【博多ストーカー殺人】男が法廷で語ったこと 被告人質問の内容を詳しく③「終わったな、人生が」「死のうと思ったが怖くて」裁判員も質問「被害者に声をかけたのはなぜ」
JR博多駅近くで元交際相手の女性をストーカー行為の末、包丁で何度も刺し殺害した罪に問われた男の裁判員裁判は、検察が懲役30年を求刑して24日、結審しました。28日に判決が言い渡される予定です。男は法廷で何を語ったのか。これまでの被告人質問でのやりとりを詳しくお伝えする3回目です。
殺人とストーカー規制法違反などの罪に問われているのは、住居不定、無職の寺内進被告(32)です。
起訴状などによりますと、寺内被告は2023年1月16日午後6時すぎ、博多駅近くで、勤務先から帰宅中の福岡県那珂川市の当時38歳の会社員の女性を待ち伏せし、胸や背中、頭や首を刃渡りおよそ24センチの包丁で10数か所刺して殺害した罪に問われています。
検察は「一片の慈悲もなく残忍極まりない。短絡的、自己中心的な動機に酌量の余地はない」として、寺内被告に懲役30年を求刑しています。
一方、弁護側は「被告は被害者と偶然会い、待ち伏せはしていない。包丁は護身のため持ち歩いていたもので計画性はない」と主張し、殺人については認めるものの、ストーカー規制法違反については無罪だとして懲役17年が相当としています。
19日午前10時、福岡地方裁判所で寺内被告の裁判員裁判の3日目の審理が始まりました。
寺内被告は、1日目、2日目と同じ紺色のジャージーに灰色のデニム姿、白いマスクをつけて法廷に現れました。この格好は24日の論告求刑公判まで変わりませんでした。
この日はまず、事件の現場を目撃した女性が寺内被告が「ふざけんな」「この野郎」と抑揚のない声で繰り返しながら、被害者を淡々と刺していたなどと証言しました。
午前11時半ごろから弁護人による被告人質問が始まりました。語られたのは寺内被告の「断片的な記憶」です。
弁護側「きのうまでの裁判で記憶がよみがえったところはありますか。」
寺内被告「(現場で)傘を置いたときとかトートバッグを置いたときとか。」
弁護側「傘を置いたのはコンビニ前の路上に置いたときですか。」
寺内被告「はい。」
弁護側「どうして雨なのに下ろしたんですか。」
寺内被告「分かりません。」
弁護側「記憶はあるんですか。」
寺内被告「はい。」
弁護側「トートバッグを道路に置いたのはなぜですか。」
寺内被告「分かりません。」
弁護側「傘やトートバッグを置いた時の被害者の様子は。」
寺内被告「分かりません。」
弁護側「トートバッグの包丁を取り出した記憶はありますか。」
寺内被告「あります。」
弁護側「言い争った時、(包丁を)手に取ったのはなぜですか。」
寺内被告「分かりません。」
弁護側「手に取った後はどうしましたか。」
寺内被告「刺した。」
弁護側「刺した記憶はありますか。」
寺内被告「多少はですけど。」
弁護側「どこを刺したか、記憶は戻ってこなかったですか。」
寺内被告「どうなんすかね、刺したのは刺したんで、どこを刺したとかは覚えてない。」
弁護側「記憶では何回刺しましたか。」
寺内被告「何回でしょう、10回くらい?」
弁護側「どこを刺しましたか。」
寺内被告「分からない。」
弁護側「記憶にない?」
寺内被告「はい。」
弁護側「被害者がスマホを持ってる様子の記憶はありますか。」
寺内被告「はい。」
弁護側「被害者は何しようとしていましたか。」
寺内被告「110番電話する感じ。」
弁護側「通報しているように見えた後の記憶はありますか。」
寺内被告「ないっすね。」
弁護側「110番する様子が見えたからトートバッグの中に手を入れた?」
寺内被告「どうなんすかね、分かんない。」
「刺してしまった」→牛丼店へ
記憶がないと答えることも多かった寺内被告ですが、口論の最中、被害者が通報しようとする様子を見た後、事件が起きていたことが分かりました。
弁護側「その後、はっきりしているのはどんな記憶ですか。」
寺内被告「川沿いに行った記憶。」
弁護側「突き刺した後ですよ。被害者が倒れているのを見た記憶はありますか。」
寺内被告「はい。」
弁護側「どんなふうでしたか。」
寺内被告「背中を向けて。」
弁護側「うつ伏せということですか。」
寺内被告「はい。」
弁護側「被害者はどんな様子でしたか。」
寺内被告「倒れている状態。」
弁護側「それを見た時の自分の様子や体勢は。」
寺内被告「覚えてません。」
弁護側「突き刺したという包丁はどこにありましたか。」
寺内被告「トートバッグの中。」
弁護側「気づいたらトートバッグの中にありましたか。」
寺内被告「はあ。」
弁護側「握っている記憶はないですか。」
寺内被告「はあ。」
弁護側「道路に倒れている被害者を見て、自分が包丁を握っている記憶はありますか。」
寺内被告「ありますね。」
