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【ラオス現地取材】福岡市出身の看護師が見た医療の最前線 甲状腺の手術を支援 子どもの死亡率の高さも課題 

2024年2月27日 20:06
【ラオス現地取材】福岡市出身の看護師が見た医療の最前線 甲状腺の手術を支援 子どもの死亡率の高さも課題 
福岡市出身の看護師がラオスで見た医療の現場

東南アジアにあるラオスという国をご存じでしょうか。タイやベトナム、そして中国と国境を接する、人口750万あまりの小さな国です。経済的に豊かとはいえないこの国で、大切な命を救おうと最前線の現場に臨む福岡市出身の女性がいます。

福岡市出身の髙栁玲香さん(28)は大学を卒業後、看護師・保健師として5年あまりキャリアを積みました。

コロナ禍の激務が一段落した去年8月、国内外で医療支援活動をするNGOジャパンハートに転職し、単身、ラオスに赴任しました。

■NGOジャパンハート・髙栁玲香さん(28)
「オペ(手術)室の仕事もすごい好きで、保健師の仕事もすごい好きで、どっちもできる仕事ないかなってずっと思ってて。そうしたらジャパンハートの求人、ラオスの求人を見つけて。自分のためだけにやりたいことを、そこに直進していくことが多分、最後かもしれないなって思って。」

東南アジアの国、ラオス。王朝時代の数多くの寺院が残る古都・ルアンパバーンは世界文化遺産に登録され、アメリカのニューヨークタイムズで「世界で一番行きたい国」に選ばれたこともあります。

そんなラオスで髙栁さんが活動する拠点の一つが、中国国境に程近い山岳地帯に位置するウドムサイです。

ことし1月末から2月にかけて、日本の甲状腺治療の第一人者の医師2人がウドムサイにやってきました。
治療と医療技術を教えることが目的です。

診察を受ける患者の首には大きなこぶがあります。ラオスにはこのような人が少なくありません。

■伊藤病院(甲状腺疾患専門)北川 亘 医学博士
「ヨード欠乏地域は、甲状腺腫が大きい患者さんが多い。昆布類などでヨ ードをまず摂取しない地域な ので、その影響が一番大きいのではないか。甲状腺腫が大きくなると空気の通りが悪くなりますので、呼吸が苦しくなったり。」

ジャパンハートはラオスで甲状腺の医療支援に力を入れていて、今回のミッションは複数の重症患者の甲状腺を摘出する手術です。

病院には手術の前から患者家族が多く訪れますが、お見舞いだけではありません。この病院では患者が入院しても食事は出ず、家族が炊事をして食事などをケアするのです。

退院までの間、家族の多くは病院の敷地内に野宿しますが、それでも命が救われるのならばと野宿もいとわないのです。

ラオスは共産主義による一党指導体制の政治背景もあって、中国との関係は親密です。2021年には首都ビエンチャンと中国とを結ぶラオス・中国鉄道が開業しました。ウドムサイにもこの鉄道の駅はありますが、車で10分も行けば、舗装されていない道に茅葺屋根の建物が見られます。

世界銀行のデータによりますと、ラオスの国民1人あたりのGDPは2088ドルと日本の1割もありません。経済力の弱さは医療にも影を落としています。

■髙栁さん
「医療費はほぼ全額自費ですよね。 一応、医療保険はあります。でも、医療保険の診療報酬を政府が3年くらい払えていなかったり、病院の財源がないんですよね。」

日本人医師が手際よく手術を進めるかたわら、髙栁さんは円滑に手術が進むよう手術の器具を速やかに手配しつつ、ラオス人の医療従事者に今すべきことを細かく指示します。

■髙栁さん
「ガーゼ数えてもらえる?」
「メスくださーい!」

■北川医師
「ジャパンハートが日本内分泌外科学会と一緒にやっているのですが、現地のドクターに甲状腺の手術を指導する。なるべく現地の先生にやっていただくということが主旨です。」

今回は患者9人から甲状腺を摘出し、このうち4人はラオス人医師が執刀しました。

髙栁さんがラオスで甲状腺手術指導に立ち会うのは2回目ですが、初回と比べてラオス人医療従事者は確実に成長していると高栁さんは感じています。

■髙栁さん
「オペ室の看護師さんが前回やったことを覚えてくれて、そのままやってくれていたのはびっくりしました。」

ラオスでの医療技術支援ははじまったばかりです。高栁さんがさらに深刻な課題と考えているのが、小さな子どもたちの死亡率の高さです。

ユニセフ世界子供白書によりますと、ラオスは2021年、5歳未満の子どもが1000人あたり43人死亡し、東南アジア諸国で最悪となるなど、医療が行き届いていない現状があります。

■髙栁さん
「必死にお金を集めて病院を受診しても間に合わなくて、何もできませんって言われて帰る子どもたちが多いのがラオスの現状です。こういう国こそ公衆衛生が必要で、単純に感染性の胃腸炎で亡くなる子たちってやっぱりある程度、防いでいける。より多くの人にとなると、公衆衛生の力なのかなと。」

ラオスで直面した、日本では感じたことのない命の危機。看護師として保健師として、命を救うためにできることは。髙栁さんの奮闘の日々が続きます。

髙栁さんによりますと、ラオスでは手洗いの習慣もないということです。まずは衛生管理が病気を防ぐと伝えたうえで、甲状腺の患者には、首を石けんできれいに洗えば術後の感染予防になることを、そして子どもには手を洗うことを地道に指導したいと話しています。