランカ人が使うという感じ。」
冷蔵庫にもイスラム教徒専用のスペースがあるなど、それぞれの生活を尊重できる工夫が詰まっています。
開幕を5日後に控えたこの日、本拠地、ひぜしんスタジアムで初戦のメンバーを決める紅白戦が行われていました。普段は仲が良い選手たちも、グラウンドではそれぞれがライバルです。
タカハシ選手の目標であるスタメンに名を連ねるには、この試合で結果を残さなければいけません。
■タカハシ選手
「あー、もう野球やめたい。」
守備・打撃ともに見せ場を作ることはできませんでした。プレーヤーとしての目標に加え、チームの言葉の架け橋になる。気づかぬうちに大きな責任を背負い込んでいました。
そんなタカハシ選手に寄り添ったのは、キャプテンのリズキー選手です。ライバルも苦しいときは互いを支え合う仲間です。来日から1か月足らずですが、少しずつ結束力を強めていました。
4月13日、迎えたチーム初陣の日です。
■審判
「プレイ。」
佐賀インドネシアドリームズにとって、歴史的な一戦が幕を開けます。この試合、タカハシ選手の姿はベンチにありました。
■タカハシ選手
「切り替えて、ベンチでできることはやっていきたいなと。」
初戦での白星を目指すインドネシアドリームズですが、初回から連打を浴び3点を失います。
その裏、インドネシアドリームズの攻撃、打席には1番のサミーラ選手。いきなりチーム初ヒットが飛び出します。しかし、後続は続かず無得点でした。
その後は相手の勢いを止めきれず、点差を離されていきます。
6回、一矢報いたいインドネシアドリームズは先頭打者がヒットで出塁しました。
ここで打席に向かったのは、代打・タカハシ選手です。
■タカハシ選手
「つなぐ意識しかなかった。」
タカハシ選手は積極的にバットを振ります。そしてカウントは3ボール、2ストライクとなった6球目。変化球に手が出ず、見逃し三振となりました。
■タカハシ選手
「まずはエラーも多かったし、自分の長所が全然アピールできなかった。自分に怒りが。」
チームも反撃できず、終わってみれば17対0の大敗でした。しかし、この1戦はこれまでプロ球団が無かった佐賀県の子どもたちの目に強く焼き付けられていました。
■地元の小学生
「球が速かったり守備がうまかったりした。」
「声をかけたらいつも反応をしてくれたり、ボールもくれたりして優しかった。」
プロ野球選手として子どもたちの憧れであり続けるために。そして、これからも応援してもらえるチームであるために。選手たちはより一層強い覚悟で初勝利を目指します。
■タカハシ選手
「応援してもらうためには、強いチームであったり、うまくて勝てるチームじゃないといけないので、まずは1勝して少しでもファンや応援してくれる人が増えるようにしていきたい。」
東南アジア出身選手たちの、佐賀を舞台にしたジャパンドリームは、まだ始まったばかりです。
※FBS福岡放送めんたいワイド2024年5月8日午後5時すぎ放送