弁護側「どっちの手に持っていましたか。」
寺内被告「右利きなんで右に。」
弁護側「柄の部分はどんなふうに握っていましたか。」
寺内被告「こういうふうに。」(※逆手に握るジェスチャーをする)
弁護側「被害者と、包丁を持っている自分を見て、何が起こったと思いましたか。」
寺内被告「刺してしまったと。」
弁護側「被害者はどういう状態だと思いましたか。」
寺内被告「倒れている状態で分からない。」
弁護側「死んだと思いましたか。」
寺内被告「死んでしまったと思った。」
弁護側「殺してしまったと思いましたか。」
寺内被告「はい。」
その後、走って逃走する寺内被告の姿が、現場付近の防犯カメラの映像に残っていました。どこに向かったのかも、質問で明らかになりました。
弁護側「その後、川沿いに向かいましたか。那珂(なか)川の。」
寺内被告「はい。」
弁護側「(事件現場の)コンビニから川沿いまで距離がありますが、どこかに寄ったりはしましたか。」
寺内被告「牛丼店に行った。」
弁護側「どこのですか。」
寺内被告「博多警察署の近くの。」
弁護側「コンビニから歩いて?走りましたか。」
寺内被告「分かんないっすわ。」
弁護側「牛丼店に行ったのはなぜ。」
寺内被告「タバコ吸って落ち着くため。」
弁護側「やばい、やばいと思ったということですか。」
寺内被告「はい。」
弁護側「やばいとは?」
寺内被告「やってしまった。」
弁護側「牛丼店に入ってタバコを吸ったんですか。」
寺内被告「はい。」
弁護側「どこで。」
寺内被告「トイレで。」
弁護側「何本ですか。」
寺内被告「3本くらい。」
弁護側「吸いながら、どういうことを考えましたか。」
寺内被告「終わったな、人生が。」
弁護側「被害者の?あなたの?」
寺内被告「どちらとも。」
弁護側「川沿いは、目指して行きましたか。」
寺内被告「目指しました。」
弁護側「どうして川沿いを目指したんですか。」
寺内被告「そんなん知らん。」
弁護側「川沿いに着いて、それからどうしましたか。」
寺内被告「(持ち歩いていた)もう1本の包丁で死のうと思ったけど死ねなくて、川に(包丁を)投げ捨てて泣いてました。」
弁護側「護身用の2本のうちの1本と思うが、刺した包丁はその後どうしましたか。トートバッグにありましたか。」
寺内被告「はい。」
弁護側「いつ入れたんですか。」
寺内被告「いつ?刺した後、コンビニの前。」
弁護側「川沿いに行って死のうと思って、具体的にどんな行動をとりましたか。」
寺内被告「胸を刺して死のうと思ったが、怖くてできなかった。」
弁護側「刺した包丁ではない方で。」
寺内被告「はい。」
弁護側「その包丁はどうしましたか。」
寺内被告「川に捨てた。」
弁護側「なぜ。」
寺内被告「分かりません。」
弁護側「刺した包丁はトートバッグに入っていましたが、なぜですか。」
寺内被告「自首する時に必要だと思って。」
弁護側「死のうと思ったが死ねずに泣いたんですか。」
寺内被告「はい。」
弁護側「どのくらいの時間ですか。」
寺内被告「2時間か3時間くらい。」
弁護側「どういうことを考えましたか。被害者のこと?」
寺内被告「考えるっすね。ほんまにごめんていう気持ちですわ。」
弁護側「すぐに自首しなかった。」
寺内被告「はい。」
弁護側「河川敷で過ごした後、どうしましたか。」
寺内被告「コインランドリーに行った。」
弁護側「16日(事件当日)の夜、どこで寝ましたか。」
寺内被告「漫画喫茶です。」
弁護側「17日はどう行動した。」
寺内被告「お世話になった人としゃべって。」
弁護側「どうして会いに行った。」
寺内被告「それは言えません。」
弁護側「自首する前に別れを言おうとしたんですか。」
寺内被告「はい、犯行のことは言ってないですけど。」
弁護側「逮捕の前日(17日)はどこに泊まったんですか。」
寺内被告「コインランドリー。」
弁護側「18日は昼前に職務質問されましたね。その前はどこにいたんですか。」
寺内被告「後輩の店で後輩としゃべって、一緒に自首しましょうと(言われた)。」
弁護側「どんな話をしたんですか。」
寺内被告「人を刺したんですか、ニュースになってますよと言われました。」
弁護側「どう答えましたか。」
寺内被告「もう自首するしかないと。」
弁護側「18日の何時ごろですか。」
寺内被告「朝6時か7時くらい。」
弁護側「その足でどうして自首しなかったんですか。」
寺内被告「夜にしようと、後輩が。一緒に自首しましょうと。」
傷は17か所「そんなに刺したんやって」
次第に声が小さく聞き取りにくくなった寺内被告。2時間近く昼の休廷を挟んで、弁護側の被告人質問が再開されました。
弁護側「気づいたら包丁を持っていたというが、手を伸ばしたのは覚えていますか。」
寺内被告「はい。」
弁護側「刺し傷が17か所と言われてどう思いましたか。」
寺内被告「そんなに刺したんやって。」
弁護側「刺した記憶はありますか。」
寺内被告「ほとんどないですけど、背中を刺した記憶はあります。」
弁護側「18日の昼前に警察に職務質問されました。どう思いましたか。」
寺内被告「たぶんほっとしたと思います。」
弁護側「職質されて逮捕されて、ほっとしたのはどういう心境ですか。」
寺内被告「捕まって、何て言えばいいか…分かんないですけど、捕まって良かった。具体的な内容は何て言えばいいのか分からん。」
弁護側「逮捕された1月18日という日にちで思うことはありますか。」
寺内被告「はい。被害者の誕生日って聞いてびっくりしました。」
弁護側「警察から聞きましたか。」
寺内被告「はい。」
弁護側「誕生日とは知りませんでしたか。」
寺内被告「はい。」
弁護側「つきあって1年未満だからですか。」
寺内被告「そうですね。」
弁護側「どういう心境になった。」
ここで寺内被告は30秒余り、沈黙しました。そして絞り出すように「申し訳ない」と答えました。
弁護側「普通はお祝いする日ですね。」
寺内被告「はい。」
弁護側「事件から1年半近くたつが、被害者を殺めたことをどう考えていますか。」
寺内被告「母親の権利を奪ってしまったこと、子どもの成長を見ることができない。幸せな家庭を俺が潰してしまった。申し訳ない。」
弁護側「母親としての権利ですか。」
寺内被告「はい。」
弁護側「子どもの成長を見守ったり、今後の人生を見ること。」
寺内被告「はい。」
弁護側「(被害者の)子どもにも申し訳ないと。」
寺内被告「はい。」
弁護側「被害者もしくは被害者の家族にどう償いますか。」
寺内被告「刑務所で金貯めて償いたいと。」
弁護側「今はお金がないから無理だが、刑務所でお金を貯めて受け取ってもらうということですか。」
寺内被告「はい。」
「声をかけたのはなぜ」裁判員の質問に
被告人質問は4日目となる6月21日にも続きました。この日は裁判官や6人の裁判員から、寺内被告に質問が投げかけられました。
裁判員2番「黒いトートバッグに包丁が2本入っていることを被害者はご存じでしたか。」
寺内被告「ご存じではないですね。」
裁判員2番「被害者は常に持っていることは知らなかったんですか。」
寺内被告「知らなかった。」
裁判員6番「事件当時は金がなく、苦しかったと言っていましたが、事件前日に友人と飲んだ時はお金はどうしたんですか。」
寺内被告「おごってもらってましたね。」
裁判員6番「(事件後に行った)後輩の店でもですか。」
寺内被告「そうですね。」
裁判員6番「事件前のパチンコではどのくらい使いましたか。」
寺内被告「5000円です。」
裁判員6番「結果はどうでしたか。」
寺内被告「負けましたね。」
裁判員3番「禁止命令後は会わないようにしていたのに、事件当日、被害者を避けずに声をかけたのはなぜですか。」
寺内被告「それは分かりませんね。」
裁判員4番「被害者と会ってついて歩いていた、その時、ついて歩いたり話したりしたらダメと思っていましたか。」
寺内被告「その時はそうですね…自分も興奮していて。」
裁判員4番「被害者と歩いている時、『ストーカーに当たる』『警察に通報する』などと言われましたか。」
寺内被告「そういうニュアンスで言われたと思うが、はっきり覚えていません。」
裁判員3番「事件後、すぐ自首しなかったのはなぜですか。」
寺内被告「頭が真っ白になって、どうすればいいか自分でも分からず、早めにしとけば良かったんですけど、行けなかったという気持ち。」
裁判員の率直な質問に対し、寺内被告も素直に答えているように見えました。最後に、冨田敦史裁判長が体調について尋ねました。
裁判長「去年1月(事件当時)と、ことし6月、当時と今の違いは健康面でありますか。」
寺内被告「そうですね、人としゃべっていない分、何て言うか。」
裁判長「話ができなくなった?」
寺内被告「会話が分からなくなった。」
裁判長「バーで働いていたころはどうでしたか。」
寺内被告「ペラペラとしゃべってました。」
裁判長「体力はどうですか。」
寺内被告「ガリガリになりました。」
裁判長「どのくらい痩せたんですか。」
寺内被告「4~5キロくらい。」
裁判長「当時は体を鍛えていたんですか。」
寺内被告「鍛えてはいなかったんですけど、筋肉がありました。今は痩せて骨がポキポキって鳴ったりします。」
裁判長「気力や精神的な面はどうですか。」
寺内被告「精神的にも、ちょっと人見知りみたいになった。」
4日間にわたって行われた寺内被告への被告人質問は、こうして終わりました。短く一言で答える場面が多く、くぐもった声は質問が続くと小さくなりましたが、声のトーンが変わることはほとんどありませんでした。寺内被告が当時、何を考え、どんな感情を抱いていたのか。すべてのやりとりを聞いた記者の中で、その答えは焦点を結ばないままでした。